富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

🧨雙十節🇹🇼中華民國111年國慶🧨

陰暦九月十五日。気温摂氏14.5/19.5度。本日は10月第2月曜で「スポーツの日」なのださう。今年は10日で従前の東京五輪に因む10日で旧「体育の日」と重なる。何うせなら日台親善もあるやうだし10日で中華民国建国の雙十節にしては如何かしら。少なくともアジアで共和制の近代国家が誕生したことで祝賀の価値あり。
常磐道をいわきに向かふ。いわき市立美術館で〈アーノルド=ローベル展〉開催は『がまくんとかえるくん』誕生50周年。イワキとローベルの関係は未知。長距離を高速道路で走る興趣没有だが復路五浦に寄る予定で五浦は鉄道では不便な場所ゆゑ自家用車となつた次第。水府からいわき(平だろ!)まで鉄道だと特急でも70分ほどで陋宅からいわき市街の市立美術館までdoor to doorで同じく70分なので自動車の方が簡便。常磐道が日立は山陽道の神戸のやうに山間を隧道で一直線に抜けイワキに向かふため常磐線より先についてしまふ。鉄道開業150周年だが、かうして鉄道は高速道路の自動車網に淘汰されてしまふ。

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アーノルド=ローベルは『がまくんとかえるくん』のイラスト見れば「あゝこれか」と思ふが、それ以上の愛着はなかつた。この展覧も週末祝日は事前ネット予約とかなかつたので油断してゐたが会場につくとコロナの入場規制で入場券売り場から列。20分ほど並んで入場。この展覧のタイトル(英)が “Alone Together” といふのも意味深だが「がまくん」と「かえるくん」は二人だけの世界に一緒にゐられゝば幸せ……なんて映画にもなつた“Brokeback Mountain”の世界。誰も闖入者もなく静かに二人だけ。徹底的に二人の物語を見せつけられ暗喩的に同性愛以外の何ものでもないと思ふ。この作品が生まれたのが半世紀前で米国はまだ表面的にはホモフォビアの世界でアーノルド=ローベルは最愛の妻と二人の娘に恵まれ幸せな人生を送るが同性愛者で家族にそれを告白といふ“事実”が何とも。かえるくんもがまくんも二人ともけして可愛らしくも何ともないのも寧ろ「普通」「日常」なのが、この作品の平凡でかつ偉大なところなのだらう。ローベルの初期の作品から何かどこかに孤独と不安の影があることも何となく納得。それにしても『がまくんとかえるくん』といふ作品について発想からスケッチ、作品化されるなかでのアイデア書きから下絵、編集者とのやりとり、メモ、その経過から見事なデータ蒐集は圧巻の作品展。

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いわき(平だろ!)を訪れるのも稀なことで折角だからもう少しゐても良いのだが来月からは『おおきなかぶ』で親しみある生誕110年なのださう「佐藤忠良」の企画展もあり亦た来る機会もあるだらう。本日はローベル展だけ見て「福島県を出る迄は」まるで高速道路のやうな国道6号線で勿来関を潜り茨城に戻り五浦へ。遅めの昼食で「メヒコ」のカニピラフは前回食してゐるし五浦の〈天心丸〉で海鮮丼。何十年ぶりかしら。もう午後1時でお昼の営業は13:30までなのでアタシたちが最後のお客。海鮮丼はガラパゴス的進化を遂げ所謂「デカ盛り」の極み。お隣りの家族連れも見た目「かなりの大食漢」の夫婦と娘だつたが天丼も「聳え立つ」ほどでかなりのお持ち帰り。海鮮丼は魚の肉厚なブツ切りがこれでもか!で一切れが小型のスマホほどの魚の切り身で丼蓋に醤油を敷きヅケにしておいて筋も噛み切れず食べるにも難儀するが、これがこの店の海鮮丼。改めて神社の包丁式ではないが「刺身とは魚の旨味を出すための切り方の作法」であることを痛感しなくもなし。木造の建築としてかなり評判になつた〈五浦の家〉は〈天心丸〉と道路を挟んだ高台。天心丸もかつての漁師の作業場のまゝ漁具やケースなど建物のまわりに無造作に放られてゐるが〈五浦の家〉も、その所謂「美観」を否定するかのやうに周囲にあらゆるものが放られてゐるのがとてもアヴァンギャルドな世界。

五浦の県立美術館といへば「天心記念」で岡倉天心。天心がこの五浦に別荘(六角堂)を建て日本美術院明治38年にこの地に移したのだが天心の死後に日本美術院再興に尽力したのが斎藤隆三(明治8〜昭和36)で隆三は守谷の出身で茨城(当時は下総国相馬郡守谷)の人。東京帝大の史学者で美術にも造詣が深く横山大観を介して天心ら明治の美術家らと繋がり彼らの作品への添書や評論が実に見事。今回の展示はその作品とともに隆三の添書(原本)や評論の一節などがきちんと展示され通常の絵画や美術品の展覧会とは些か異なる趣きが面白い。本日は丁度この企画展を担当した同館学芸員(塩田釈雄氏)のギャラリートーク開催中。途中からそれに紛れて少しお話を聴く。天心は五浦に移り水府出身の横山大観、笠間の木村武山がゐて小川芋銭は牛久と常陸の地には錚々たる美術、文学の英才が集ひ東都の「離れ」として水戸が存在し彼らが頻繁に訪れて水府にも地元の文人、趣味人が存在して(我が祖父もその端くれであつただらう)何てよい時代だつたのかしら。今ではもうその片鱗すらなくならうとしてゐる。


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五浦は何度も訪れてゐるが六角堂、大観荘と県立天心記念美術館を点で押さえてゐても大観荘と美術館の間に位置する日本美術院跡には足を踏み入れてゐなかつた。足がすくむほどの崖地。本日は海も荒れてゐて波と波の音が怖いほど。たゞ佇んでゐても気がおかしくなるほど。こんなところで絵画を描くとはどれほどの精神力だつたのかしら。

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帰路は高速道路の常磐道に乗らず国道6号線で日立を抜け水府に戻る。日立市街に〈ただいまコーヒー〉といふ珈琲焙煎の店があることを何だかの記事で見てゐて、そちらに寄つてみる。お店は日立の市街地でも平和通りから一本入つた高台の昔からの閑静な住宅街。ブレンドの豆を訪ねるとアタシの好きなブラジル、グァテマラ系で100g単位でのパックが嬉しいところ。もう一軒〈GENKAN〉といふ珈琲店もメモしてゐたので折角だからそちらも寄つてみたら販売してゐる珈琲豆は〈ただいま〉のもので兄弟店とわかつた次第(記事)。こちら(GENKAN)にはエスプレッソ用のブレンドがあつたのでそれを購入。水戸に戻ると、もう初更。昼の海鮮丼が重くて夕食は摂らず。