富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

伊東俊太郎『人類史の精神革命』(中公選書)

癸卯年十月十六日。気温摂氏5.8/20.8度。日が当たると昼間は温かく小さな蕾の残つてゐたハイビスカスがこんな時期に開花した。

f:id:fookpaktsuen:20231128223624j:image

伊東俊太郎人類史の精神革命-ソクラテス、孔子、ブッダ、イエスの生涯と思想』(中公選書)読む。これを読む契機は週刊読書人にあつた著者(伊東俊太郎)逝去での村上陽一郎による追悼記事があつたこと。東大の科学史の研究者のなかで科学史を哲学と思想的にまとめられたのが伊東俊太郎の知性。「次第に科学革命以外の知性の、感性の、そして生き方にまで及ぶ決定的な人類史の非連続性を剔出することへ向かつた」伊東俊太郎の思考力。本当に「人類の知的遺産である諸文明を一望のもとに見渡す」学問的挑戦の一つのテキストとして、この『人類史の』を村上先生が挙げてゐた。

人類史の精神革命-ソクラテス、孔子、ブッダ、イエスの生涯と思想 (中公選書 129)

ソクラテス孔子ブッダ、イエスの生涯と思想」(副題)なんて、なんて大きく出たことかと思ふ。人類にはこれまで幾つかの大きな革命があつて、人類の成立の人類革命、農耕と牧畜の開始の農業革命、都市文明の出現の都市革命、そしてソクラテスらがほぼ同時期に登場する(イエスは時代的には遅い)哲学と世界宗教の誕生する精神革命の時代を経て近代の科学革命の時代となり環境革命の時代に我々は向かつてゐるとする。たゞ問題は第Ⅳの時代の精神革命と第Ⅴの科学革命とは上手く接合されてゐないことで、その状況で環境革命の時代に至らうとしてゐる(伊東先生はこの環境革命あつてこそ精神革命と科学革命の融合が可能とする)。その精神革命とは──
希臘:ソクラテスがプシューケー(魂)を発見し、その魂の対象となる「イデア」が認識され、それの最高に〈善〉がある。
中国:周の時代に「天」といふ概念が地上に引き下され人倫化され「道」となり、孔子はそれを「礼」に表したが、その礼の根底になければならないのが「仁」。
インド仏教:この世の「苦」の元には「執着」あり、その執着もじつは実体のない「縁起」つまり「空」を対象としてゐることをブッダは見抜き、それが「空」であるのだから苦や執着、嫉妬などから「慈悲」の観念が生まれる。
イスラエルユダヤ教における「律法」の概念とその形式化をイエスは見抜き、それを非難して、神の「愛」そのものへの信仰を唱え人々の真の救済を置く。
伊東俊太郎はさうした善、仁、慈悲、愛を本質的に「対人関係の原理」として「他者に対するわれ/\の生き方の行動」を示してゐる。水平超越。それに対し「縦への超越」あり。人間が精神革命を認識することで、上に向へば「神」を超越し、下へ向へば無をも認識して超越する(インドの「空」が中国の禅宗で「無」となつてゐる)。キリスト教イスラム教(そしてその先駆としてユダヤ教)が前者(上への)であり仏教(ことに禅宗)が後者(下への)。つまり歴史的には縦の超越があり現実的には横の超越となるのだが、そこから水平の超越は宇宙に連関し、ビッグバンから始まる人類社会の素粒子や細胞、生物相互の結びつき……と思考はどん/\と拡がつてゆく。どこかでそんな話を読んだ、と思つたら田坂広志『死は存在しない~最先端量子科学が示す新たな仮説~』(光文社新書)だつた。そんなかなり観念的な内容なのだが時節柄(第4章)「ユダヤの誕生」は興味深いところ。イスラエル民族はいかにしてカナンの地に出現したのか。紀元前12世紀。この地への海の民の侵寇。地中海東沿岸に暮らしてゐた人々は東部の丘陵地隊に移り農耕・牧畜を続ける。また各地の既存秩序(社会)の中に入り込んでゐたハビルと呼ばれる人々の出現。これらの人々の集団居住地があちこちに造られ、その人たちがイスラエル民族には直接結びつかない。彼らを原イスラエル人とすると、として伊東先生はこれらの多様な集団が相互の生き残りをかけて次第に共通の文化的統一性をつくり上げていつたのではないか、とする。アブラヒムに連なる集団、モーセに率ゐられてこの地に到達した集団、カナンの農民たち。その種族連合体としてのイスラエルヘブライ語を用ゐてヤハウェを信仰し割礼や食物規定などの文化、習慣を共有する。北と南のユダの王国は近隣のアッシリアバビロニアなどの強国よつて滅ぼされたことでヤハウェによる救済はなかつたことが証明されるが寧ろ契約的に信仰が深まる。この2500年も前の王国の滅亡と離散などがユダヤの人々にDNAのやうに存続してゐると思ふとイスラエル問題をさう易々と解決できないこともよくわかる。ガザといふ地区の名前も3千年前からあるのだから。

■小学校の人文科学科目で愛国心育む(香港ポスト)
小学校の一般教養科目に関する学習指導要領案。
1年生:「国についての初歩的知識」と「国があって初めて家があることの理解」。
3年生:香港版国家安全法の初歩的な理解。その香港に対する重要性、中国人民解放軍駐香港部隊と香港防衛についての理解。
高学年は「一帯一路構想」と粤港澳大湾区の発展について学ぶ必要あり。
6年生:国家安全保障と「中国共産党の指導の下での主要な成果と最新の発展」をより深く理理解する。
愛国主義教育は人文科学を促進するための原則の一つ。教育局のカリキュラム開発主任(幼稚園および小学校)曰く「学生は時代に遅れずに進み、人文科学の発展を理解することが期待されている」。カリキュラムは「一般知識に基づいており」教師にはそれに対応できる能力があり、将来的には教師研修も提供されるのださう。