富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

国民は憲法を守らないといけないか?

fookpaktsuen2016-05-03

農暦三月廿七日。憲法記念日。「国民は憲法を守らないといけないか?」といふ◎✖クイズがあれば答えば✖で国民が守らなければならないのは法律で、憲法は国民が首相や国会議員などの為政者に守らせる約束事(朝日「立憲主義を取り戻す時」こちら)といふ立憲主義の基本の基も晋三のおかげで国民に定着。で数年前まで改憲賛成が反対上回つてゐた世論は改憲不要55%に対して必要37%、9条改正反対68%(賛成27%)、緊急事態要項に賛成33%で反対が52%(朝日)。中曽根大勲位をして「世論の動向を見れば憲法改正の必要性は受け入れられつつも躊躇もあり依然、壁の厚さを感じざるを得ない」と言はしめるのが「晋三の怖さ」で、改憲賛成層でも安倍政権下での改憲に賛成57%、緊急事態条項追加賛成も56%である。だから自民党は党是たる「自主憲法制定」を晋三などに委ねたことは党史に残る誤謬なのでは。夕方から雨。尖沙咀。福岡O氏が郷里からGWで旧知の囂しいオバサン三人組が来るので付き合つてくれないか、ご馳走するから、と誘はれ尖沙咀のハイアットに向かふが福岡から上海経由の東方航空便で搭乗の便が午後2時前後のいずれの便かわからず、連絡もつかず、先便ならもうとっくに下榻してゐるはずだが未だのやうで後便の由。チンチンバーで四方山話しつつ啤酒飲むこと二時間。雨は本降り。当初はお客様がたが香港の夜景、午後8時からの夜景電光ショーご覧になりたいといふことでHotel Iconの広東料理・天外天を予約してゐたが到着遅れで予約取り消してしまひ、フライトも遅れたら機内食も食べてきてお腹空いてゐないかも、なんて言つてゐたら、さすがオバサンたちは「思いっきりお腹空いてまーす!」で三時間遅れの旅の疲れも見せず、で鹿鳴春に電話すると予約取り消しいくつかあり席があるといふ。雨のなか道路渡つて北京料理頬張る。さすがに疲れぎみで寄り道せず晩十時すぎに帰宅。
▼新聞各紙の憲法特集のなかで毎日が具体的に「緊急事態事項不要論」に的を絞つた特集は出色。しかも福島の浪江から「情報網こそ大切」、宮城の気仙沼から「現行法で十分」の声。対談は木村草太と井上達夫で、これも面白い。

建前上は「自衛隊、安保は憲法違反」と言いながら政治的には本気で取り組まず専守防衛の枠内なら自衛隊・安保は政治的にOK、違憲のまま存続させろという姿勢、これを主張する憲法学者も出てきて、そんな主張は立憲主義を蔑ろにするもの、違憲状態の固定化を望む護憲派ってあるか、自衛隊憲法上認知しないまま「侵略されたら俺たちを守れ」というのは許し難い欺瞞。

と達夫さん。毎日の社説「まっとうな憲法感覚を」(こちら)も一読に値する。

歴史や伝統は確かに大切だ。しかし、国境や国籍を超える基本的人権の理念よりも優先される歴史や価値観が、あるとは思えない。(略)改憲論議は性急さを避け、社会の広範な同意と納得を目指すのが本来である。憲法の掲げる理念を堅持しながら、多くの国民から理解を得られるものにするのがいい。(略)憲法は社会の安定のためにある。にもかかわらず、改憲論議が国論の分裂を招き、社会を不安定にしては本末転倒である。政治家のための憲法ではなく、国民のための憲法に。憲法の議論は、そのまっとうな感覚を持つことから始めたい。

その通り。それに対して情けないのが読売の社説(こちら)。晋三の改憲に対して国民の反発強いことに配慮してか「改正へ立憲主義を体現しよう」なんて改憲のためには立憲主義まで持ち出してみて9条以外の災害に対する緊急事態条項や参院改革など挙げるが

固有の歴史や伝統、文化を有する都道府県という行政単位を重視し、参院議員の地域代表の性格を強めることは検討に値しよう。

は噴飯もの。廃藩置県とその後の統合で出来た都道府県に固有の歴史や伝統なんてないし、それを基にどうすれば参院議員に地域代表の性格求められるのか。読売は憲法改正不要の世論のなか憲法記念日に合わせた世論調査は当然のやうにない。「ついで」程度に書いておくと日経の社説「憲法と現実のずれ埋める「改正」を」が、さすが日経さんの筆致(こちら)。

憲法解釈を見直して集団的自衛権の行使を限定解除したことで現在の国際情勢に即した安保体制はそれなりにできた。9条を抜本的に書き直す必要性はかなり薄らいだ。あとは自衛隊をどう法的に位置付けるかだけだ。9条にばかりこだわる不毛な憲法論争からはそろそろ卒業したい。

って自衛隊をどう法的に位置づけるか、と集団的自衛権は直接の関係はないのに、そこに「国際情勢に即した安保体制」といふフレーズ入れることで強引なレトリックよ。その日経でも世論調査憲法の現状維持が初の過半数(改正は40%)。アベノミクス評価も日経ですら「評価せず」が過半数とは。「9条にばかりこだわる不毛な……」と日経に嘯かれた9条だが朝日では9条は「長らく銀国主義に浸かってきた日本の政治社会を一旦、徹底的に非軍事化するための規定」であつて、それにより「公共」の改造ができ「公」と「私」の枠組みに支えられる形で日本の立憲主義が初めて安定軌道に乗ることができたのだから9条こそ大切といふ石川健治先生の主張(「9条 立憲主義のピース」こちら)。美濃部機関説、矢内原学説、津地鎮祭判決の藤林最高裁長官の逸話……と、岩波&朝日の世界。

国を愛するというのは自然な感情であり否定のしようがない。しかし、それを国家が強要するのはまた別の話であって、ある特定の価値によって、しかも命を懸けるに値する公を染め上げようというのであれば、それは日本の立憲主義にとって致命傷になる。現代版「立憲非立憲」の戦線は、ここにもあるのである。

で結局、安倍か反安倍か、となる。