富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

藤島泰輔『孤獨の人』

癸卯年十一月初十。冬至。気温摂氏▲1.8/8.8度。晴。

孤獨の人 (岩波現代文庫)

藤島泰輔(1933〜1997)のこの小説(孤獨の人)は昭和31年の作品で評判となり翌年、日活で映画化もされてゐたさうだがアタシは最近までそれを全く知らず。それを読了。作者は藤島泰輔といふより今では「ジュリー藤島景子の父親」といふと「えーっ!」かも知れない。メリー喜多川との間の一人娘がジュリー。藤島は父親(敏男)が日銀監事まで務めた銀行家でアルピニストの長男で学習院に初等科から在籍で平成さんの同級。だがそれ程の近しい「ご学友」ではなかつたさう。その藤島が描いた学習院高等科時代の物語で男子校で喫煙、煙草なんてアタシの世代では驚きもしないが皇太子の存在する学校にもさういふ世界があつたのかと思ふ。戦前からのホモソーシャルな男子社会。籠の中にゐる「宮」を何う自由にするか。それでも「学習院」といふ〈装置〉が常に彼奴らの世界に作用してゐる。

──信用してたのよ。……あなたをとっても信用してたのよ。

──信用か、そんなものはくだらない。それに信用する根拠が俺のどこにあるんだ。

──あなたがご学友だからよ。(略)

──御学友なら信用できるって言うのか。(略)俺が人間なら、殿下だって人間だ。……君が俺を嫌いだって言うんなら別さ。……御学友だからいけねぇっていう理由はどこにあるんだ。

かなり遊びには長けてゐる(なにせ東宮御所内で学友らに酒まで振る舞はれる)のに彼奴らは遊んでも女と性交までは至らず。

御学友なら、女を好きでもエム*1が立たねえって言うのか。

三島由紀夫は藤島のこの作品を絶賛で「序」を書いてゐるが学習院の先輩でもある三島にも見られる「陽痿」性質と、その裏返しとしての「男らしさ」の虚勢はこの物語にも良く表されてゐるだらう。御所で御学友の男子だけでのダンスパーティなんて、まさにそれ。初等科からの在籍こそ御学友で、中等科、高等科から途中編入ほど疎外されるのもよくわかるところ。いずれにせよヘンタイ集団なのだが。これも昭和の戦後の不安定な時代だからこそ、この告発、暴露的な内容が小説として出版に辿り着いたのであつて、もし当世ならお茶の水女子大学附属中とか筑波大学附属高とかで「宮」の周囲での小説など書かうものなら出版が能ふかしら……といつてもプリンスヒサヒトの周囲に祖父君当時の学習院のやうな「悪擬き」があるのかしら(もつと陰湿な物語を期待もしつゝ)。

孤獨の人

藤島泰輔東京新聞社会部の記者で芸能界の人脈もあり東京新聞からの早期退職後は妻(メリー)と義弟(ジャニー)による芸能プロダクションのビジネスにもかなり援助惜しまずジャニーズ事務所の醜聞もマスコミに上がらずは藤島の援護もあつたからださう。藤島の逝去(1997年)以降はさうしたバイアスもほんの少しだけ失せたやうだが、それでもジャニーズの「帝国化」で藤島のやうな事実上のフィクサーの存在なくともジャニーズ泰平の世が続いたのが事実。

*1:隠語で「男根」。軍隊のM検のmがこれ。ラテン語で陽根を指すmembrum virileの“m”とも「摩羅」のmだともいはれる。