富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

Dans une nouvelle ère d'anarchie

辰年正月晦日。気温摂氏▲1.0/10.0度。強風(15.9m)。晴。水戸の梅まつりに合せ週末、弘道館公園で八卦堂と孔子廟特別公開あり。この週末まで。

弘道館記碑は徳川斉昭(烈公)の選文による書で藩校弘道館の教育の基本を示したもの。弘道館開設と同時に建立された、常陸太田産の寒水石(大理石)の石碑(高さ3.1m)。寒水石は風雨による浸食をうけ易いため(では何故にそれを用ゐたのか、このへんが水戸らしくよくわからない)当初から覆堂が設けられた。八角の堂は各面の上欄に八卦(易)の算木取付けられてゐたため八卦堂とい。創建時の八卦堂は昭和20年8月の空襲で焼失し石碑も破損あり。昭和28年に八卦堂再建。戦後の調査で弘道館記碑も以前に補修ありと判明。墨拓で碑文は見てゐたが八卦堂の開門で現物は初見。


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孔子廟も現存の弘道館本館敷地隣接だが塀に囲まれ施設(有料)内部からは入れず通常非公開。弘道館の正門は東(水戸城本丸)の方を向くが孔子廟は曲阜の方角を向いてゐるのださう。長崎の孔子廟も同様だが湯島聖堂はもつと南向きか。


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弘道館公園(第二公園)の梅も満開の盛りを過ぎて花びらが強い風に舞ふばかり。

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神崎寺掃墓。昨日先考命日だつたが朝から悪天候で墓参りできず。午後は水戸市民会館で茨城県弁護士会主催の会合あり末席を汚す。

憲法改正問題に取り組む全国アクションプログラム「大軍拡と経済~防衛費と私達の暮らし」|茨城県弁護士会

憲法改正について。憲法憲法で改正が認められ手順が定められてゐるが実際に憲法改正目指す動きがあるなかで日弁連としては全国的に憲法について先づはよく知らうといふことで勉強会を開催。その一環がこれ。その意図そのものは公正中立だが(公正中立なら良いといふものでもないが)日弁連だから産経新聞が叱るやうに左傾で基本は現行憲法尊重で護憲の立場。

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講師は山田博文氏(群馬大学名誉教授)で経済学が専門の先生。著作の出版元は新日本出版社と大月書店だから、わかりやすいかも。県知事選に代々木推薦で地元の国立大学の先生が出るみたいな。日本は国家財政破綻の危機たる債務超過のなかで軍備増強で軍事費増額ができるのか。米国と日本の軍需産業企業に利益もたらすだけで東アジアの緊張高め米国追従で良いのか。近隣の大国たる中国の対日貿易や市場の大きさなど考慮すれば対米よりも対中こそ重視すべきで東アジアの安定図るためには日本はEUのやうな東アジアの平和的な同盟関係の構築など考へるべき。理想的にはさうだらう。だが現実として日米地位協定に象徴される日本の対米での地位は米国従属しか認められておらず。また中国も習近平体制の強権独裁と、その今後のリスク、また経済成長の鈍化(どころかマイナス)など考慮すべき点はいくらでもあるのだが本日はそれについて一切言及なし。これからはアジアの時代とはとても期待で叫ぶことはできない……なんて感想を抱きながら、この会合のあと市民会館の一角で水戸芸術館眺めながらアタシが読んでゐたのは岩波書店『世界』4月号なのだから「日弁連の護憲集会に参加とは」と嗤はれても致し方ないか。『世界』は十年以上講読中断してゐた。何だかいつも論調が同じ気がして「タイトル見れば中身がわかる」と築地H君と同意。それでも今年1月の紙面リニューアルで購読再開。


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市民会館はフリースペースで勉強に来る高校生らで賑はつてゐて高齢者がそこに割り込むのも憚れるところ。だがグロービスホール(大ホール)でイベントがないとホールの広いホワイエは外の眺めもよく窓際に椅子席が並び快適。水戸市民会館のご立派なところはホール、ギャラリーと音楽室など除き館内での飲食は自由。オープン前の内覧の機会に職員に尋ねたところアルコール類だからダメといふ規定もない。セコマで購入の白ワイン(小瓶)飲めば一人でコンサート幕間気分。母と京成百貨店で待ち合はせ強風なので歩くのも憚れタクシーで大工町。Y寿司。家人も来てK先生夫妻と会食。K先生はアタシの中学のときの担任。亡父が生前に仲良くしてゐて昨日が命日、明日がK先生誕生日なので今晩となつた。

