富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

アンゲロプロス監督逝去

fookpaktsuen2012-01-25

農暦正月三日。快晴。朝から麻布鳥居坂旅寓の図書館で書きもの、書類整理。此処をアタシが最初に知つたのは田中康夫氏が昔、ペログリのころにデートとお食事の間にこの図書館でよく原稿を書かれてゐたからだつた。アタシ以外に誰も利用者がゐない静かな図書館で雪のきれいなお庭眺めながら、が心地よい。昼前に日本橋。蒲焼の美國屋。いつ改装してビルになつたのか確かぢゃないが改装後は初めて。高島屋で待ち合せしてゐた母とZ嬢が一緒に来て三階の座敷で飰す。あつさりと、たれ控えめで美味。二人と別れ銀座まで歩く。トラヤ帽子店とタニザワ鞄店に寄り店員さんと少し語りテアトル銀座。大和屋のお三輪で妹背山婦女庭訓から道行と御殿の場。大和屋も十一年ぶりのお三輪ださうで松竹は「奇蹟と絶賛された」と嘯くほどだが、1.7松竹円は高すぎで当日券あり〼となる。道行では求女(笑三郎)と橘姫(右近)にお三輪(玉三郎)が絡むが、筋を知らなければ、ただ若い男女三人が踊つてゐる、としか思へない=女二人が美男の求女をとりあふ状況とは解らないかも。それくらゐ抑制のされた演出?なのかしら。「御殿」は鱶七役の松緑がくだんの「わが道をゆく」芸風?で全てを圧巻。スケールがあるといへば聞こえもいゝが浄瑠璃物ではかなり浮いたやうに見える。この芝居はお三輪が女官のいぢめに遭ひ乱れ髪になつてのエコ/\アザラクの「この恨み晴らさずをくべきか……」が見物なのだらうが(村上君の話では四谷怪談のお岩と同じセリフがあるといふ)、女官らのいぢめがあまりにコミカルであんな囃し立てで、だからむしろお三輪がなんであんなに狂乱するのか、につながらず。もと/\入鹿と鎌足といふ大時代的な物語にお三輪といふ女子一人が求女に惚れただけでこの政治劇に絡むといふ筋がアタシにはピンとこないのだが。お三輪は殺され消えてしまふ役柄だし客もいつもほど「玉さんってほんときれい」と感嘆で終はれず食べたりず気味。単独の特別公演にするにはちょっと難しい。アタシは芝居より浄瑠璃を楽しむほうに集中。入鹿役の猿弥がなか/\巨悪らしい雰囲気を見せてゐた。東京駅から千駄ヶ谷。Z嬢と駅で待ち合せ国立能楽堂。流派超えての合同公演で「松脂」「連歌盗人」「茶子味梅」の三作。万作に三宅右近、石田幸雄の「連歌盗人」が面白かつたが萬斎が唐人演じたこともありかなり賑はふ公演。アタシは個人的には歌舞伎のバタ臭さより能、狂言に何となく興味が移つて来てゐるかも。公演が終はり能狂言の評論される村上湛君と三人で新宿。西口の鮨「いしかわ」で遅めの夕食。村上君と別れZ嬢と麻布十番。東都滞在の最後の深晩、奥麻布のバーHに飲む。
▼テオ=アンゲロプロス監督逝去。享年七十五。バイクにはねられ交通事故。高校生のときに「旅芸人の記録」見たときの衝撃。アタシにとつて映画で最も好きな作品。2004年の「エレニの旅」未看。

問題は金融が政治にも倫理にも美学にも我々のすべてに影響を与えていることだ。これを取り払わなければならない。扉を開こう。それが唯一の解決策だ。

と監督の言葉。

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