富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

直実と直侍


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「香港商人が中国各地をビジネスで容易に往来できるのに最も困難は帰港」と大公報が香港市役所を叱る。香港政府が内地との往来を制限してゐることへの不満。「国内」なのだから中央政府の防疫基準に従へば良いわけである。地方は中央政府に隷属すべきは民主集中制として当然。台湾密航を祖国海警に捕まり内地から香港に戻され収監されてゐる反政府運動家につき若きリーダー格(李宇軒)が刑務所で公安警察の厳しい尋問受けてゐると蘋果日報 

常磐線では筑波山系の低い山並みに山桜が美しい。それに対して市街地では桜がある場所の多くは学校なのが興味深い。常磐線は茨城の農村風景が牛久を過ぎたあたりから東京のベッドタウン化して取手から利根川をわたり千葉に入り江戸川、中川、荒川放水路……と橋を渡りる。大川を渡るとやつとこゝからが東京。といつても昔は入谷だつて田舎だつたのだが。常磐線のこのあたりの光景でアタシが好き、といふかついつい目を凝らしてしまふのが大川を渡り南千住から三河島までのザ・荒川区の車窓の風景。

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初夏のやうな陽気。銀座では並木通りの青葉が見事。並木通りは昔はプラタナスだつたが今はシナノキなのださう。

銀座4丁目の築地寿司清に寄り昼酒をくいっと飲んでゐたら村上湛君より報らせあり。須磨帆でこれを見て思はず「播磨屋が」と声に出たが、お昼は寿司清で、とアタシを誘なつた母ばかりか板前さんも一瞬「えっ……」といふ表情。歌舞伎座の第3部の〈樓門〉に出演の播磨屋千穐楽1日残して昨晩こんなことになつてゐたとは。一瞬にして酒酔ひも褪める。

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寿司清といふと築地以外ではデパートの食堂街とかにありさうだが、ここは銀座4丁目で三越の並びで紳士用品・田屋の並び。玩具のキンタロウの跡地?と思つたが間違ひなかつた。田屋の北隣りから丸見屋、ゑり久でキンタロウがあつて角は今の三菱UFJは以前は三和銀行で、その昔が長州閥で銀座の一等地に山口銀行。
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2月末にはまだ閉まつたまゝだつた若松が再開してゐた(3月19日より)。好物の豆かんを頬張る。
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3月の歌舞伎は今日が千穐楽。第2部を楽しみにしてゐたが26日に清元の清壽太夫が感染で第2部舞台関係者検疫、休演と発表あり一昨日も休演したが太夫の他に陽性なかつたさうで昨日から再開。

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松嶋屋の〈熊谷陣屋〉は年末に南座の顔見世で見せてもらつて今日の再見。良いお席を手配いたゞゐて近い距離から葵太夫さんの義太夫節(陣屋の前半)をじつくりと聞き入る。孝太郎さんの相模も上手だがやはり歌六弥陀六を好演。前半で直実演じる松嶋屋の役柄の「大きさ」は今の他の役者には替へ難いものがあるが後半、仏僧の姿となつてからの直実はやはり目に浮かぶのは播磨屋。「十六年は一昔、あゝ夢だ、夢だ」と嘆きおくり三重の三味線の音で去る直実。誰も真似できない境地。中入りで村上湛君に再会。新派の某姉御の尊顔も拝したが人目ならぬ人耳憚らぬ会話がさすが面白い。音羽屋の〈直侍〉。暗闇の丑松演じるのは菊五郎劇団では重しのある團蔵。直次郎とのやりとりは湛君からも後で示唆あり。「かたち」とはかうしてできるものか、と納得できるのも團蔵さんが紀尾井町の師匠から得たものに対する誠実さなのでせう。直実が播磨屋ならアタシにとつての直侍は好きだつたのは團十郎。三千歳はそりゃ大成駒だつた(大成駒晩年のこれを湛君はワーグナーのイゾルデのやうと喩へた)が、そして京屋(先代雀右衛門)も本当に大したものだつた。
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歌舞伎座三階の土産物売り場に錦玉羹など賣る〈翁〉といふ出店があつて、こちらのお菓子は勘三郎のお土産にもなつてゐたさうだが一昨年からずつと歌舞伎座に来る機会もなかつた母はそこの女将さん(こちら)にご無沙汰の挨拶を、と出向いたら出店には誰もをらず向かひのレヂで聞いたら昨年の五月にご逝去されたのだといふ。歌舞伎座の賑はひがまた遠くにいつてしまつたかのやう。寿司清→若松→歌舞伎座で今日の必要最小限のミッションは済んだのでさつさと帰途につく。


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水府に戻り家人に自動車で迎へに来てもらふ。母もアタシもタンメンが好きで母は水戸駅南の茨城タンメンカミナリといふ専門店に来たことがないといふので、そこでタンメンを啜る。アタシが食べたのは(写真左上)春野菜のタンメン。ご自分がタンメンを食べるところをビデオ録画する御仁がゐらした。時々、録画中のスマホに向かつて説明をされてゐたが食後はやはり食後感想まで述べられるのだらうか。