富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2013-06-09

農暦五月初二。机上の整理や新聞記事のスクラップ、掃除、陋宅の細々した修理などしてゐたら昼。昨夕の羅富記で持ち帰りの粥の残り啜る。熱はないが流感で喉痛、咳ひどく頭痛もして難儀。驟雨。燈刻、枝豆茹でて麦酒コップ一杯。一昨日購つた嘉湖の粽を飰す。折角の休日が体調勝れぬと文藝春秋一冊すら読みきれず。兎に角、日記書いて寝てしまふしかない。左の画像は1970年代の國際大酒樓婚宴菜單。もうこんなメニュー誰も書けないだらう。「洋酒自来、免開瓶費」ってのが素敵。
▼元高、香港ドル安に加へ深圳のインフレで生活物資は香港の方が安いといふことに。
文藝春秋六月号は微妙に晋三から距離を置き始めつゝあり。先ずは平蔵攻撃だが中野剛志「竹中平蔵「成長戦略」という毒の矢」は最後にわざ/\(本稿は筆者個人の見解です)と但し書きあり(笑)。文藝春秋なんて山折某の皇太子退位論すらそんな但し書きないのに。ちなみにこの六月号では沢木耕太郎先生連載のキャパ話で(*キャパと筆者が撮影した写真は前頁の折り込み部分に掲載されています──編集部註)とある程度。富坂聰の「中国の戦争」はこの書き手のいつもながらの「見て来たやうな」で香港に関する中英交渉も細かい誤記*1少なからず。野坂昭如「日本人とバブルの国の物語」がいゝ。

 わが国は、財政赤字だけで一千兆という債務を抱え、先行き不安定。もとはと言えば、お上の無能が招いたこと。既得権を守らんがため、また、アメリカのお達しゆえと、根本的改革は行わぬかわりに、政策のみ、ころころと変えてきた。思いつきの政策が問題の根本を見えなくさせ、さらなる悪化を招いてきた。また、国民の側も、バブル崩壊後、その場凌ぎの政策にうつつを抜かしてきた。
 安倍内閣の支持率は高いらしい。この支持率というものの基盤の危なっかしさについてはともかく、大手マスコミこぞって安倍内閣を支持、というより、よってたかって持ち上げている印象。もはや、野党はないに等しい。アベノミクスとやらが、何を目指しているのかぼくには判らない。お札を刷って国債発行、憲法を改正して、自衛隊国防軍がふさましいという。
 国民は物を買え、国内消費を増やせ、デフレからの脱却、円安、株価上昇、何より経済が大事だと、今や右も左も消え失せて、時の政権が過激が言辞を弄している。(昭和末期のバブルの話があり)……今の空気はあの時の、のっけに似ている。さらに言えば、マスコミの口調は、大本営発表そっくりである。
 日本が先進国というならば、ここに至るまでに、おかした過ちを認め、襟を正し、この辺で一度、仕切り直しをするしかない。金をバラまいただけでは子供は育たない。日本人を生かした文化に根づいたものの伝承をはかる必要がある。人こそ資源なのだ。
 再びの高度成長はない。かりにあったとしても、このままでは砂上の楼閣に過ぎない。
 今ある歪みは、まぎれもなく今日に至る日本の歩み方に原因がある。それと向き合わず、何の反省もなしに、小手先の誤摩化しでやり過ごすなら、日本の破滅は必至。

と昭如さん。御意。晋三の「第三の矢」は華府ポスト紙にも社説(七日)“Japan’s Shinzo Abe underwhelming package of economic reforms”で“Political realism should mitigate some of the disappointment.”と指摘。米国様に落胆されてはお終ひ。たゞこれを伝えた時事通信のベタ記事がひどくて

米紙ワシントン・ポストは7日付の社説で、安倍晋三首相がデフレ脱却に向けた第3の矢と 位置付ける成長戦略について、物足りない構造改革案に市場は失望させられ、「失敗だった」 と批評した。

と……上述の社説読んだかぎりはけして晋三の構造改革が「失敗」とまでは断定してゐないし、寧ろTTPも控えてゐるのに徹底した国内産業の、殊に農業など構造改革が十分でない、もっと頑張らないと成長戦略が成功しない、とすら言はれてゐるやうに読めるのだが……更に最悪なのは、その時事を読んでネット言論がさかんに「だから左派マスコミは」、華府ポスト=中国資本で反日記事、と何だか全然違ふ方向で非難されてゐる(こちら)……あら/\。これに対して佐々木毅先生(東大名誉教授)の「問われる民間活力」(今日の都新聞)が一読に値する。晋三の第三の矢について「総じてこれらの目標の多くは「実現できたらいいな」と思うもの」ばかりで、本来それには現実性の裏付けとなる具体的施策が用意されないければならないが、どれも小粒で日経さんですら社説の表題が「目標ばかり躍っていないか」とされたほど「目標とその現実手段である具体的施策とのギャップが埋まっていない」。成長戦略の担い手は、政府が設備投資するわけぢゃないので民間、だがその民間活力も長年の経済停滞で陰りは出てゐないか、経済成長のためには一定以上の産業の新陳代謝が必要だが日本は開業率、廃業率共に先進国のなかで極端に低く、今回はそれを国際的水準に高めるといふが「成長戦略はその担い手づくりから始めなければならない」わけで、民間活力もないといふ「もしここに重大な病いがあるならば、政府が何度、経済成長戦略を提示しようと現実には先に進まない」もので

しかも、今回は金融政策、財政政策が限界まで踏み込んでおり、実体経済が前に進まないようではアベノミクスのリスクは従来と比較にならないほどに大きくなろう。その意味でアベノミクスは空を見上げ、夢を見るような話ではなく、痩せ尾根を一歩一歩登っていく風景に似ている。

とまで指摘されてゐる。それほど日本といふ国はかなり「ヤヴァい」極限点まで辿り着こうとしてゐるのに、その肝心な政府与党=自民党の諸君が「憲法に義務規定が少ないことが戦後の権利優先社会を形成する一つの要因」で「現行憲法個人主義に偏ってゐる」から、それを憲法改正すれば国民の意識も高まり……なーんてバカがなこと真剣に信じてゐるのだからバカにつける薬はない。

文藝春秋 2013年 06月号 [雑誌]

文藝春秋 2013年 06月号 [雑誌]

*1:英国が中国に対して「現有する香港島の主権を譲ることと引換に」とか鄧小平は「香港が中国に返還された一九九七年にこの世を去る」とか。前者は「香港島と九龍」であり後者は同じ九七年でも塘鄧小平逝去は二月で返還前。