富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

「頑張る」

fookpaktsuen2016-04-18

農暦三月十二日。朝、出かけようとすると大雨。ちょうど最も雨のひどい時に出かけてしまひ暫くして歇む。実家から届いた荷物の中にあつた岩波の『図書』4月号。ぱら/\とページ捲ると頁を折ってある記事あり。佐伯泰英がテロ後の巴里訪れる話。いくらテロの怖さがあるとはいへ同行の家族でそれ/\遺言状とは何を大袈裟に、と思ふ勿れ……それは岩波茂雄からの名建築「惜櫟荘」がもしものことで泰英さんや家族にもしものことあり他人の手に渡り分割処分でもされたら……といふ話。母がこれを私に読ませたくて頁を折つてくれたのかしら。晩に岸政彦『断片的なものの社会学』(朝日出版社)読む。書評でかなり話題で紀伊国屋人文大賞受賞、高橋源ちゃんが「社会全体の未来を見据えたことば」なんて賛辞。とにかく社会学者として著者の物の味方が面白い、といふ。何となく自分には合はないテイストではないか、と思つて読んでみたが案の定、この発想も、ものの見方も書き方も生理的に苦手な部類だつた。アタシの感性の乏しさかもしれない。
▼熊本の地震で、まさかまだ「朝鮮人が井戸に毒をもった」といふ流言飛語がネットに登場とは。その一方で韓国からの日本留学生らが募金活動。「生理用品が不謹慎だ」として避難所で支援物資として配られなかつたといふ311のときの話も、どこまで本当なのかわからないが、これも再びネット上で話題になつてゐる。女性への支援物資は古くは阪神淡路の地震田中康夫ちゃんが神戸で口紅やファンデーションなど化粧品を配つても一部の「売名行為」といつた反発はあつても今のネットで拡散されるほど話題=問題にもならずに済んでゐたはず。
▼「愛媛の新聞がスポーツ面の見出しで「ガンバレくま本」とメッセージを盛り込み話題に。それはそれでいゝのだが久が原T君曰く、物を知らぬ若年のころ最も尊敬するある方に初めてお会ひし思わず「頑張って下さい!」と申し上げ相手に怪訝な顔をされた経験から「押し付けがましいこの非礼の語は爾来決して用ゐない」と。アタシも幼いころからつらいこと、とくに体育が苦手で、いつも「頑張ればできる」とか言はれると「頑張ってもできないことはできない」と思つてゐて、この言葉が苦手。「がんばる」という音韻も好きではない。意味も「忍耐して、努力しとおす」で、本人がさうするのはいゝけど、とても他人に対しては言へない。自分が「絆」を大切にしたり本当に頑張らないといけないほど逆境に追ひこまれたり努力するといふやうな経験がないだけ、といはれたらそれまでだが。
天皇皇后両陛下、昨晩サントリーホールで開催の仙台フィルによる演奏会にお出ましの予定がお出かけの予定が熊本の地震へのご配慮から鑑賞取りやめの由。娯楽なら配慮もあるが、この演奏会は東日本大震災の復興支援感謝が目的の特別演奏会。お出ましの判断はかなり難しいことだつたでせう。私はご鑑賞の上、演奏者、観衆と一緒に熊本に思ひを馳せても良かつたのではないか、と思ふ。地震といふ天災を避けられぬ国の聖上であられるのだから。

断片的なものの社会学

断片的なものの社会学