富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

あんただけ逝かすわけにはいかない

癸卯年九月初六。気温摂氏12.3/26.7度。また夏日となるが最大瞬間風速16.1km/sの南南西からの強風。これが過ぎると明日から気温も下がるのかしら。

健康の秘訣は「自分の稽古と人を教へる稽古で声だけは十分に出してゐる」こと。萬斎と孫の裕基の「三代で狂言をすることに、ある種の幸福感に浸らせていたゞいてゐる」。酒の強さは周囲が驚くほどで「父、祖父とみな代々酒飲みなので、それを伝へていくわけでして……」と万作師。

文化功労者に選ばれた観世のお家元の笑顔は可愛らしい。このまゝ翁の能面にしてもよい。お家元の耳もじつに見てゐて飽きない。耳の形、位置の良い人が好き。

両親の自殺幇助罪めた猿之助初公判で検察懲役3年求刑:朝日新聞

猿之助と両親しかゐない現場で両親が死去して猿之助本人の供述だけでは信憑性も問はれるところ検察は自殺幇助として本人もそれを認めて来月の判決では執行猶予がつくか何うか。それにしても事件当日のなんて話の展開なのかしら。(以下、21日の日刊スポーツの記事こちら参照)澤瀉屋ホモセクハラ報じる週刊誌の発売が翌日と迫つた晩に猿之助は「いろいろなものが積み重なつて限界を迎へ」「地獄の釜の蓋がバカンと開いた」ってお家芸スーパー歌舞伎か。いろ/\考へてゐるうちどん/\「自殺するしかない」といふ負のスパイラルになり最悪のシナリオを作つてしまつた……これも脚本が書ける人だから。そして「誰も知らない」家族会議ノ段の始まり/\ぃである。自殺の決意を両親に伝へるへる孝彦。役者の家であるから両親は「舞台に対する責任はどうするのか」と倅に言ふ。折から明治座は「猿之助奮闘公演」の真っ最中。翌月以降も出番が続く。

「同じ舞台の役者の先輩としてひと言だけいひたいんだよ。先輩だからいはしてくれよ。アイツはとんでもないことをしたんだよ。舞台に穴を空けた。舞台の役者ならやっちゃいけねぇよ」(梅沢富美男

孝彦の死を選んだ意思固いことを感じた段四郎は「悔いはないのか」、母も「それでええのか」と質す。「悔いはありません」と猿之助。「あんただけ逝かすわけにはいかない」と孝彦を溺愛した母。

あんただけ逝かすわけにはいかない 「逝く」の使役(逝かす)の用例はまことに稀。共鳴しての心中なら母が「あんただけ(あの世に)行かすわけにはいかない」の方が自然。もしかするともつと修羅場で逆に「あんただけ生かすわけにはいかない」かもしれない。そも/\こんな親子の切羽詰まったやりとりで供述に「逝かす」なんて言葉と字が当てられることが何うかしてゐる。母が京都出身だからといつて上段の「それでええのか」も上方芝居ぢゃないんだから。

それに呼応して父は「一人だけ生き残るのは嫌だ」と話したといふ。そこで一家心中に。両親に薬を呑ませ死にきれない父の顔にビニール袋をかぶせ、死に切れず苦海を彷徨ふ猿之助。生き恥を晒して「歌舞伎は自分の存在そのもので僕にしかできないことをさせていただき生きる希望とさせていただきたい」と歌舞伎への復帰を願ふ。なんて脚本なのかしら。梨園とはいへ家庭で親族でのやりとりがあまりにドラマチックすぎて思はず加藤茶の歌舞伎コントまで思ひ出してしまつた。

(猿之助)週刊誌取材で「歌舞伎の仕事もうできない」事件の動機:朝日新聞

マスコミも澤瀉屋に同情も一入。けして悪くは書かない。人類の進歩と調和。