富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-06-26

六月廿六日(金)颱風接近で天気不安定。金鐘での打合せ終へ十数年ぶりで銅鑼湾の石山に食す。飾り気もなく極く普通の店であることが日本料理屋の中で寧ろ珍しく日本人駐在員の食堂と云はれるほど。高野豆腐、風呂吹き大根やモツ煮など普通に美味が慥かに嬉しいところ。颱風らしい強風のなかバーSに「グラスにベルモット塗つたところにジン(Gordon London)注いだだけ」のドライマティーニ二杯獨酌。こゝ二日ほどの新聞讀む。半夜三更、禁断の空腹で利苑に雲呑麺食し帰宅。
▼信報に日本のJITCO(財団法人国際研修協力機構)の調査による外国からの研修生・技能実習生の死亡について記事あり。研修実習生の数が増えてゐることもあらうが、研修期間中の死亡が1992年の2名から2008年には34名にまで増えてをり、しかも死亡原因で最も多いのが脳・心臓疾患で16名で、これが(92年からの調査によれば)死亡原因の32%を占める。そして作業中(事故)の11%に次ぐのが九%の自殺。研修生・技能実習生の大部分が20〜30代。この年代の日本人の心臓死の発生割合と比べるとほゞ二倍の発生率の由。脳や心臓を蝕み自殺も多ければ明らかに過労やストレスが原因だらう。なんて不幸な国に来てしまつたのかしら。
▼地球の環境破壊と観光産業。世界中で12人に1人が観光関連業に従事。その観光業は一日にUS$30億といふ巨大規模な産業。同時に二酸化炭素排出の5.3%が観光産業によるもの。当然、南国の海岸の自然破壊や海洋汚染などにも関係する(以上、IHT紙の"Welcome to tourism" by Elizabeth Becker より引用)。そもそも観光なる近代の行為が産業革命後の英国で都市労働者を郊外の景勝地に日帰り旅行で「憂さ晴らし」させたのが、しかも給与収入を行楽に消費させるメリット?もあり(炭坑の飯場の賭場と同じか)。それほど観光は近代の産業そのもの。アタシだつて、その環境破壊に関与してゐるのでせう。がアタシが一番信じられないのがTyler Brûléのやうな世界飛び回り仕事してゐるらしいジェットセッターたち。環境問題など言及する前に少しは毎週、世界を飛び回るのを止めれば?と思ふ。安保反対でさんざん国家権力だの大資本に苦言を呈してゐたのが大学卒業すると国家公務員や大手企業に就職して何ら疑問がないのと同じで、アタシはかうしたことに疑問感じないどころか寧ろ華々しくできる人たちが最も信用できない。
▼中国の異見分子の劉曉波氏(53歳)。昨年は中国政府に対して人権護持求める「〇八憲章」を発表。奇しくも国際人権日の前日に当局に身柄拘束されたもの。でそれが一昨日「煽動顛覆国家政権」の嫌疑ありで逮捕される。基本的人権であるとか表現の自由を求めただけで「国家顛覆」と判断することぢたひ、つまり人権も表現の自由もない国家である、と言つてゐるも同然で実にわかり易い(嗤)。これについて昨日の信報社説が実に見事な指摘をする(以言入罪怎麼走向現代化)。
改革開放以来、中国は法律と法制の改善と合理化を進めてきたが、その中の一つの特徴は「政治罪名」と「何が法律に觝触するか、の中身(法律觝触)」を区別した(してしまつた)こと。中国の刑法(第105条第二項)に煽動顛覆国家政権罪があるが、これで言へば、具体的な行為(国家政権の顛覆を企図した行為)を起して初めて、その刑事責任を問はれる。何も武器すら所持せず背後に組織もない一個人が普遍的価値としての「人権」を求めただけでこの法律を適用するのは間違つてゐる。だが現実には煽動顛覆国家政権罪は「以言入罪」(何か言へば罪)なのだ。もはや煽動顛覆国家政権罪の罪名と実際の内容が全く別のものになつてゐる。2003年に基本法23条による国家安全条例の立法化に香港市民が反対した時も、焦点は「意志の表現は無罪」であり「何を以て煽動とするのか」であつた。中国にとつて言論に制限があり思想の禁区(タブー)があることは中国が今以て尚、全面開放を受入れてをらぬ後遺症だらう。上海が国際金融センターになるといふ構想も香港にとつては脅威だが(かうした人権や表現の自由への制限がある限り)まだまだ国際スタンダードに至らぬ問題多いだらう。
……と信報社説。御尤も。

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