富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

三浦文彰のショスタコーヴィッチ

fookpaktsuen2011-09-10

九月十日(土)気温摂氏廿七度ながら風はすつかり秋風。朝久々に五粁走つてから某所視察指導。昼に銅鑼湾の日本人倶楽部。とんかつ定食。午後、二つの打合せ済ませ中環。FCCに往けばふだんなら閑散とし土曜午後にバー賑やかで何かと除けばラ式蹴球の中継あり大きな試合のやう。英蘭対阿根廷で当然ながらFCCでは圧倒的に前者贔屓。バーを避けラウンジで週末の新聞読み。The Economist誌が日本の健康保険制度の記事“Health care in Japan: Not all smiles”は内容興味深いがKahokenが開始から半世紀って何よ。皆保険か。ありゃ国民皆保険という目標であつて制度は国民健康保険だらう。先月はペナンのMrLim(林冠英)をばMr Eng(英)にしてゐたし経済學人誌は質はいゝが書き手任せの感あり。ラウンジで娘二人連れてきた客の娘の方がスポーツ帰りでユニフォームが強烈に汗臭く十代特有の加齢臭も混じりラ式蹴球の中継も終はつたやうなのでバーに戻りZ嬢来て軽く夕食。海南鶏飯。市大会堂。香港シンフォニエッタの演奏会で指揮は常任音監の葉詠詩女史でなく客演でAlessanrdo Crudeleなる指揮者。市大会堂に入る前、車道横切ろうとしてアタシは歩行者優先主義なので自動車に譲らず止めさせる芸風だが通り抜けやうとした自動車を止めて道を渡つたら領事団示すCCナンバーで市大会堂で降りられたのは日本の総領事夫妻なのは今晩は18歳の三浦文彰君といふヴァイオリンが香港首演ゆゑ。彼のオフィシャルサイトの演奏日程で今日の演奏会がTaiwan - Hong Kong period pencilledと表記されてゐるが一瞬、台湾から香港へのツアーか、と思つたがクロアチアドゥブロヴニクに遊び香港へ、と彼の呟板にあり、彼の事務所(Konzertdirektion Schmid)が中国に属す香港を「台湾香港」と誤記したのかしら。いや維納在住でバイオリン研鑽中ださうだから中華航空の維納便で台北経由で来港だと思ふと“Taiwan - Hong Kong period pencilled”といふ表現もわからなくもない。それは置いてをいて欧州でマネージメントがKonzertdirektion Schmidで日本でのマネージメントが麻布谷町にある壽屋ホール裏のAmatiであるだけでも芸人としての「賣り」は十分。父が東京フィルのコンマスで鈴木メソッドで安田廣務から徳永二男に師事、16歳ハノーバー国際コンクールで優勝。立派なもの。今晩のシンフォニエッタの演目はストラヴィンスキーの小管弦楽組曲1番、ショスタコーヴィッチのヴァイオリン協奏曲1番。中入り後はプロコフィエフの古典交響曲チャイコフスキーのFrancesca da Riminiと通好み。だが難局そろひでシンフォニエッタがどこまでこなせるか、と気になつたが結果、一言でいへば「葉さんの楽団」は彼女があの正確なわかりやすい指揮で、がこの楽団で楽器によつてかなり危なつかしい箇所などいくつあつても、この楽団なりの良さをばいつも感じるが今日は難曲のうえに客演の指揮者では結果芳しからず。強いていへばプロコフィエフの古典の後半が良かつたかしら。で三浦文彰ショスタコーヴィッチの1番は、このシンフォニエッタとならチャイコフスキーとかメンデルスゾーンの協奏曲とかにすれば良かつたわけで「誰がこの曲を選んだのか」。シンフォニエッタ側でないのは確か。本人か。まだそこまで仕切れない年齢と経験。となると事務所か、いやきつと先生かしら。これくらゐの曲を弾いてごらんなさい、と。確かに弾けてゐる。が技術的には弾けても、1948年にスターリンのあのソ連でジダーノフ抑圧下ショスタコービッチがどういふ環境でこの曲を作つたのか、どんなテーマが深層に隠されてゐるのか、諧謔のかげの悲しみ……そんな解釈がどんな天才でもまさか18歳の彼にさう易々と出来るはずもなく(彼が生まれたのは平成でソ連なんて、その2年前にこの世から失せてしまつたのだ)、先生はそんなの承知の上で「やってごらんなさい」と。で18歳で「こんな曲もできるんですよ」が「売り」になるはずだつたのだらう。しかし申し訳ないが本来、こんな曲まではレパートリーにしない小管弦楽団で、本人にとつても初演(だと思ふ、おそらく)のこの演奏で、今晩、神が降りてくるはずもなく前半の夜想曲スケルツォは勢いでいけたが後半のあのパッサカリアからブルレスケは、とくに長いヴァイオリンのソロは途中で走りが途切れてしまふくらゐ苦労あり。終はつて満場の拍手で反響に慣れぬやうに、だうお辞儀して歓声に応へていゝのか、がまるで判らぬやうな表情と仕草がまた客を喜ばせるのだが18歳でまだ/\経験不足とはいへ昨年のハノーバーからちょうど2年、それなりに場数を踏みレパートリーも増やして、もう初心者マークはとれてゐるはず。今晩のあの反響にだう応へるか、の迷ひは本人にとつては弾いてみて自ら技術だけでなく体力から気力まで「まだ/\」と痛感した演奏だつたはずで楽団への注文も少なからずあらう。指揮者は上手くその両者を立てようと頑張つてくれたが本人なりにかなり不満もあつた演奏「なのに」この聴衆の反応に驚いた、とアタシは勝手に解釈してゐる。彼なりにいろ/\考へさせられる晩になつただらう。
▼昨日の朝日新聞の一面。トップ記事は「被災地3.6万人転出超過(三県で)8万人県外へ」で横に紀伊のダム決壊警戒の記事、下に「なでしこ」が五輪切符で最後に核禍で「海の放射能量1.5京ベクレル」と並ぶ。八万人の避難大事だが大災害で結果的に「さもありなむ」の想定内、紀伊台風被害は現時点のニュースで警戒呼びかけも妥当、「なでしこ」はアタシは個人的にスポーツ報道などどーでもいゝがこれしか夢と希望のないなか吉報なのかしら。で気になるのはどーして海への放射能放出量1.5京ベクトルって発表の報道がこんなに扱ひが小さいのかしら。ロシアや韓国の危惧もあり海洋汚染こそかなり深刻な気がするのだが。