富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

第一回観世流太鼓職分会

辰年正月初三。気温摂氏▲0.1/11.5度。晴。常磐線の特急で体調不良の乗客がゐて石岡駅に臨時停車でこの乗客降ろし特急は定刻より10分の遅れ。特急列車は少しでも遅れ取り戻したいのか通常だと特急でも運転速度が遅くなる取手以南でも(スマホGPSで見てゐたら)柏駅通過時が120km/hで柏〜松戸間も128km/hを出して北千住駅通過も100km/hだつた。ホームは柵もないのだから、これは怖い。車内アナウンスで車掌曰く「石岡での乗客救護と臨時停車があり次の上野到着までに車内検札に伺へずご迷惑をおかけする場合があります」。車内検札は来ないでくれた方がありがたい。座席未指定や特急券なしの乗客は降車の駅で清算等の対応を、って、そんな正直な客がゐるのかしら。神田淡路町(The Gollum)で散髪。志乃多寿司で寿司折誂へ銀座。観世能楽堂。観世の〈春の別会〉(4月7日)は関根祥丸さんが〈道成寺〉を披き是非とも参観したいと思つてゐたがネットでの前売り開始時(今月6日)にはすでにテケツ完売。今月の定期能(4日)での能楽堂でのテケツ販売時にも既に20席くらゐしか残つておらず窓口に並んでも入手できなかつた方もゐたさう。それほど祥丸君の道成寺への期待高まり。観世会定期能の年間会員や関根家の関係者、東大観世会(祥丸さんが指導)などで席が捌けてしまつたのでせう。本日開演までまだ小一時間あつたので外出して買ひ物。Barneys NY銀座店でサスペンダーと薄手のセーター購入。

本日は初めての観世流太鼓職分会。観世流太鼓宗家で17世観世元伯師は2017年末に51歳で逝去。本日は元伯師の娘、結子さんが〈道成寺〉を披く追贈記念。観世流の太鼓で林雄一郎さん、小寺真佐人さんら能を見始め歳月短いアタシでも馴染みの太鼓は皆、元伯師のお弟子に当たる。六曲も並ぶ一調は野村太一郎君、宝生常三師ら普段なか/\聴くことのない謡ひも良かつた。銕之丞師と金春惣右衛門の一調(巻絹)で銕之丞師の声は良いが音色がこの方はこんなに音階とフレーズが西洋的なのか、と感じた。観世流御宗家がシテの〈道成寺〉は皷の大小が源次郎師、広忠師で、もはや帝国ホテルでシャリアビンステーキを飰すやうなもの(美味は当然で、その優劣もない)。そこに太鼓が結子さんで、それが今回の目玉なのだが笛も一噌隆晴君がこれを披く。一噌流で庸二師の孫に当たり本日も笛の後見は父の隆之師がまことに緊張の面持ちで。笛がとても重要な〈道成寺〉で隆晴君も初演とは思へぬ度胸とセンスで音色奏でてくれて個人的には太鼓よりもこちらの初演が今日の見もの聞きもの。それでも急ノ舞からはさすがに若い力でももうへと/\で最後は卒倒しないかと心配なところ気力で何とか乗り切つた。それで良からうこと。その疲労感のなか今のご自身の実力で何が足りないのかを感じ取つて、これからの成長がまことに楽しみなところ。

本日のお能が終つたところで二つ隣のお席のご婦人に「村上先生?」と声をかけられた。湛さんとはもう40年近く親しくさせてもらつてはゐるが似てるかしら。「ごめんなさい、湛先生は今日はいらっしゃってなくて。金澤にお出でかしら。わたくしは友人でございます」に「あら、ご免なさい、ご挨拶したかつたものだから」とご婦人。銀座サンボアでハイボール二杯。こちらではパイプ煙草を燻らす。東京駅(はせがわ酒店)にアタシの好きな下野塩谷の酒「松の壽」があり常磐線特急でちび/\と飲つたのだが隣席の青年は「午後の紅茶」で何だか世代差を感じ入るばかり。帰宅して軽く夕食。