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岩波書店世界 2024年4月号』で特集(トランプふたたび)の鼎談「なぜトランプなのか - 極端化と幻想の果てに」一読の価値あり。イスラエルの問題になると「穏健派」でも国際社会の圧倒的多数による停戦要求を無視。ガザ聞きは「超党派アメリカ」の問題を露呈。バイデンがガザ危機対応できるとは思へずトランプなら、といふ期待。民主党左傾化

民主党に穏健・中道派が残っていれば、共和党の穏健・中道派もごランプの影響力をそぐために一期くらいは民主党の穏健派に大統領をやらせてもいい、ビル=クリントンあるいは以前のバイデンだったら、そう思わせたかもしれません。しかし共和党からすると今の「サンダース化したバイデン」は論外で、バイデンに不測の事態があればハリス政権という彼らにとっての悪夢になる。すると消去法でトランプのほうがマシとなるわけです。(渡辺将人)

選挙をやればやるほど国内の分裂を深め、対外的に民主主義の魅力を全く見せられてゐない米国。海外からは「世界の盟主」として振る舞ひ、すぐに軍事力に訴へるアメリカこそが秩序を破壊してきたと思はれる。今日の講演でも「米中を比べたら中国の方が突然、軍事力で攻撃してこないだけ米国とりマシと思はれてゐる」といふ話あり。確かに。そしてこの鼎談で日本についてのコメント(遠藤乾)も重要。

日本のリベラルの弱さは、日本は平和と安全のためにどこにステーク(掛け金)をかけていったらいいのかというリアルな議論ができていないことにあると思います。

民主党から共産党まで、中道左派から左翼までこれは事実だらう。所謂「保守」がしつかりしてゐれば保守の修正促す意味で所謂「革新」が騒ぎ中道がキャスティングボード握ればバランスが取れたのだが、そんなのは昭和、前世紀の調和の時代のこと。保守は崩壊して保守の右に晋三や維新、トランプのやうな「革新」が現れ本来の保守と中道(米国でいへば共和党)が立ち位置失ひ全体がそちら(保守とはいはない)に傾いた結果、従前の中道左派から「革新」は伝統的な左傾の立ち入り固守するだけ「保守」なのだが、その保守も現状に争ふだけの力ももはやない。

樋口陽一先生も今年、卒寿迎へられる。新刊のこちら『戦後憲法史と並走して - 学問・大学・環海往還』(岩波書店)は幼い頃からの回顧録と先生の重要な判断基準を述べたもの。戦後の憲法「史」と並走して、どころかまさに戦後の現行憲法そのものと並走して、だと思ふ。聞き手はおそらく先生の最も優秀な門下である蟻川先生(東大法学部の憲法学で残つたのは石川先生、で自民党の西村某などといふ不肖な門下もゐる)。今日は前書きを読んだ程度。

70年代、国内は「経済大国」化と利益集団多元主義、国際規模では東西緊張の緩和(デタント)で始まり、南北問題については一定の期待とその破綻がありました。1989年のフランス革命200年記念の学際大会で私の報告*1がひとつの反響を得たとき、それは、戦後民主主義の安定と国際新秩序の到来を思わせる中でのことでした*2。しかし実はそれと間を置かず、内は「戦後レジーム」の解体、外では国際「新・無秩序」へと移行しながら21世紀へとなだれ込んで今日に及んでいる、というのが私の基本的な見立てです。

まさに戦後の高度経済成長からの日本の状況をさすが樋口先生が簡潔にまとめてゐる。この国際「新・無秩序」のなかでいかなければいけないのか。本日は弘道館の水戸学から孔子廟儒教)、午後の弁護士会の勉強会、『世界』にあつた「日本のリベラルの弱さ」から樋口先生のこのコメントまで(悲観的にすら思へた状況も含め)いろ/\考へさせられることが続く。

戦後憲法史と並走して 学問・大学・環海往還

この「新・無秩序」の時代にあるからこそ自分自身だけでもせめて自律神経をきちんと率いてゐるしかないのだらう。

*1:Yoichi Higuchi, "Les quatre〈quatre-vingt-neuf〉 ou la signification profonde de la Revolution frans:aise pour le developpement du constitutionnalisme d'origine occidentale dans le monde", L'image de la Revolution Jran,a'ise, dirige par Michel Vovelle, t. 1, Pergamon Press, 1989, pp. 989-994.

*2:フランシス=フクヤマ『歴史の終わり』も同じやうな当時の認識に基づくものだらう。