富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

広重の東海道「庄野」と台風15号

fookpaktsuen2011-09-21

九月廿一日(水)朝、肌寒いと思へば気温は摂氏廿四度。湿度低し。月曜朝から喉痛あつたがこの涼しさで悪寒。発熱なし、頭痛、筋肉痛、腸の不調……でいつものGastro-enteritisの症状。午前中、首相訪米中につき重要な打合せ外せず、それと急ぎの仕事のみ片づけ昼に太古城に出来たばかりの養和病院の支店診療所に往く。午後休養。浜松あたりで本州上陸の台風15号は首都圏直撃の由。首都圏だから翌朝の新聞も間違いなく「首都圏直撃」が見出しなんだろうが「函館直撃」とはいはれず「台風は北海道に抜け」なんだらう。さすがに記録的に大型の台風で会社や学校も帰宅早めるなど措置とつたやうだが香港のやうな「シグナル3」「シグナル8」といふ具体的な台風警報と対策規則がないのが不幸。ちなみに今回のこの台風、瞬間最大風速が秒速35mは香港でシグナル10に該当*1。当然、そのまえにシグナル8があり予報でシグナル3の段階で「2時間後にシグナル8になる」で最初から学校も会社も証券取引も休みとなり電車も走らず。風速が17.5mで香港はシグナル8になるが日本で17.5mの風速なら学校も会社も平常とおり。お父さんは会社に、子どもは学校に、おじいさんは近くの川や畑の様子を見に出て死んでしまふ。香港がなんて安全か。さらに大型台風接近で早めに帰宅は善策のやうで、シグナル10だと思ふと香港的には「安全を前提にいまゐる場所に待機」だが日本はシグナル10のなか帰宅する暴挙。しかも風速30mを越える防風のなか「傘をさす」キチガイ沙汰。雨に濡れることをやたら忌み嫌ふ民族。防風に傘が壊れると嬉しそうに笑ふのは何故?……それを期待してゐるの? 暴風雨で結局、濡れるのに。核の雨をば厭ふのか、といふと然に非ず昔から日本人は雨風のなか懸命に傘をさすのは広重の東海道五十三次で「庄野」を見れば明か。よく見ると広重の時代の東海道の旅人も水戸駅前の会社員も身体は濡れても必死で傘で顔を隠す。なぜ顔なの?と思つたが……ありゃ、髪かも。江戸時代は男も女も髪を結つてゐたんで髪が濡れて風で綻びると面倒なので出来るかぎり髪が濡れないやうにする。その風習が洋装になつて髪を結わなくなつた今も残つてゐる、とか……まさか。久しぶりにテレビつけてNHK眺める。「避難指示が出たら速やかに避難してください」 「台風の進路にあたる地域の方はくれぐれも警戒が必要です」ってそんなのばかり。根本的に安全に対する認識に誤りがあると思ふ。郷里では台風の暴風雨が少し弱まつたか、と思つたらM5.0の地震那珂川が危険水域に達して批難指示。アタシの小学校から中学校の学区内。陋宅は幸ひ批難免れた由。母の話ではJRも普通なのに駅ビルのレストラン街はこの悪天候のなか午後九時まで開いてゐるのだといふ。駅ビルに隣接してホテルなどあり宿泊客らの食事の確保とか……やりすぎ。アタシの小学校の学区内で住宅地は高台の市街にあつたが川岸の平地に農家も多く、農家のご学友の家にいくと屋根裏に船が吊るしてあるのを見て「サンダーバードみたい」と驚いた記憶あり。その一帯も平成61年夏の大雨で水害に遭ひ堤防の拡充工事で移転された。江戸時代から大雨、水害はあつたのに川近くに住んでこられたのに、水利が発達して雨水や地下水が地面にしみ込まず上級河川に流れ込ませるやうになり大雨となると一級河川の水量が昔よりずつと多くなつたと聞く。今日はなぜか新潮文庫でハルキムラカミの「ねじまき鳥クロニクル」読む。第1部の百ページほど。1994年の作品でアタシは香港にゐたし文庫本を購つてゐたのだが未読のまヽ、それをふと手にとり読む。相変わらずの平々凡々とした日常の物語で、僕は、また143頁目あたりから突然、突飛な物語が始まるのだろうと思った。それが141頁でも148頁でもいいのだけど、もしそれが143頁目だったりすると、胃腸風邪で会社を昼で退けて家で休んでいる僕にとって今日、唯一の僕の意思による決定であって成果になりそうな気がした。でも風邪の薬のせいで、僕は143頁までまだ到底いきつかないところで睡魔に襲われ寝てしまった。
▼これまでアタシは盛んに朝日新聞連載の大江健三郎「定義集」を曖昧、曖昧と揶揄してきたが今日の「過去の表現 次世代のヒント」は来月刊行予定の大野晋編「古典基礎語辞典」取り上げ、これは秀逸。さすが、あの産経新聞まで!「脱原発で最大規模集会 東京・明治公園に6万人 大江健三郎さんら訴え」と出てしまふ日本の良識の代表としての矜持あり。勝手に孫引きするが大江先生が昔、昔に『小説の方法』で悪しき日本現代文で引用した電気事業連合会の広告は

……それにしても、電気がほとんど石油に頼っているっていうのも、何となく不安ではないかしら。他の方法はあるんですか。
−−−原子力でしょう、ね。
「それはいいですね。何も爆弾に利用されるばかりが能じゃないんですものね。(略)もっと安全性のPRをしてほしいと思いますよ。実際、原子力発電は安全なんでしょう。(笑)
−−−人体に影響を与えるような放射能なんて出ないんですから。
「それなら、何も問題ないじゃないですか。やっぱり知らないということが、いちばんこわいことですから、知らせる方法を考えてほしいですね。」

と、まぁ嘘、詭弁であるだけでも見事な悪文なり。
朝日新聞の社説が君が代裁判で「維新の会は立ち止まれ」と。主張はわかるが「立ち止まってしまったら」維新の会なんてあってもなくても同じ。立ち止まらずに暴走することにしか存在意義もなかろうに。

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

*1:香港の台風のシグナルは香港からの距離とイメージされるがそれは誤解。暴風域に入つての風力が基準。