富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

癸卯年六月十六日

気温摂氏22.5/35.0度。晴。昨日の雨と涼しさも嘘のやうな猛暑再来。晩に久々に月を愛でる。

ある地元グループのSNSでちと厄介なことあり。中学のときから仲良しの女子と「いっそのことネットや、それどころかケータイのない時代に戻りたい」と話す。ハガキでつぎの寄合の日時を決めたりとか、のんびりした時代に。せめて電話。ハガキや封書も今では市内でも平日ですら中1日置かないと届かないやうになつてしまつたが明治の頃が朝出したハガキが東京市中ならその日の夕方には届いたのだから便利な時代だつたと話したら彼女が漱石から芥川龍之介への手紙の文面を教へてくれた。

牛になる事はどうしても必要です。われわれはとかく馬になりたがるが、牛にはなかなかなり切れないです。僕のような老猾なものでも、ただいま牛と馬とつがって孕める事ある相の子位な程度のものです。
あせっては不可(いけま)せん。頭を悪くしては不可せん。根気ずくでお出でなさい。世の中は根気の前に頭を下げる事を知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。うんうん死ぬまで押すのです。それだけです。決して相手を拵(こしら)えてそれを押しちゃ不可せん。相手はいくらでも後から後からと出て来ます。そうしてわれわれを悩ませます。牛は超然として押していくのです。何を押すかと聞くなら申します。人間を押すのです。文士を押すのではありません。
これから湯に入ります。

「これから湯に入ります」といふのは今の感覚ではハガキの末句にピンとこないが家の近くでこの封書を投函すれば翌朝には相手に届く時間間隔なら「あり」の表現だつただらう。手紙どころか手書きすらすることが減つてきてゝさ、といふのでアタシはいまだに手書きでメモ帳、手帖に日記まで手書きだと見せる。字がきれいとちょっとほめられた。

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本日と明日、浅草公会堂でのこちら。尾上右近「第七回 研の會」

何うにかこれを見たいと思つたがテケツは売り切れの人気。今日ご覧になつた方が道成寺をとてもほめていらした。

秀山祭九月大歌舞伎|歌舞伎座

吉右衛門丈のゐない秀山祭の寂しさ。今年九月のこの番組なら初代の当たり役だつた清正(二条城の)。そして茂兵衛(一本刀土俵入り)。御人の話では播磨屋ご本人は生前、清正と連獅子を孫(丑之助)と共演楽しみにされてゐたさう(涙)。これが3年前なら……

あの秀山祭が吉右衛門丈の舞台を拝見する最後になつてしまつたとは。