富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

矢島翠『ヴェネツィア暮し』


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感染リスク高い業種からワクチン接種をと大公報。その大公報による食物及衞生局常任秘書長劉利群攻撃につきさすがに親中派の新民党主席・レジーナ葉劉淑儀(元保安局長)も「呼籲外界停止對劉利群進行文革式批鬥」とまるで中共の反右派闘争か文革の如き特定人物批判は止めるべきと。林郑市長になつてから市役所上級公務員職の離職は49人で過去3代の行政長官時の離職率を大きく上回るもの。有能な公務員が怖くて仕事もできない中共の香港市役所。

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菊正宗酒造に注文した酒粕が届く。菊正宗の高級酒・嘉寶から出た酒粕ださう。箱を開けただけで豊満な酒の香り。これに触発され昼酒をいたゞく。酒はもちろん菊正宗。


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酒のアテは出汁とつたあと残つた昆布くらゐで良い。鳥蕎麦を煮て、その具で酒の残りを干して蕎麦を啜る。


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一流のバーで飲んでも家飲みでも角ハイボールだけは足し算も引き算もない。角ハイの、このお気に入りのグラスは2つセットで香港で何処からだつたか頂戴したが1つは割れてしまつて今もう1つしか持っていない。角ハイでもジョッキグラスはよく見かけるが、このタンブラー型のグラス(270ml)はほとんど見かけず「これは入手が六ッかしくなる」と慌てゝメルカリで漁つて半ダース6千円でゲットしたぜぃ。

矢島翠『ヴェネツィア暮し』平凡社ライブラリー 読了。矢島翠は加藤周一の伴侶で東大英文科卒で共同通信記者の経歴あり。何の雑誌だつたか書籍特集で上野千鶴子さまが2冊の本で『星の王子さま』と一緒に勧めてゐたのが、この本。

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わずか10ヶ月ほどのヴェネツィア暮らしで、なぜこんな珠玉の随筆がかけてしまふのか。

ヴェネツィアほど、歩行者の身うちを、耳には聴こえない音楽のよろこびでみたす町はあるだろうか。
なぜならここでは多くの街路はまことに細く、まことにひそやかで、数多くの小さな橋の階段の上り下りをふくみながら、急に大小の広場の晴れやかなひろがりに出会い、斉唱とこだまのひとときを持ったのち、また無数の方角に向かって寺院や屋敷や民家の壁と壁とのはざまに散って行くからだ。ちょうど弦楽器や管楽器のソロで奏でられていた旋律が、相寄って力強く高鳴る合奏となり、やがてまたいずれかの楽器にデクレッシェンドでひき継がれていくように。そしてその継起において、歩行者がどの方向に向かって小路をたどろうと、彼の行き先には水が、大小の運河が、さながら通奏低音のように、見え隠れするのである。
さらに特徴的なことは、この音楽には、雑音がはいらない。おそらくほかの町では、自動車や電車やモーターサイクルの音が、本来なら歩行者のからだにひびいてくるはずの町の旋律の大部分を殺してしまっているのだろう。それに対して、このヴェネツィアでは、広場の人々のざわめきや、小路の壁にこだまする話し声や雑音は、町の音楽のなかにやわらかくとけ込み、その音域を一層ふくらませている。

ヴェネツィア暮し (平凡社ライブラリー)

ヴェネツィアを広く深く語り尽くしてしまふが当時でも高潮によるヴェネツィア市街への浸水「アクアアルタ」は深刻で矢島翠もそれを憂ひはするが「しかし」ヴェネツィアといふ美しくとも一年の環境保全にかなりの資金が投じられ世界中の関心が集まるが、そんなことよりも米ソ冷戦での核武装危機のほうが、これからの世界にとつてどれほど深刻な問題か、と。この知性にもつと触れたかつたが千鶴子先生の指摘の通り寡作なのがまことに残念。

NHK教育で能の〈船弁慶〉を見る。合狂言といふものを初めて見たが古典演劇T君によれば、これは例外的な野心作でアイがシテ・ワキに絡むのは異例と。なるほど。後場に入るのが通例の舞を前場に置いたりワキの弁慶を前面に立てたりと世阿弥の甥の子・信光の天才なのだといふ。ただ盛り沢山は食傷ぎみになりがち。昨日はラジオで同曲目で二日続けても乙なもの。