富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

大鵬はスリランカ出身でアラスカより引き揚げだったとは!

fookpaktsuen2013-01-22

農暦十二月十一日。雨模様。朝の特急で上野に向かふ。G車で同じ列に典型的な浜通りのオバサン二人と娘の三人連れ。東京で芝居見物の由。典型的な大衆芝居好きの、もしかしたら綾小路きみまろのディナーショーにでも行きさう、だが今日の行き先は浅草公会堂。もちこんだペットボトル飲料数本がぶ飲み、お菓子など頬張りながらの近所、親戚の噂話尽きず。「あ”〜、そうげぇ〜?、〜だっぺよ、違うっぺぇ」と茨城弁教室、だと思つたら福島のいわき在郷の浜言葉で更にワイルド(笑)。他人の噂話したところで、それが自己の何かタメになるか、といふと不毛の世間話面白可笑しく聞く。二十年、五十年、百年とかうして平凡なる世代を超へ日常生活が続くのね。誰と誰は仲良くない、だが誰とは仲いゝ、誰は人がいゝからあんな人たちの内でたらひ回し……と他愛ない馬鹿/\しい話だが、よく考へると政治も外交も一緒か(笑)。地震津波の被害の話はするが核禍については一切言及なし、が印象的。常磐線は藤代〜取手の間?、交流と直流が変はる区間、昔は車内の電灯も消へたが今は照明はそのまゝで、この電気の変換に気づきもせぬが特急新型車両の座席の電源供給は一時的に止まることを識る。件の三人組、一頻り話し終へたか、と思ふと「しかし大鵬死んぢゃっだねぇ」と(笑)。「間(あひ)の子なんだよ」「そうだよ」「お母さんが日本人で……父親はどごだっけぇ?……モンゴルけ?、スリランカだっぺ」「アラスカから引ぎ上げてきだんだぁ」と会話が続き周囲の客、笑ひ堪へるのに必死。スリランカウクライナも音的に似てる?オノマトペ。アラスカは確かに樺太と方角は間違ってゐない、が。上野に着く手前で始終口を閉じることなかつた年長のオバサンが(家族関係もよくわかつたが)義理の妹と姪に祝儀渡そうとして「いゝから」「とっといて〜」「もえらねーから」「いゝから」と、まぁ他人に迷惑な現金のやりとり。これも文化人類学的には、あの遣る側と貰ふ側の大げさな行動が興味深いものあり。本来は姉はこの祝儀をやる理由もなく、義妹ももらふ必要がなくても、あげる意思を見せる、もらふことを大げさに断る……でお互いの立場が守られる。これを面倒がつてサボってしまふと「お姉さんも昔はいつも姪にお小遣ひくれたもんなのに、最近はくんねぇんだよ」とか「いつまでお小遣ひなんか貰ってんだろ、いゝ年して」と善意が悪意になつたりも、するから。上野着。銀座線で赤坂見附。赤坂に来たのは……と思ひ返そうにも十年以上前に一度、富士ゼロックスのW君とのお昼に料亭が営業拡大でお昼に座敷で昼膳供するから、とそれを飰して以来。一ツ木通りのケーキ美味な喫茶「しろたへ」。大学時代の恩師H先生と十数年ぶりの再会。大学のゼミで国の政治や社会制度、社会それじたいがどれだけおかしいか、とあれこれいつも話してゐたが当時はまだ改革されるだけの期待もあれば勢力に力もあつたが細川の殿の政治道楽と民主党政権交代で(自民党の所為に非ず!)すつかりさうした希望も力も衰退してしまつた感あり。H教授にアタシは「中国人の近代性」をお話する。国がだうなろう、と個人と家族の力の強さ。家族は日本の親、兄弟の小家族でなくクランでの扶け合ひや親和力など。中華民国の共和制は失敗し共産主義革命もまるで違ふ方向には逝つてゐるが、それでも共和制の市民革命を経た「国民」の強さ。それにしても「しろたへ」のシュークリーム、四半世紀ぶり?で頬張つたが美味。見世の雰囲気も音楽も流れず静かに振り子時計がチクタク、チクタク。給仕氏も「これでもか」のニン。H先生に「とらや」のお菓子いたゞく。先生のお住まひは赤坂御所の向かひ、カナダ大使館から一寸入つたところの静かな立地のマンション。高円宮妃とも親しくされてゐればそりゃ便利。先生とお別れして東京ドイツ会館。お近くで働くT嬢とのお昼に此処の「ノイエス」といふドイツ料理屋に誘なはれるれる。知的なT嬢にも大鵬スリランカ節はかなりウケ、あの「いわき」のオバサンたちの会話の何の意味もないやうな噂話でのコミュニケーションの円滑さ、から地域社会での贈与論に話題は至る。相手が知的だと話が本当に面白く話にいろ/\なユニークなアイデアが浮かぶ。T嬢からも「とらや」の干菓子いたゞく。雨もあがり少し青空。日本って何故にトイレがこんなにも清潔で綺麗なのかしら。代々木。午後から燈刻にかけ仕事。代々木といつても日本共産党に非ず。早晩、新宿に戻つたが何軒かの識るバーもまだ開業せぬ時間、路地裏のEarly Birdなバーのネオンが灯るのを見つけ、ふらりと一見さんで口開けにヒマな若いバーテンダー相手に四方山話。晩八時にZ嬢と伊勢丹角で待ち合わせ百年一日の如く三丁目の「鼎」。百年一日の如き「なめらう」は注文せず蛸の天ぷら、豆腐料理、鴨のロースト。島根は李白の辛口純米と青森の田酒。ばらちらしも美味。こゝの従業員は本当に皆さん素敵。手際も愛想も格別よろしいから。大江戸線麻布十番。奥麻布のバーHに一年ぶりに。オーナーバーテンダーのK氏に澳門土産のモスカレート差し入れ。ハイボール注文したらカルヴァドスソーダ割り供された。これはなか/\出来ることぢゃない。半夜三更近く旅寓に戻る。