農暦五月初六。週末土日休んだのは大晦日から元旦以来。陋宅書斎にて読みかけの切り抜きなど整理。さすがに暑いが冷房つけないので扇風機が必需品。寝室と共用だと面倒なのでジャスコに行き小型の扇風機購ふ。昔からのフツーの首振り扇風機。これと行水、天花粉があれば夏は凌げる。文藝春秋(七月号)で鴨下信一さんの美空ひばり物と福田和也さんの昭和天皇読む。前者は「ひばり」の関係でアタシも平成の始めごろ神南で鴨下先生の尊顔拝したことあり。ひばりの話で川田晴久が出てくるが確か神楽坂だつたか川田晴久の奥様ご存命でアタシはご自宅まで資料拝借に遣らされたのも懐かしい話。アタシの世代だと、まだ「♪地球の上に朝が来る〜、その裏側は夜だろう」も「♪ダイナ、ダイナは何だいな、ダイナは英語の都々逸で〜」に馴染んでゐるし益田喜頓、坊屋三郎……も懐かしいところ。ひばりの歌うテネシーワルツも絶品だつた。で福田教授の「昭和天皇」もつひに最終回。終戦に向けての御前会議から様々な人の八月十五日が語られるがアタシにとつては木下順二に連れられて疎開先から東京に戻つてゐた山本安英の逸話が興味深い。昭和天皇の玉音放送を「この人の声、新内に向いているんじゃない?」と言ひ放ち八月十五日の晩にラジオ放送予定だつた万太郎脚色の仇討ち物(原作は鴎外「護持院ヶ原の仇討ち」)に喜多村緑郎と共演する安英は愛宕山の放送局に往き軍の物々しい警備のなか演芸部の局員に「こんな日に仇討ちの芝居なんかやるわけにいかないんです」と追ひ返される話。この「昭和天皇」では彼の人は皇室の存続、自らの戦争責任に関する罪などより民草にこれ以上の負担と犠牲をかけさせるわけにはいかぬ、と終戦をば決意する。が終戦後の天皇が、あのゲスナーの「敗北を抱きしめて」や原武史の研究に出てくるやうな優柔不断で戦後の天皇を演じてしまふのだから。晩にZ嬢と太子の茘枝角道。噂に聞いてゐた珠江酒家に飰す。猪油(豚のラード)、咸肉……やはり身体に悪いものは美味い。栄養が不足してゐた時代にこれで白飯をかき込んだら本当に美味いはず(今だつて美味いのだから)。場末の一見、通り過ぎさうな小汚い店だが超人気店で晩六時の開店に合わせてぎりぎりで席を確保。帰宅して、てつきり読了してゐたと思つてゐた萱野稔人『ナショナリズムは悪なのか』(NHK出版新書)読む。ウェーバー、ゲルナー、フーコー、ドゥルーズ=ガダリ、ネグリ=ハートを読んでゐれば、それも(しかもアタシの書棚にもある)『民族とナショナリズム』『職業としての政治』『監獄の誕生』『千のプラトー』と『マルチチュード』のわずか5冊!読んでゐれば、この本(萱野)は入門書に過ぎないが非常に上手く、あるいは意図的に?萱野はんの解釈で国家について語られてゐる。タイトル(ナショナリズムは悪なのか)がやゝ誤解招くもので内容に即していへば「国民国家の存在を無視してナショナリズムを考えることはできるのか」だらう、と週刊読書人の書評(本橋哲也氏)が述べてゐたが、確かにこの本は「ナショナリズムは悪なのか」より「ナショナリズムが悪といふのは短絡的偏見だし<反権力>といふ勢力が反ナショナリズム謳つても実はそれぢたいが権力装置になることでは彼らが嫌ふナショナリズムと何も変はらない」ことを語つてゐる。著者(萱野)はこの本の最後でナショナリズムが殊に「国内市場の空洞化や衰退」といふ状況で出口なく(まさに今の日本なのだが)ファシズムを生むことに触れ、それを防ぐには「国内経済の保全」だと説く。確かにそれも一理あるが国内経済の保全が出来るなら「国内市場の空洞化や衰退」に至らない。もはや産業構造の変化で国内経済の保全が(これが出来るのは欧米くらゐで)日本には到底、無理なのだ……とすると橋下さんコールになつてしまふのかしら。それにしてもウェーバー、ゲルナー、フーコーもいゝが、この本の視点から国家、国家主義を語るなら、しかも萱野さんのフランス思想の立場からすれば何故に「国家主義者」たる樋口陽一先生の言説に触れないのか、が不思議。
新・現代思想講義 ナショナリズムは悪なのか (NHK出版新書)
- 作者: 萱野稔人
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- 作者: ミシェル・フーコー,Michel Foucault,田村俶
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マルチチュード 上 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス)
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