富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

丸山眞男の敗北

fookpaktsuen2016-10-09

農暦九月初九日。晴。実に陽暦で八月廿七日以来で43日ぶりに休日。憔悴とはかういふものか、と実感するほどで体重も3kgほど落ちてしまつた。昼前に少しジョギング。昼に半田めん。シェリーを一杯。
十月も未だ晩夏に昼、シェリ
少し午睡。歌人と106系統のバスで九龍城。九龍城街市のトイレに寄ると市場の管理事務所のオヤジが可愛がる猫がホールの真ん中にちょんと座つて勤務中。少し愛でるとするするんと近寄つて来たのはいゝが屈んでゐたアタシの太腿にぴょんと乗つてバランス良く座りこんでしまひ、通る人には不思議な猫との大道芸のやうで笑はれて恥ずかしいかぎり。それにしても人によく懐いた猫だこと。新三陽南貨でも猫を愛でる。こちらは大閘蟹のシーズンで肆が忙しく誰にも構つてもらへず寂しさう。久々に金寶泰国餐庁でタイ料理。今ではHKJCで馬主でもあるご主人が店の前で客あしらひから帳場まで仕事に対する真面目さに敬服。財布がない。一度も財布を出してゐないので家に置いてきたのだらうが落ち着かず。バスで帰宅すると財布は机の上に。
▼日曜日の新聞の読書欄、昔は朝日新聞の読書欄に取り上げられると書店でその本の売り上げが伸びたといふ。書店にも「朝日新聞の書評に出ている本」と宣伝してゐたもの。今もそんな力はあるのかしら。アタシからすると朝日の読書欄は面白くなくなつた。断然いゝのは毎日新聞。今日の読書欄で伊藤祐史といふ研究者(1974〜)の丸山眞男本を橋爪先生が評してゐるのを読む。この本のタイトルが凄い……『丸山眞男の敗北』。丸山眞男は「逆風に抗して舞い上がる凧」で「戦争に負けたのではなく戦後に負けた」と言ひたい放題。戦後に『超国家主義の論理と心理』で華々しく登場した丸山は戦後民主主義が逆コースで後退=人々の権威主義的な思考様式(内なる天皇制)の所為で立ち枯れてゆくと丸山は焦燥し(池田政権での)政治の安定と経済成長で丸山はスランプに陥り研究意欲がわかず「凧が上がらない」。1960年代以降、丸山が日本思想史の研究に沈潜した時期、日本思想の「古層」に吸引されたのは何故か。丸山は生涯を通じて日本の〈開国〉を課題にして、明治維新も敗戦も開国だが外からの近代化に日本人は翻弄されるばかり。内面の近代化。その内面からの開国を経験する主体としての日本を設定すると〈原日本〉が自ずと立ち上がつてしまひ、それは(近代の超克的に)戦時中の皇国史観に基づく日本精神論と「内容自体まったく変わりはない」。丸山によれば昭和になつて日本が誤つたのは日本の近代化が前近代的要素に歪められ「開国」が失敗したから。戦後ももう一度「開国」の機会があり近代的主体を育てるはずが国民は経済成長には邁進したが戦後民主主義を担ふことを放棄。それを丸山は事実として受け入れられなかつたことが「敗北」なのだといふ。敗戦後の米国による佔領も丸山の視野から抜け落ちてゐるから八月一五日革命説なんてものに与してをり丸山は「戦後日本を総体として理解できず語る言葉を無くし余裕を失って硬直化した」。その欠陥が丸山の悪しき子孫にも受け継がれて……とまで、この研究者は戦後の丸山眞男的なるものを否定してみせる。橋爪先生も丸山眞男の「今その虚実を冷静に描き出し、次の時代に進もうとする仕事が現れたことを励みとしたい」と結んでゐる。丸山眞男に対して「虚実を」と言つたところで丸山は意図的に辻褄を合はせやうとか、詭弁で何かしら言い繕つたわけではなく少なくてもその時代の状況の中で日本の現代を思想的にどう理想化するかに努めただけで、後からその成果をどう評価するかは勝手だが、まるで最初から何か間違つてゐたから……の敗北者扱ひは若手の思想家がいくら自らが凧として風に乗つて上がるためにはいゝネタかも知れないが、あまりに容易すぎはしないか。問題は丸山眞男を否定するのは容易でも、その否定を乗り越へる、どれだけの政治思想と、この日本といふ国のかたちがアンチ丸山で出来るのか、といふことでせう。アタシにはとても恐れ多くて「丸山眞男の敗北」なんて言ひ放てないアタシぢたい戦後民主主義でのガラクタの一つにすぎないのかしら。
朝日新聞(日曜に想う)「失望させない政治技術」曽我豪(こちら、以下要旨)

小泉政権のあと自民党では安倍、福田、麻生と短いリリーフが続き政権交替で民主党も鳩山、菅、野田と首相がころころ変はつた後の自民党政権復帰での晋三の長丁場。
古い自民党を仮想敵にして小泉改革を掲げた2005年も、古い自民党に代わる政権交代を掲げた2009年も、ともに大勝は民意から大いなる期待を取り付けた結果。たやすく大いなる失望へ。混沌の6年の真因は「失望させない」政治技術の欠落。
(二度目の登板で晋三は)アベノミクスに集中し、株価と支持率を堅調にして選挙を制する。支持率が降下するだろう特定秘密保護法集団的自衛権の行使容認、安保法制を合間合間にひとつずつ仕上げる。消費増税といった難物は状況次第で先送り。昨年の戦後70年談話に「侵略」の2文字を書き込んだように今度は改憲で「9条」の棘を抜いておく。右に大きく振れると思わせて、ぎりぎりで寸止め。失望を最小化する首相の政治技術。
アベノミクスにかつての神通力はない。改憲と任期延長とで政権に焦りの印象が強まれば、かえってこの4年で経験しなかった「失望」の逆風に遭遇。

もう晋三も明らかに賞味期限切れなのだが、問題は「ただそれも民進党次第。曽我は「失望させない民進党という解答を探り当てねばなるまい」と結ぶが、それが出来れない。だから与野党再編しかないのだが。