富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

團十郎XIII襲名披露記念特別公演@歌舞伎座

陰暦十月初七。気温摂氏6.3/20.1度。快晴。来月から二ヶ月、木挽町で成田やの團十郎XIII襲名披露公演開催であまり乗り気ではないが冥土の土産にいずれか一日くらゐは見ておくべきか程度に思案してゐたところ今日と明日の二日間、襲名の手打ち式含む特別公演開催と報せあり。観世ご宗家の〈神歌〉もあり遉が團十郎襲名ともなると能楽からも観世のご宗家が歌舞伎座の舞台に上がるのかと思つたが従前からさうした仕来りあるのでもないさう。今回は松竹からの要望に観世ご宗家が了承されてのこのなのか。番組も〈勧進帳〉で成田やの弁慶に義経が大和屋、富樫が仁左衛門といふもので、これが見られたら来月から二月の本興行襲名披露は見なくてもよいかと思ふ。たゞこの特別公演、松嶋屋の事務所でもテケツの承りなしで歌舞伎会でも先行販売しないさう。さすがにそれぢゃテケツも入手困難かと諦めてゐたら畏友の配慮でテケツ確保できた次第。ありがたや。

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実ハ今朝とんだ珍事あり家人が車で買ひ物に出かける際、アタシはまだ少し時間があつたのでパジャマ姿でのんびりしてゐたが家人のお出かけに合はせゴミ出しに出たところ家人が習慣で玄関の鍵をしてしまつてゐてアタシは部屋に戻ると入ることもできず慌てゝ駐車場に戻つたが家人はもう車で去つた後でスマホもなく電話もできず。マンションでお向かひの方が在宅してゐてワケを話して電話をかけさせてもらふことになつたが生憎、家人の携帯番号も覚へてをらず。母の携帯もわからず固定電話にかけたが見知らぬ番号に応答もなく妹の職場の電話番号をGoogleで調べてやつと身内につながり家人に電話して戻つてきてもらふことに。その間、パジャマ姿で外で寒さしのぎで日なたぼつこしてゐると呆けた老人か白痴にしか見えぬだらう。乗る予定だつた特急を1本遅らせて昼すぎに上野まで。銀座線で田原町。菊屋橋を抜け三筋にあるトンボ洋傘の前原光榮商店。杖のかはりになるやうな長傘で雨傘のほかに日傘も通販で入手の1本あつたが(日剩2013年6月5日)丈があつて荷風散人なら良いが背の低いアタシが持つと格好が良くない。そこで前原商店の晴雨兼用の長傘で丈85cmはやはり実物を見てから、と参つた次第。さんざん迷つて薄灰色のペイズリー柄の傘を購入。偶然にも今日まで日傘は季節終ひで3割引きであつた。

三筋から小島町、鳥越、二長町と歩き秋葉原

もうこゝまで来れば万世橋を渡れば神田淡路町。近いものである。


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神田まつやで久ヶ原T君と待ち合はせ午後の一盞。頻繁に訪れる馴染みの蕎麦やでも注文したことないものがいくつもある。並木藪の〈うどんの抜き湯〉でも「花巻」や「しっぽく」の扱ひが別格だなんて話してゐたので食べたくなつたが「しっぽく」がないので「おかめ」か。おかめそばなんてもう半世紀以上前に食べたつきりだ、なんて話してゐたら横をお店のおねえさんが通りすがりにこちらも見もせず「おかめ美味しいんですよ」。振り向きもせず。だがその一言がアタシたちをどれだけ喜ばせてゐるかわかつてゐて背中で聞いてゐるから愉快。これが芝居のやりとりの基本でせう。地下鉄で銀座乗り換へで東銀座。

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成田やの團十郎襲名の特別公演とあつてはいつも以上に随分とお客さま方も艶やかで賑やか。観世ご宗家の〈神歌〉で、これは本当に改まつた場でも特別なものなのだが客席はまだざわついてゐるし能楽堂でのときのやうな張り詰めた空気もない。この〈神歌〉のあとロビーで遅れてきた「お偉いさん」的なオッサンに先に来ていた部下が「何だかよくわからないのがあっただけです」。そんなものだらう。顔寄せ手打ち式は役者がずらりと並びさすがに豪華なもの。月の晦日で他の劇場でも芝居のないタイミング。松竹三役の下手に高麗屋(白鴎)で成田や父子。その後ろに松島屋と大和屋。右手は音羽屋(菊五郎)。中央上手に凛とした殿様のやうな大きな格は梅玉丈(村上湛君もずいぶんと立派なものと褒めてゐた)。ダウンタウンの松っちゃん?と思つたが身体が大きく目立つのは松緑。後列までよく見渡したがさすがに中車の姿は見受けられず。大上手を占めるのは高島屋左團次)で口上を言はせたら何を喋るか楽しみだが本日は手打ち式でそれもない。松嶋やはじつに終始柔らかな表情で笑顔ですらあつたが他の誰もが随分と硬い表情ばかりと思つたのはアタシだけかしら。〈勧進帳〉の舞台に拵への時間を要するところ成田やの映像を15分ほど見せられる。九代目の見事さ、当代の祖父にあたる十一代目の美貌と助六でもセリフの良さ、先代(十二代目)の知性とお人柄まで表れる舞台も懐かしい。〈勧進帳〉は仁左衛門丈の富樫をしつかりと見せていたゞいた。丑之助君がセリフもない太刀持ちなのだが、これが所作も見事、見事。大和屋は「べんけい」がしつかりといへず。成田やの弁慶は折角の襲名披露公演だからあれこれ言及は控へておきませう。たゞ弁慶の「状況」をあそこまで顔の表情作つて見せなくとも……。四天王は雁治郎、芝翫愛之助といふ大物と並び成田屋の番頭格で新蔵さん大抜擢。


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本日はとてもよいお席を手配いただいてしまひ恐縮。お隣も然るご立派な方で一つ前の席に高校生くらゐのお坊っちゃま連れの若いお母様は誰かと思へば実は知己の元女優さん。そのお隣には山階彌右衛門さま(観世ご宗家の弟)で正月に観世で〈安宅〉のシテを勤められる予定。それを歌舞伎(勧進帳)で何うご覧になつてゐたのかしら。会場には役者の奥様方数えきれぬほど。松嶋屋の奥様にもコロナのなか初めてお会ひしてご挨拶。