富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

無垢舞蹈劇場<觀>

fookpaktsuen2011-11-04

十一月四日(金)晴。分刻みであちこち回り官邸に戻り執務。だが問題はライカの双眼鏡。もう15年くらゐ愛用のトリノビットの8x20のレンズの内側が曇るやうになつてしまひ、それに気づいたのは沙田の夜競馬観戦の時だつったが冷房のきいた室内に戻り暫くすると曇りは失せるが今度は小さな、点のやうな水滴が付着してゐる。外に出ると復た曇つて、の繰り返し。心なしかレンズにカビもあるやうな気が。アタシは写真機以上に双眼鏡愛用。お出かけの時はこの双眼鏡、普段はエッシェンバッハの単眼鏡をば鞄に忍ばせ自然なんて見てもつまらない、市中、星巴から街を眺めバスの二階席からバス待ちの客、路上で働く人々をば覗めるのが楽しい。たゞ興信所か、かなりヘンと思はれる行為なので片手に隠れるエッシェンバッハやライカでも8x20なんて大きさが手頃。そのトリノビットがそんな具合で代理店から独逸に送られたが返事は「修理お勧めせず新品購入の方が経済的」の由。で落胆のあまり清水の舞台から投身自殺。銅鑼湾の識る店に往きトリノビットの現行の8x20をば調達のつもりが店員に「旦那、ほんの少しお出しいたゞくと、こっちも綺麗ですぜ」と同じ8x20でもウルトラビット(シルバーライン)をば見せられる。唸〜、そりゃ比べてしまへば前者より後者の方がアタシの目にも明解さは明らか、目眩するほど。で後者をばお買ひ上げ。もうすぐ政府のHK$6,000の施し金も出るし、と勝手な解釈。それにほんの少し足した額だが日本では最安値で87,980円也。25,000円も得した(って実は全然、得はしてゐないのだが自分への言ひ訳)。早晩に市中渋滞嫌ひピークを抜けると天高く雲がまことに美しい。すつかり秋の雲。でFCCシャルドネ一杯と今夜はアイリッシュシチュー食し地下鉄で葵芳。葵青戯院。台湾の林麗珍がプロデュースする無垢舞蹈劇場(こちら)の創作舞踏<觀>である。前から二列目中央の席だつたが葵青戯院であるし無垢舞蹈の芸風からして奥行きあろう、と。それで今日購入のライカの双眼鏡が威力を発揮するだらう、と狙つたのだが正にその通り。舞者の肌の汗や白無垢の化粧の滲み、表情をば変えることを禁じられた舞ひのなかで少し開いた口から滴る涎れまで凝視できたのは会場でアタシだけかも。それにしても何て完成度の高い舞踏。日本なら縄文の時代のやうな、はたまたもしかしたら日本書紀の神話世界はじつはこんな感じもあつたのではないかしら、と思はせる、南洋の島嶼から台湾、琉球、日本に続く東アジアの源流のやうな身体表現。林懐民の雲門舞集を最初見たときも衝撃があつたが今にして思へばなんていはゆる「美しい」舞台美を追ふのに対して林麗珍の世界は後半の男の舞者の格闘思はせる躍動的なシーン除き舞者たちの動きは表情、呼吸で肩や腹が動くことから筋肉まで全ての表現が抑制され、いや禁じられ、その極限の修業のやうななかでの二時間に圧倒されてしまつた。演劇関係の好事家諸氏に邂逅。