富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2010-11-07

陰暦十月初二。立冬。早朝はまだ雲多くもすつかり晴れ雲高き秋の空。Z嬢と路線バスで大坑。萬金油で財をなした胡文虎が築いた虎豹别墅は早くから開放され悪趣味な観光名所。その敷地内にある邸宅は胡文虎の娘で星島日報や英文虎報の社主、胡仙が永く居住。アジア通貨危機で胡仙は不動産や株式の投資で厳重な虧蝕あり、加えて英文虎報の発行部数の水増しで社主たる胡仙も逮捕か、となつたが董建華が司法長官・梁愛詩に命じ超法規的措置で胡仙は逮捕免れ、その後は隠遁。この虎豹別墅も手放し李嘉誠が買い取り観光名所だつた庭園は潰しマンション建設、この屋敷こそ残骸のやうに遺り今日に至る(写真は庭園取り壊し前の絶頂期)。胡仙は2006年に香港崇正總會の北京訪問に名誉団長で上京、全國政協主席の賈慶林と面談してゐるが、その後、何処でどうしてゐるのかしら。で、その屋敷は香港政府の二級歴史建造物だかに指定され、ひとまず取り壊しは免れ将来的に尖沙咀の水上警察本部が李嘉誠財閥で下品なブティックホテル化したやうにデベロッパーの手で何らかの商業化が図れるわけで、今回はその再開発前の一般公開、で参観。予想はしてゐたが胡先が全て家財道具引き上げた跡の残骸。建物も趣味の悪さは別にして一見、豪華に見えるが内装の意匠などかなりの安普請で作り付けの家具や調度品なども驚くほど粗雑。見た目豪華で実は倹約といへば美徳だがステンドグラスも実は裏にセロファン張りで、家具の金色の猫足もじつはペンキ塗装。辛うじてマントルピースは大理石だが暑い香港でマントルピースぢたい偽物。胡文虎が遺した、この屋敷に独り住まひ邸宅の外は観光客だらけ、って胡仙もかなり絶望的だつたらう。天気も良く路線バス乗り継ぎヴィクトリアピークへ往く。昼にピークギャラリアの屋外でOliver'sのサンドヰツチを食す。舊山頂道を歩いて下り動植物公園。ぼんやりと栗鼠猿を眺める。FCCに寄りBlack Thornのシードルを生で飲む。中環の路上市場で青物など購ふがZ嬢に聞いてはゐたが再開発でGraham街あたりの舊舗の立ち退きの態は甚だし。路線バスで太古城。アピタ(ユニー)の食料品売り場で大間の鮪の解体即売などあり。茨城の米は昨日そこを通つたZ嬢の言ふ通り、確かに即売に携わる方々の、Japanese Riceのイントネーションも茨城訛りで広東語の試下拉!の尻上がりも茨城弁と同じなのが可笑しい。帰宅してWQXRのネットでサラステ指揮、フィンランド放送交響楽団シベリウスの2番とカラヤン&伯林のチャイコフスキーの弦楽セレナーデ・ハ長調聴きながらドライマティーニ二杯。湯豆腐。晩二更に家を出て油麻地。22時よりCinematheque映画館でベトナム映画、Phan Dang Di監督の“Bi, Don't be Afraid”見る。ハノイが舞台。Biといふ名の六歳の少年が主人公。両親と高校教師の叔母、家政婦と暮らす。その家庭に外交官の祖父が外地で健康を害し帰つて来るところから物語が始まる。鯔背な若衆らが働く近所の製氷工場がこの少年にとつて通過儀礼的な悪所。父は飲んだくれでエロ按摩に夢中。母は夫との関係が上手くいかず欲求不満で義父の看病にエロスすらあり。三十路になる叔母も悶々とする日々に男を見つけたが16歳の高校生に夢中になり身体が火照るほど。全てのシーンが意味深で林檎一個、氷片一つすら何かしら象徴的。全編に渡り生と死を問いかけエロスがこれでもか、とばかりに記号として散りばめられるが、けして食傷気味にはならぬのはPhan Dang Diといふ監督の映画づくりの上手さ。今年の香港アジア映画祭も明日で終了。
上海蟹の季節。艾未未が上海に設けたスタジオが立ち退き命じられ強制的なやり方に抗議の意味で河蟹宴開催ネットで呼びかけたら北京で自宅軟禁。河蟹は和諧と発音同じで反体制活動、と。倫敦のTATE Modernで大規模な個展が評判の中国代表する現代芸術の雄がこの境遇とは。

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