富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

早朝の西湖を走る

fookpaktsuen2012-12-08

農暦十月二十五日。朝五時半ころに目覚め真っ暗。油断してゐたら六時すぎに空が白みはじめ慌てゝ冬用の軽いウェアで支度してジョギングに。気温は摂氏2度。ホテルから地下道潜り西湖に出る。まだ薄暗く湖畔を歩く人もほんと視野に一人、二人。静寂。少し走ると身体も火照り汗をかくほど。だが写真撮ろうと止まるとすぐに寒いから。湖畔をばずっと走れるのか、と思ってゐたら東南のあたりの緑地には昔は政府幹部専用だったのかしら瀟灑な宿舎や倶楽部施設など点在し林のなかを迂回。南の雷峰塔の小丘もぐるりと回る。西は湖畔避け蘇堤の直線でショートカット。2.5kmほどの堤防路だが此処の途中で朝日が上り市街南部の丘の上に建つ城隍閣と雷峰塔が朝日に映へ、堤の柳、西湖の三つの小島、朝焼けの湖面が何とも風情あり。思はず走るのを止め見惚れる。美しさ嘆く。水面に海驢か?と思ったら寒中水泳の男あり。蘇堤を渡りおへ跨虹橋からは湖畔を走れるがまぁ朝の散歩、太極拳や社交ダンス、通勤のバスなどまぁ賑やか。平湖秋月。白堤を走り湖東北部からは市街地。まぁ人が多い、多い。ふと気がついたが、なんとなく習慣で時計回りで走り始めてゐたが、この環境考へると反時計回りにすれば市街地に近いところから走り始め蘇堤では朝焼け眺めるにはいち/\右に振り返ってゐたが反対回りならちょうど朝日が上るのを嘆じながら、だったはず。そのあと南から東へは市街地も遠い林のなかなので多少時間が遅くても人出は大したことなし。今更気がついても遅いが、もし次回機会があれば、このルートで。西湖の東湖畔はまるで紐育の五番街。一流のブッティックや高級自動車ディーラーがずらり、と並ぶ。ソフィテルの反対角の、此処も一等地なのだがぽつん、とイスラムの老马家面馆ありハラール牛肉麺をば朝餉に飰す。美味。ホテルに戻り少し机に凭り、さて出かけようか、と思ったらNHKで「実験刑事トトリ」最終回の再放送あり、つひ見てしまふ。市街南の河坊街、観光客相手の土産物屋並ぶ歩行者専用地区へ。西湖茶社で龍井茶購ひ扇子の老舗、王星記へ。扇子はやはり日本でいゝものがあるので、どうしても中国扇子は京劇の役者ぢゃあるまいし買ふ気もせず。携へてゐるのは京都の宮脇はんのお扇子。張小泉剪刀店は明末1663年の創業。こゝの指甲刀(爪切り鋏)は以前から欲しかったもの。修爪セットと合はせ購ふ。南宗御街。名前の如く南宋の時代に杭州が栄えた当時からの繁華街で今も観光客相手にレトロな風情をば再現。幹線道路(西湖大道)とその高架道が南宗御街を遮るが上手くしたもので見事に高架道をば宋か明か、の白壁で覆ふは立派。また「中国人は何でも隠すのが上手い」などと嗤ふべからず。日本橋など高速道路の醜態思へば学ぶべきところ多し。邱芝嚴筆荘。細筆一枝、淡い顔色の朱肉一つ購ふ。路地から路地を抜けホテルに戻り晝すぎまで机に凭り荷造り。午後一時すぎにホテル出て、かなりクールな女性運転手のタクシーで空港へ。日剰の更新遅れ続け今日四本目の、昨日の記述をばタクシーのなかで綴りiPhoneホットスポット経由で上網してゐるうちに空港に到着してしまひ、なか/\つながらず焦ったが運転手は少し遠いが他の車の邪魔にならぬ方に駐車して「慌てないでごゆっくり」と。CXのフライトなので今朝の香港の新聞積んできてをり信報、FT、SCMPなど読んで三日中共にゐた間の惚けのリハビリ。散歩中に買った南方周末紙が出色(こちら)。一面から二面は貴州から増加し続ける浮浪児問題の報道「他们的“好”生活」(こちら)。ドキュメンタリーとして実に立派な取材と記事の量。貴州でも「華節」といふ都市出身の浮浪児多し。両親が出稼ぎに出て、仕送りするなり戻ってくるならいゝが音信不通となり遺児が誰にも顧みられず路上生活するやうな態。(三面はベンツの広告で)四面は重慶騒動の続報で重慶公安の豪奢ぶりのルポ。五〜六面も重慶薄熙来が提唱した「唱紅」(赤軍歌キャンペーン)に繋がる記事で北京に留学した米国人青年の「唱紅」話。この新聞は読み応へ充分。香港に戻りエアポートエクスプレスで九龍。タクシー乗場長蛇の列で無料のホテルシャトルバスで尖沙咀ハイアットリージェンシーのクロークに旅荷預け(嘘をついてごめんなさい)北京料理の鹿鳴春。明日の競馬に合はせ来られたハロンS氏、蝗氏、Z嬢と会食。この店の老練なる給仕たちの仕事ぶりと気遣ひには敬服するばかり。朝の15kmランからの一日でさすがに疲れ旅荷もありタクシーで帰宅。
▼貴州といへば上述の浮浪児や貧困とは全く別の話だが「牛屎湯底」なる鍋のスープあり。これは牛の腸内にある、まだ腸で水分が吸収される前の液状の糞便をば牛を解体した際に腸から絞り出し、これを鍋のスープの出汁にする、といふもの。さう聞くとオゾマしいばかりだが農民はこの鍋のストックをとる前の晩に牛には上等の青草や漢方の薬材となる薬草をば喰わせ牛を餵ひ、料理の際に腸から絞り出された液状の糞をば濾過し、それに牛肉、塩、油、五香、麻椒等の香料を加へ、これが美味いといふ。通常は大腸から摂取した液状糞だが小腸から抽出のものは更に値も高いとか。