富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

さらば/\初代国立劇場(文楽祭)

癸卯年八月十一日。摂氏15.2/27.1度。晴。先月28日に丸の内線で晴雨兼用長傘を失くして再発見されぬまゝ、それは前原榮光商店(浅草三筋町)のものだつたのだけれどを今日ふと小宮商店(日本橋橘町)の春雨長傘もなか/\良いと思つた。

さりげないストライプがおしゃれな一級遮光のメンズ晴雨兼用傘 | 小宮商店

上野から日比谷線小伝馬町に往き旧日光街道から清洲橋通りを越え問屋街にある小宮商店へ。店内で傘を見比べてゐる客も数名ゐて店員もその対応中だつたが最初からコレと決めてゐたので秒速で購入して炎天下「さしていくからそのまゝ」と馬喰横山駅から都営新宿線に乗り半蔵門線に九段下乗換へで国立劇場へ。上野駅を出てから1時間でこのミッション完了。


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文楽国立劇場の閉館前に5月と今月初めで〈菅原伝授手習鏡〉の通しと最後に〈曽根崎心中〉を見て最後の最後で「大千穐楽」と称して本日この特別公演の「文楽祭」あり。〈菅原〉の「車曳の段」を人間国宝級の大幹部で、そのあと座談会で最後に「寺子屋の段」は「天地会」と称して義太夫太夫、三味線と人形使ひがお役を替へての余興狂言。配役は当日までのお楽しみ。


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国立劇場に着くとロビーがこれまた大そうな人出と賑やかさ。受付から太夫らが客対応でロビーでは大幹部連中がサインや記念撮影に応じてゐる。

左から玉男、勘十郎と和生と人形遣ひ。このあとすぐ「車曳の段」で順に梅王丸、松王丸、桜丸の三兄弟を演じるといふのにさすが大阪のファンサービス。

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休憩時間もロビーはご贔屓との交流が続く。三味線(鶴澤)で清丈さん、友之助さんなどやはり女性ファン客がサインに列をなす。


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座談会は9月公演は休演だつた咲太夫師匠も車椅子で登場。天ぷらやの店先で濡れた敷石で滑つて11針だか縫ふ怪我をされたとか。今日はアタシだけ車引き、と。司会は山川静夫(数へでもう卒寿なのださう)。三味線の團七師(こちらももう卒寿)がお元気でこの方以外の五人がいずれも人間国宝。すでに引退した三代箕助師からの手紙は山川静夫代読。

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文楽の東京公演は戦後、松竹が仕切る時代があり新橋演舞場で、その後は三越劇場もあつたが国立劇場が出来て小劇場は義太夫節の床は盆回しで何より音が良く義太夫節にとつては本当に演じて気持ちの良い小屋だつたが兎に角、客が入らない。空席ばかり。東京駅からタクシーに乗つて国立劇場といふと国際劇場(浅草)に連れて行かれるほどだつたさう。


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さてこの「天地会」。基本は三味線が太夫太夫が三味線を鳴らし三味線が人形操る。余興で下手なお浚ひなので笑ひをもらふが何せ〈菅原〉で最も悲しみ深い寺子屋である。源蔵の寺子屋を舞台に菅秀才の命を救ふため時平大臣の家来である松王丸が我が子(小太郎)の首を源蔵に刎ねさせ菅秀才の身代はりに差し出す。そんな「寺子屋」を下手な義太夫節と人形の珍妙な動きで笑はせるのもあまりに諧謔がすぎるところだが寺子屋の最後、小太郎の弔ひから鳥辺野は太夫は鶴澤清志郎(三味線)で三味線を呂勢太夫でしんみりと聞かせてくれた。呂勢太夫の三味線に太夫で隣の團七師が「うまいっ!」と唸つてみせたほど。人形も大詰めは松王丸に呂太夫、千代に錣太夫でそれぞれの左遣ひに玉男と和生がついてきちんと仕立てゝみせた。呂勢太夫さんは鶴澤重造に13の時から三味線を習つてゐて太夫になりたいと国立劇場の研修生(第8期)となり太夫の道へ。そりゃ他の太夫に比べたらきちんと三味線を弾けて当然なのだらうが本当に上手いので床を見入つてしまつた。


最後、文楽座全員でのご挨拶(勘十郎師が挨拶)と大阪〆で幕となる。

舞台下手側から客席を通路に出たところ座員が楽屋扉から小走りに出て来られて思ず呂勢太夫さんに「お見事でした」と声をかけてしまつた。


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ロビーでも太夫ら一同に並んで、こちらは客と「ブラボー!」と一声。そのあと座員は劇場の外に出てまで客を送り出す大サービス。本当にとんでもない盛り上がり。

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左から玉男、錣太夫、カメラ目線でご愛嬌は(光頭が先に視線に入つて千歳太夫かと思つたら)藤太夫さんですよね……で勘十郎まで。このあとどれくらゐ名残惜しくされてゐたのかしら。水府に戻り家人と水戸駅で待ち合はせ夕食の予定あり早々に三宅坂の劇場を発つ。