富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

待宵の月

癸卯年八月十四日。気温摂氏21.7/31.0度。曇。咳が止まず陋宅近くで評判良いクリニックが予約受付なしで午前九時診察始まりのところ午前八時には玄関が開くさうなのでその時間に出向いてみると2人待ち。受付のカウンター越しにいかにもコソ泥みたいな見た目の怪しい男がウロ/\してゐて挙動怪しい。ヨレ/\のジーンズにポロシャツで髪はボサ/\……院長先生であつた、診察に定評ある。熱はないが咳が出て、と言つたら「発熱、咳の症状のある方はこちら(待合室)で待っていたゞくわけにはいかないので、こちらへ」と奥の第三診察室に通され窓を開けて問診表書いておいてください、と院長先生。疫禍前は小児のための診察室だつたのだらう。玩具があってカレンダーも日本アニメーション。診察室内に洗面台があるが水道の蛇口レバーは取り外してゴリラのぬいぐるみが掛けてあり排水溝も目皿の下にサランラップを丸めて排水溝からの下水を通した感染対策(香港でSARSのときはこれでマンション感染が深刻だつた)。診察室のドアは外から施錠はされてゐない。窓から隣の駐車場に飛び出ることも可……って我ながら部屋に通されたジェームス=ボンドのやう。数分すると看護師が「お先に診察カードお渡ししますね」とやって来て問診表を渡すと数分後に先生が例のファッションのまゝフェイスガードと手袋をして現れ「うちはコロナ、インフルエンザの検査はやってゐませんからもし症状等気になる場合は検査のできる病院へ」と前置きされ「発熱もないのなら喉を見せてもらったかぎりは咳止めと消炎で大丈夫ですかね」と診察修了。数分後に看護師が「お会計の準備が出来ました」で窓口に行くと会計で薬もこちらで処方あり。こちらに来てから20分程度で薬処方まで済んでしまつた。初回なのに薬代も入れて1,240円(3割負担)。職員も親切。これぢゃ評判なのも納得。陋宅に戻ると家人は診察の順番待ちに名前だけ書いて戻つて来たのかと思つたほど。服薬。今日はもうきちんと休養をとらうと寝台に伏して読書したり微睡んだり。寝室でじっとしてゐると病院の病室ぢゃないが普段気にかゝりもしないものに気づく。老眼が進み近視がずいぶんと解消されてはゐたが寝室のクローゼットが左右引き戸で開けっ放しになつてゐたら右の引き戸と柱の随分と高いところに何かシミのやうなもの。近づいてみると何か押しつぶしたやうで手でちょっと触るとそれが床に落ちた。ヤモリのミイラ。不幸にもその柱にゐたときにクローゼットを閉められ圧死したのだらう。

圧死したヤモリは可哀相だがそれにしても見れば見るほどきれいに萎びてゐる。干物のやう。このデザインどこかで見たことがある、と思つたらagnès bだつた。

これはトカゲなのださうだが最近はこのロゴもあまり見かけない。家人もミイラ化したヤモリを「へぇ」と眺めて(彼女はかういふものにキャーっとか怖がらない)それを一瞬ゴミ箱に捨てやうかと思つたのだが家にとつては大切な家守を殺した上にゴミとして(燃えるゴミだらう)捨てるのも忍びない。そこで取り合へず乾燥材を敷いた瓶に入れさせてもらつた。陋宅の守神になつてくれゝば。

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夕方頃に熱が少し上がって36.8度だつたが夜には平熱に戻り咳もだいぶ収まる。待宵の月を愛でる。

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