富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

基隆、李天祿布袋戲文物館

fookpaktsuen2014-03-25

農暦二月廿五日。反服貿協定の抗議運動は昨日、立法院占拠する学生の一部が業を煮やし行政院に突入。行政院院長室にまで入り文書破棄など狼藉働き政府は警力で学生を排除。台北で体感する政治的温度に比べマスコミの報道の、とくに自由時報のまぁ喧しいこと。晴。台北站から朝九時半すぎの區間車(鈍行)で基隆へ。台北を出て汐止までの地下鉄モードは本当に楽しくない。東京駅からの総武線快速も地下だが、こちらはもともとなかつた路線を地下に掘つて横須賀線と繋げたので、まだわかる気がするのだが、台北の場合は地上にあった在来線をそのまゝ地下化して、確かにそれによつて台北市内で鉄道により遮断されて跨橋が難儀だつた中山路など抜け易くはなつたものゝ、地上にない鉄道といふのはやはり旅情といふものがない。昨日の台北手前の樹林同様に七堵(Qidu)にある車両基地を車窓から眺める愉しさ。基隆着。暑い。昨年12月にも基隆に来たときに基隆站到着の手前で市街の市場の中らしい風景に、とても混雑した踏切あり気になつたが今日もZ嬢が「わ、すごい」と気づき今日はその踏切目指して歩くことにする。アーケードの奥に、まだ朝の十一時前だといふのに赤ら顔、卡拉OKで自慢の喉を披露する老人たち多し。「小吃店」といふのが並ぶ一角あり「いかにも」な艶っぽい姐さんたちが店の前、アーケードの日陰でぼんやりと……は客は適当につまらない小皿料理注文し酒も少し入つたところで姐さんと交渉成立なら見世の奥だか樓上へ、といふ仕組み、つまり青線。かつては港町として、そしてゴールドラッシュに湧いた基隆が今いったい何があるのかしら?、でも中年以上の男女が朝からかうして無聊な日々を送つてゐるのだから、毎日。上述の踏切は成功二路の陸橋下。かなりの混雑で踏切の両側に路上市場あり市民が渡るばかりか多数のバイク、そして陸橋は自動車専用なのに陸橋の下の踏切も車が割り込んで来るから大変なことになる。そして區間車だけでも十数分に1本なので上下線で5〜6分おきに踏切が閉まるのだが、サイレンがなってもバイクばかりか自動車まで踏切に突っ込むから大変なことに。一昨日の台南といひ鉄道踏切好きの「踏鉄」にとつては、この基隆成功二路路口、これは垂涎かも。孝四路に遠東蚵仔煎といふ馳名の美味い文字通り蚵仔煎(蠔のお好み焼き)あるのだが踏切見学してゐる間に昼近くとなり客が溢れてゐる。筋向かひの牛肉麺屋。餃子も飰すと、これが意外と美味。正午の路線バスで前回同様に基隆から台湾最北部廻りで淡水行きのバスに乗車。Z嬢は初めて。海岸線めぐりのバスの旅には絶好の快晴。前回は不覚にも気づかずにゐたが金山温泉郷の手前に台電第二原発あり。日本に比べれば小さな原発で海岸線とはいへ高台にあるがZ嬢が車窓から海眺めてゐて海岸線でゴボゴボと大量の排水が吹き出す場所があり「いったい何?」と驚いたのが原発からの冷却水。青い海。台湾の最北端を過ぎてバスは内陸部に入り三芝の町で下車。海岸線から少し山間に入つた、陸路の交通の要所ではあるが、こんな小さな町にかなりの集合住宅と商店街あり。みんな何をして暮らしてゐるのかしら。幹線道路から町内抜けなだらかな坂を上り30分近く歩き李天祿布袋戲文物館に辿り着いたのはいゝが集落に人影すらなく文物館の事務所(といつても個人住宅)で見学申し出ると数軒先の家に「お客だよ」と報せ、出てきた女性が路地の向かひにある布袋戲文物館を解錠して電気をつけてくれて、の入館。李天祿(1910〜98年)は侯孝賢監督の一連の映画(悲情城市、戲夢人生、戀戀風塵)で印象深い台湾の伝統的な布袋戲(人形劇)の伝承者。李天祿が亡くなる二年前に布袋戲の劇場施設もある、この文物館オープンさせ次男の傳燦が取り仕切つたが傳燦も2009年に逝去。アタシらのために開けてくれた女性がこの傳燦の未亡人の由。また坂道を下り三郷の町から路線バスで淡水。明後日の帰路のフライトを車中、iPhoneからネットでチェックイン。便利になつたもの。淡水から捷運でホテルに戻る。夕方の部屋で麦酒飲み。日暮れて路線バスで敦化南路を北上、市民大道の角にある「陸光小館」。市街地の古いビルのG階改造して蒋介石時代の台北にゐるやうなレトロ模した食肆。それだけなら奇を衒つた、で終はりだが供される料理が美味い。大変気に入る。路線バスで帰宿。テレビつけるとNHKのBSでアジア三都物語「時が止まった街角で」といふ番組で偶然に台北の若者群像、あまり期待もせず見始めると台北の「社子」は基隆河淡水河に挟まれた中州で、被差別ではないが洪水のリスク高いと台北市が都市開発に消極的。基隆河の対岸は士林、劍潭で台北で一番スノッブなエリア。天国と地獄。社子には町工場など集まり、この社子に育つた子どもたちは成績が良ければ出ていき、さうでなければ社子の町工場や伝統的な節句のお囃子のやうな歌舞音曲の社中で糊口を凌ぐことになる、といふ物語。そこに、この番組の放映が今晩なのは本当に偶然なのだが台湾は中国との服貿協定で中国の産業や人資が台湾に入つてくることで社子の印刷業や廃品回収など地場の零細企業は一気に打撃受けることになる……と社子の悲壮感。