富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

銕仙会七月で観世清和〈隅田川〉

癸卯年五月廿七日。気温摂氏22.3/28.0度。曇。新宿柏木のお寺と近くの花屋に差上げるお菓子を木村屋本店(南町1)で書ひ求めたら木村屋の袋に「アホ」と読めたのは屋の「尸」とホならぬ「木」であつた。


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午後三時に新宿柏木。常圓寺。この花や(Le Panier de Fleurs)は盆や彼岸の供養でも「祖母も華やかなのが好きだつたから」と一度伝へたら「それなら」といつも本当にきれいに季節の花でまとめてくれる。今日はどんなアレンヂだらうと花やを訪れるのが楽しみなほど。

しりあがり寿展 | 新宿伊勢丹

しりあがり先生の個展で今月1日に京橋で見たのは「夢をみたよ。」でしんみりとした世界だつたが新宿のほてい屋で開催中のこちらは「オヤジ全開」。作品はいくつか入手たいものあつたが自重、自重。

久しぶりに新宿に来てヤマモトコーヒーで好きな豆(ジャーマンロースト)100gだけ買ひ求めてからBergへ。ビール担当のスタッフに注文のときはマスク着用をといはれる。店の方針。だがアタシはマスクを携へてゐない。店内では「会話時もマスクを」なのださうだが誰にも守られてゐない。ビアチケットは「切り離し可」とプリントされてゐるのにビール担当には切り離さないで出すように注意された。いろいろ作法がよくわからない。午後5時すぎのラッシュのなか総武線のホームに企つと中央線快速の中野駅での人身事故で中央線快速ばかりか総武線各停も運転見合はせ。総武線上りの次の列車は東中野で運行停止中ださう。東中野なら千葉行きで中野の飛び込みなら問題ないやうな気がするのだが。5分待つても動く気配なく、このまゝでは水道橋の能楽堂で18時開演に間に合はないかも。国電をあきらめて地下鉄(都営新宿線)にするにも中野寄りにゐたためホームの混雑で南口に辿り着くにも難儀しさうで西口から出て京王モール小走りで大汗。中央線と総武線の運転再開は18時なんてネット情報。お能の公演は電車の遅延などに動ずることもなく定刻だらう。神保町で三田線に乗り換へるところでホームで「確か車両はこのあたりが水道橋では」と思つたら村上湛君に後ろから声をかけられて「これなら間違ひない」笑。


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銕仙会七月の定期公演。ご宗家の〈隅田川〉である。

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隅田川〉は1年前の代々木果迢会別会で拝見してゐるが(浅見慈一)悔やまれるのは彦根城能舞台で企画された大槻文蔵師のそれ(隅田川)がコロナで2年続けて開催中止となり市長交代でもう企画再考も絶望的ださう。今回は観世ご宗家のシテで亀井忠雄先生の小鼓に松田先生の笛で今年の銕仙会の内容が発表された昨年秋から楽しみに。それが亀井先生の先月の急逝。能の舞台は本当に一期一会の連続。観世ご宗家のシテはアタシの印象はいつも端正で感情的なものをあまり顕はにせぬやうに映るのだが、それでも女性を演じるときの他の誰にもない母性や美しさは格別。本日(隅田川)はシテ(狂女)のお役でいつもよりも感情といふか感極まつたところが節々に見えて印象的。この狂女は倅(梅若丸)の死を嘆き悲しむのだがご宗家には忠雄先生の死もやはり悲しみが深いことだらう。今日のこの〈隅田川〉は本当にすばらしいものを見せていたゞいた。松田先生の笛も、その音の物語性について今更言葉を並べる必要もないだらう。これに亀井先生の小鼓があつたら。広忠さんもご尊父の逝去から四十九日にも日が経たぬなか自らの舞台に加へ忠雄先生の出番の多くを代役となり悲しんでもゐられぬ毎日のはず。忠雄先生も父(俊雄)の急逝で代役で出た舞台には当時、囃子方で名人がずらりと並んでゐたわけで、そこで若輩者がどれだけの大役を果たさなければならないか重圧のなか、それでもお歴々が「哀悼の意なんて口にする余裕もなく「つぎはこれだつたな」と稽古をつけてくれた」さう。今はけしてさうもいかないだらう。地謡もしつかりとしてゐて地頭(片山九郎右衛門)が横から丁度良く眺められる座席だつたので地頭が地謡を何う率ゐてゐるのかがとても勉強になつた。本日のもう一つの能〈野守〉は初めて拝見で幸はひ謡曲集のコピー持参だつたので、この際、謡曲の規則、注記のあれこれを勉強させてもらふ。松田先生の後の杉信太朗君の笛は音のやたら良く響く宝生能楽堂では一寸本日のこれは音が響きすぎ。ことに後シテの鬼ならまだしも前シテの野守の老人の世界にはもつとそれに合はせた音があらう。

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お能終はつて鉄道の運行情報見ると中央・総武線各停の人身事故から首都圏のダイヤ乱れ常磐線はこの図では遅延なかつたが品川駅ホームで非常ベルが押され安全確認云々で遅れ生じた。