富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2010-04-30

四月卅日(金)天気予報は週末に向け雨空のはずが昨晩の大雨で今朝は快晴。朝は摂氏19度だが暖かき一日。多忙極む。早晩に中環。FCCのラウンジで書類整理。朝から頭がすつきりとせぬが一杯のジントニックで爽快とはアタシはアル中か。Colorsix現像店で写真受け取りWatson's葡萄酒店にて葡萄酒仕込み湾仔。本日午後大埔に所用ありMTRで大圍通つたがさすがに大圍途中下車で張記酒店で葡萄酒購ひ運ぶのも鳥渡。でいつもの益新と言いたひところだが給仕らが全く面識なき輩ばかり。三月に母と来た時から比べても知己の給仕も一人もをらず。よつて給仕もあたし相手は初対面なのであたしの流儀も知らず。注文こそ廿年近き旧知のK経理であつたが出てくる給仕のまあ無作法。今晩は千葉A氏のお招きに与り総勢十一名の一卓。Z嬢も一緒。注文煩ひあたしばかりか初めてこの店に来られた方数名も感じる給仕の作法の拙さ。あたしは初めて訪れし食肆など間違つても罵詈雑言吐かぬが廿年近く懇意の食肆ゆゑはつきり言ふが総入れ替えか、の給仕らが最低。料理はC料理長が睨みきかせ味が堕ちぬのが幸い。問題は給仕にあゝせゐ、かうせゐ、と指図して采配振ふべき監督の不在。甜品となつてもお椀の交換すらせぬ給仕に苦言呈すが暖簾に腕押し。非熟練の従業員ばかり。かつては甜品になる頃にはさっと汚れた皿を換へ普洱茶の茶杯下げ茶葉はあらためて何にするか、鉄観音か壽眉か?と尋ねられたのが懐かしいかぎり。わずか一ヶ月余で何があつたのか、経営者の交代、罷免、逆に愛想尽かされたか、事情は知らぬ、があまりの給仕の態度の悪さ、水準の低さ。帰りがけ入り口の接客の小姐は愛想良くあたしらの連れ客に店の名刺渡すのもいゝがあたしにも一枚くれやうとするので(一ヶ月前までなら「毎度ありがとうございます」だ)接待小姐に「給仕の接客がひどすぎ」と小声で告げ「K経理は何処?」と尋ねても経理が不在。これぢゃダメ。今晩の不安は実は晝に序章あり。晩の予約確認の電話受けたが時間、人数確かめたあと六時半からの食事で「八時半には卓を空けてくれ」と電話の小姐。「おひ/\、お待ちなさいよ、六時半の予約で十一人で二時間で済ませとはどういふ了見?」と質したら「それぢゃ構ひません」と。昔からかなり繁盛の食肆だが今までこんな「二時間で出ろ」と言はれた事一度もなし。馴染みの客と一見の客の区別もできぬのはこの一言で明らかだつたか……。本来であれば「萬千不来!」と罵声浴びせたいが益新はJardine's Lookoutの方の店があまりの素人給仕ぶりに呆れ二度と足を運ばなくなつた経緯あり。これで湾仔もダメだともう「さやうなら」かしら。ただ、また数ヶ月すると給仕総入れ替えの可能性もなきにしもあらず。
▼今晩の葡萄酒。Dog PointのSau Bl 09年、Robert MondaviのどれだつたかSauv Bl 08年、Ch Haut-Brisson 00年とChateauneuf-du-Pape Boisrenard 06年でまだ飲み足りずGalloのTurning Leaf Cav Sau 07年の五本。
▼東都も不順の悪天今日こそ一掃、爽快なる晩春の一日と相なり、と久が原のT君は昨日で芝居興行終つた銀座木挽町歌舞伎座閉場式に参られた由。この四月の歌舞伎は播磨屋の熊谷が出色の名演だつた、と。孤を貫くこと実に無類の熊谷、とT君。播磨屋といへばもう十数年も前の香港での歌舞伎公演で萬次郎との「鳴神」の舞台裏のいろ/\思ひ出すところあり。いづれにせよ今日の閉幕式の口上にずらりと並ぶ幹部俳優のなかで播磨屋の容姿にあたしの知る前世紀の播磨屋とは随分と異なる、まぁ祖父の大播磨に似た、容姿でなく雰囲気。T君の話では、幕間で物故俳優の記録映像が舞台銀幕に映写されました由。寿海以降の映像では先代勘三郎あたり以後、感極まつた客席から拍手や掛け声が湧き起こり始め先代鴈治郎や大松緑の人気の根強さ未だに。最後の最後、が大檀那の娘道成寺。とたんに場内に満ち満ちる拍手喝采。「大成駒!」の掛け声の嵐だつたさうでさすがに今晩はこの映像のアト、手締め挨拶の神谷町に「大成駒」と掛け声する奇人はをらず(笑)。「大成駒」の掛け声は白拍子花子に手向けされたT君の掛け声が最後。今宵、歌舞伎座の大棟に故人歌右衛門の魂魄たしかに天翔つたか、大檀那もさぞやご満悦だらう。あたしも先代幸四郎松緑勘三郎澤瀉屋の超級歌舞伎、孝玉ブーム、成田屋の復活、大成駒、大松島や大橘の最期、新之助から海老蔵へのブームと思ひ出すこと多し。「もし/\市川羽左衛門と申しますが」と十七代目から香港までお電話いたヾいた時には驚いたがそれもこの楽屋から。松島屋の奥様へのご挨拶もこのロビー。でもやはり一番印象に残るは何といつても本当に真っ暗な暗転から「どんっ!」と現れた梅幸の藤娘に尽きるだらう。

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