富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2016-11-16

農暦十月十七日。早晩に観塘。MTR站で家人と待ち合はせ。観塘旧市街の再開発は古い街並みがすっかり壊されSino Landによる土木工事で掘り返されてゐる。またこゝも殺風景な面白みのない巨大な複合施設が建てられるのかと思ふとうんざり。久々に雲南風味に飰す。apmの映画館。李相日監督、吉田修一原作の映画〈怒り〉見る。一つの凶悪犯罪事件が起きて犯人は指名手配中。そのニュースが流れ「あれ、この男……」と、どこからかふと現れひっそりと暮らす、少し影のある男に「もしかして、この男が……」と思ふやうなケースがいくつかある。たゞそれが、親の借金の所為で取立てから逃げる男だつたり、心臓に不治の病ひをもつ男だつたり、と偶然に偶然が重なり成立するプロットといふのは何万通りも作れてしまふ。そこが創作の、殊に悲劇やサスペンスだと食傷気味に感じてしまひ感動も涙もない私。それでも妻夫木聡綾野剛が演じるゲイのカップルも、渡辺謙宮崎あおいの父娘も、沖縄の島に暮らす素朴な若者の純愛も、それぞれ独立した短編になるやうな物語で、オムニバス映画でもなければかなり整理がつかなくなつてしまひさうだが見事に関連のない話が信頼と猜疑といふテーマで一つの作品に纏めたのだから大したもの。千葉勝浦、東京、沖縄に話が飛ぶと朝が夜だつたり、もしかしたら3つの物語は時間軸もズレてをり一人の犯人が人相や様相を変へて多重人格的に出没してまわつてゐたのではないか、とまで映画見ながら妄想。過去のある者が社会の角にひっそりと潜伏して、といふ物語では阪本順治監督で藤山直美が好演の『顔』(2000年)が面白かつたと思ひ出す。帰宅して周末に上野で母から貰つた京都村上開進堂の菓子「ダックワーズ」いたゞく。