富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

農暦四月初三

農暦四月初三。朝早く目覚めてしまひ『13・67』の4編目『泰美斯的天秤』読む。前編で逃亡に失敗した黒社会のドン・石本添がまだシャバで勢力張つてゐた1989年の話。天安門事件の年で香港では大きな反中共の世論と抗議活動が起きてゐるが、それはこの話は4月末。北京では清明節のあと民主化運動を展開始めてゐた頃、香港では8年後の香港返還前に香港の治安が何うなるのかと社会不安も生じてゐた頃。香港警察は麻薬や武器の取引で裏社会を牛耳る石本添と石本勝の兄弟逮捕に全力あげ、この組織の幹部集合する日時と場所掴み一網打尽狙つたが捜査での判断ミスあり銃撃戦となり弟の本勝こそ上司の待機指示聞かず突入した刑事により射殺されるが人質となつた無辜の市民5人が本勝によつて殺され警察に対しての信用問はれ……香港警察で捜査力がすでに高い評価受けてゐた關振鐸(当時は刑事情報科A組の警視)が事件の真相に迫る。当時、英国人が幹部であつた香港警察がローカル化するなかで警察の立ち位置までよく物語つてゐる作品。だが事件の発端は一人の人物を殺害するために真犯人がこゝまで仕組むかよ、と。日暮れに驟雨。O氏と銅羅湾の「酒の和」といふ酒バーで塩辛など肴に伊賀・森喜酒造の「るみ子の酒」といふ日本酒飲む。何だか変はつた銘でラベルも漫画で不思議な酒だが『夏子の酒」といふ日本酒造り漫画を描いた尾瀬あきらといふ人のイラストださうで銘はこの酒造の女将の名前ださう。飲んでゐてO氏が西營盤の「綾」で未だつけ麺食べたことないといふので地下鉄で行く。

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つけ麺専門店だが啤酒持ち込み。新宿吉野製麺機といふ会社の製麺機が店に置かれてゐるが、このフォルムがとても美しい。

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きれいに扱はれる調理道具もきちんと並べるとアート。

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綾のある路地で人懐こい猫を愛でる。

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雨は歇んだが東風強し。The Junk Yard Dogでギネス啤酒飲む。本当に静かな小さなパブで大人の客が静かに酒を飲んでゐる雰囲気が素敵。

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陳浩基『13・67』の5編目“Borrowed Place”と終章つまり最も時代の早い“Borrowed Time”を読む。前者は1977年の話で当時、香港警察の汚職が深刻、さうした汚職蔓延改善のためMurray MacLehose総督は総督直属の独立機関・廉政公署(ICAC)設立。MacLehose総督香港総督として歴史上最も長い11年(1971〜1982)で香港の経済成長期にインフラ整備や文革後の鄧小平復活の中共との談判など香港総督として最も功績のある御仁。そのICACで警察汚職調査する英国人オフィサーの子どもが誘拐され九龍區刑事偵緝部の頭脳明晰な高級督察である關振鐸が、この誘拐事件の解決に動く。誘拐犯が身代金を何う受け取るか、その凝つた手段が面白い。だが誘拐の本来の目的が……といふところは、その目的のためにこんな手のかゝる手段を用ゐるかよ、と思つてしまふ。“Borrowed Time”は1967年、中共文革余波で香港も反英暴動のあつた年。まだ十代後半の關振鐸は社会不安、混乱のなか全うな仕事にも就けず湾仔の小さな士多(ストア)でアルバイトしながら、その店の親切な夫婦に可愛がられ兄貴分と身寄りのない二人、士多の二階に狭い部屋住まひ。偶然のことから下宿の貧弱な仕切り壁の隣から暴動に加担する左派一味の計画を知り士多に警邏中に立ち寄る馴染みの警官にそれを通報。關振鐸は事件の解明と某重大計画を未然に防ぐ大手柄で、これをきっかけに香港警察に入ることになるといふ話で、この章だけが關振鐸の「私」といふ一人称で語られる。だが会話の中でも相手が「私」を呼ぶときはいつも「あなた、おまえ」で名前で呼ばれぬ。この十代の若者が關振鐸とは、この一人称小説の中では断定できないのだが、この『13・67』の読者は当然、この若者がその後、香港警察一の捜査推理力で賞賛される關振鐸であることを前提に読む。全6編の中では、この1967年の話が真相に至る迄の、またトリックの大げさな仕掛けがなくシンプルな筋だて。まぁ關振鐸がまだ若者で警察組織に入る前のことで、そのいくら頭脳明晰とはいへ陋巷の一人の若者なのだから偶然、反英暴動の扇動家に出くわし警察にそれを通報して捜査協力でも十分なところ。

中共のロボットなど何年か前まではあまりのレベルの低さとデザインの未熟で日本のホンダのASIMOなどに比べられ嗤はれてゐたが、この警察ロボット、設計デザインはダサいにせよ道案内など可愛らしい任務ではなく監視カメラであり顔認証までできるものか。これにより監視され「反社会的」分子は取り締まられる恐ろしい現実。