富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

週末の引きこもり

fookpaktsuen2016-10-22

農暦九月廿二日。土曜。官邸で残務整理。昼前から陽射しが、と思つたらやつと台風一過で雲一つなき快晴。FCCで家人と待ち合はせ午餐。独逸麦酒節。食前酒に白葡萄酒飲つてゐたので麦酒は今更飲まぬが独逸料理の食譜あり魚燻製と肉腸詰を二人でシェア。美味至極。普段は足踏み入れぬ蘭桂坊下ると取り壊し中の酒場あり覗けば「97」也。楼上はPost 97といふ酒場。これが1997年より後ではなく1990年くらゐから97年に焦点当て、この名付け。当時はかなり流行り階下のClub 97は他の酒場とは差別化のスノッブなバーのはしり。蘭桂坊の坂下で路線バスとタクシーの接触事故。路地の新聞スタンドはまぁ陽射しが康成的キレイだこと。トラムで西環。中環から上環、西環と覚へてゐるが、つい西環と思つてゐる一帯は西營盤で、その先でケネディタウンに曲がる手前の一帯が西環。以前は少し不便な場所だつたが今ではMTRの香港大學站出ると西環Shangri-la系のセコンド、Hotel Jenに下榻。香港で親でも来たのを除けばホテル宿泊なんて四半世紀ぶりだが余りに疲れて精神的に強制リセット必要でhide awayといふ次第。バジェットホテルだが一応はクラブフロアあり最上階(28階)のラウンジで登記。山景の部屋予約してゐたがShangri-laGolden CircleがJade会員なので「グレードアップは?」と尋ねたが海景や套間にはならず退房時間は明日の午後4時に。26時間滞在となる、何をしようか……って寝てるだけだが。27階の客室から香港大學の新キャンパス一望。これはこれで絶景。午睡。クラブラウンジで早酒。FTなど週末の新聞雑誌ゆつくり読める幸せ。ホテル近くの上海料理の小さな店に入る。かなり賑はつてゐるがけして美味いといふワケに非らず。家の近隣でなら、まぁ手頃な感じか……といふか「美味い上海料理」にありかうといふ発想すらいけないのかも。食後の散歩。普段、生活をしている都市で、たまに通る市街なのに、かうして宿に泊まり漫ろ歩くと旅人気分。客室に戻り読書。少し寝て、また読書。夜中に客室の机上が陋宅の自室の机上と雰囲気があまりに似てゐることにふと気づく。生活習慣。

▼岩波『世界』九月号やつと読む。吉田徹「時間かせぎの政治」はいくつかの論評で取り上げられてゐたが、その前に(この雑誌では吉田の次に掲載されてゐる)北野和希による晋三政治の分析が面白い。晋三について個別政策はいずれも反対や期待しないが多数、だが野党への期待感のなさが自民党を「弱く」支持。晋三の政策は
(1) 個別政策に焦点が当たらないように。
(2) 無党派層、自身に批判的な有権者を政治から遠ざける。
(3) 成功はしなくても失敗はしない。
(4) 争点は作らない。
で首相になつてからの選挙も晋三一人による擬似選挙交代。強い経済、社会保障の充実、子育て支援 といつた野党も反対できない政策は何が成功で何が失敗か漠然としてをり、どの政権でも「わざわざ強調しなくても最優先に取り組まなければない」ものばかり。野党もその政策を批判できず、それらは任期中に達成しなくても失敗と批判されない……確かに。これほどの強靭さ?は晋三の天性の素質なのか……まさか。かといつて誰かが演出してまでできるほどの役者なのか……まさか。なぜか、アタシにはさつぱり解らない。で吉田徹「時間かせぎの政治」だが(以下、要旨)

アベノミクスは金融と財政、構造改革といふオーソドックスは経済政策を「三本の矢」と言ひ換へたものにすぎず無内容に近い。
財政政策や構造改革は実現されないままで金融緩和一本槍では継続した景気浮揚は望めず場当たり的な財政政策を繰り出すばかり。三本の矢を矢継ぎ早に放ち続けながら「アベノミクスは道半ば」といふがアベノミクスは「永遠に道半ばであることを使命としている」。道半ばであるかぎり「いつかは」と期待させ、その期待値が政権維持と政策支持に。三期連続のマイナス成長、実質賃金の低下、生活水準指数の落ち込み……これが民主党政権なら不信だが晋三にとつては「マイナスの実感」が期待値へと転換される。野党は景気回復に対する国民の「実感のなさ」を持ち出すが、その時間が待たれてゐるものである以上、説得力欠くのは当然。増税しないことを国民に問ふ前代未聞の選挙。消費増税は明らかに景気にブレーキをかけるが、その増税をして需要削減をしておいて、その腰折れ感修正のため増税延期といふ手段で勝利確実な選挙に臨む。
アベノミクスは、その成功を待つものではない。それが永遠に成功しないことが安倍政権が支持されることの根底にある。自ら実現を掲げるものが失敗する限りにおいて自らは必要とされる……この「アベノマジック」ゆえにアベノミクスは終わりを見せることなく決算を延々と先延ばしされ空吹かしされていくことになる。
資本主義が後期で破局に向かつてゐるとしたらアベノミクスも実現しないことが政権の選挙での強さと権力を確保している限り、同じ時間稼ぎ。戦後は経済成長により平等で豊かな中間層を作ることができたことで民主主義が支持され定着。その分配がなければ民主主義は意味のないものとなる。それを隠し永遠に到達し得ないゴールを設定して誤魔化しを続ける政治的経済政策。

と。さう、その通り。これほど張子の虎の中身空っぽの政権なんて未曾有(みぞうゆう)なのだが何故に、それが長期政権なのか。