富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-05-19

五月十九日(火)夕方遅く迄てつきり今日は月曜の積もりで、火曜と気づき慌てる。晩に帰宅してドライマティーニ。鮪の中落丼を食す。二泊三日の新嘉坡での食生活は初日の晩にチェーン店での肉骨茶、日曜の昼はホーカーズでの炒飯と炒麺。晩がターフクラブで美味くもないクラブハウスサンドと香港麺=即席麺、で夜食にパブのナチョス、と実にシンガポール的、と言つたらシンガポール人に怒られやうがマレーが本場の肉骨茶は別にしてホーカーズ系の一品料理も香港の方が断然美味いのは事実。時間さへあればシンガポールでは「中せい」(かつての縄寿司のN師傳だ)で寿司を食べたかつた。ここ数日ずつとブラームスの二番と四番を聴く。指揮者のPerry So君がプロコフィエフの五番と並べてブラームスの二番に言及してをり久々に二番を聴き、カラヤン&伯林のCDで同じ一枚に四番もあり。ブラームスの四番といへば随分と昔だが坂本龍一さんが「交響曲らしい交響曲、例へばブラームスの四番のような、そんなシンフォニーを書きたい」と語つてゐたことふと思ひ出す。確かに四番はさういふ曲。
▼「インフル対策緩和へ」厚労省、季節性並みに、と今回の新型流感報道では冷静さの目立つ朝日新聞の今朝の一面トップ。その緩和の判断は正確だと思ふが、それぢゃ今までの騒ぎは何だつたの?。「強毒性の鳥インフルを想定した現在の政府の対策について、今回の新型向けに緩める方向」ださうで「感染は急速に広がつてゐるが、重症化する恐れは季節性の流感とほゞ同じ程度」の由。つまり普段から「どんな流感でも」突然変異や大流行の可能性があるから覚悟して対峙してゐなければならず、たゞ「新型だから」といつて大騒ぎするな、といふことだらう。右に掲示のグラフは日本政府の感染症情報センターの報告する過去10年のインフルエンザの定点当たりの感染報告数の週別統計。大阪と兵庫で新型の数百名の感染があつても全国的には季節性を含む流感全体としては新型の感染者数は反映せず流感全体としては例年なみの流行。今回の新型のやうな、地域的にたとへば四、五百人くらゐがかゝる流感など毎年いくつかあるのでは? 日本では続々とH1N1A型の感染者出てゐるが、日本だから「もしかしたら、これも新型?」と思ふ容疑者が次々ときちんと医師の診断受け医師もきちんと新型かどうか確認し……と、その真面目さが数字に反映、とか。だうであれ、これほど致死率の低い流感なのに不安が煽られる。どこだかの会社で、朝の社員一斉のラジオ体操、感染防ぐため社員が中庭に一堂に会せず夫々の部署内で、ってマスクしてまで朝の体操……悲劇的。NHKのNW9では「新型インフルエンザにかかつた場合、だうすればいいのでせうかっ!」と感染症専門の大学医学部の専門医を尋ね、尋ねる方も尋ねる方だが答へる医者も医者で「まづ、治すこと」そして「うつさないこと」としてマスクの正しい着用と消毒を説く。もはや喜劇。デパートでマスクした受付嬢が「目元だけでお客様に笑顔を作るやうに心がけてゐます」だの「声のトーンもいつもより少し高めで」と全く無意味な取材も含め20分もこの新型流感を報道し、結論は「そんなに過敏になる必要はない、ってことですねっ」と。NHKの報道センターこそワケの解らない病原菌に感染してゐるのでは? 地方の役所の対応とて墨西哥での豚フル発生から「わが県の県民はメキシコにどれくらゐゐるんだっぺ?」と知事だか総務部長の鶴の一声で「アジアでも香港で感染があったみたいだし、どうせなら海外に県民がどれ位ゐるか、調査してみっけ?」で県庁職員が海外の関係機関に次々と電話やメールで問ひ合せ無駄な労力を費やし、次ぎに海外からおらが県への感染に脅え、今度は国内での感染で教委は修学旅行取消しの苦渋の判断を迫られ……とたゞ/\労力を費やす。通常の季節性流感と変わりない流感不安でこの騒ぎなのだから、鳥流感(致死率63%とか)や致死率の高い新型悪性流感でも流行したら日本はどんな混乱になるのか、と思ふと恐ろしいかぎり。
▼広島の少年院での教官による収容されてゐる少年への性的虐待朝日新聞)。被害者の少年の母曰く「明らかに性的虐待でまるで拷問。少年院は大人を信用させて社会復帰を促す施設のはずなのに」。母には辛からう、が、何らかの社会的規則から逸脱した、とされる冒涜者を監禁する中での規範の執行者による冒涜的な言辞と冒涜的行為……人に更生を図らせることを意図した監獄、感化院など収容施設でのかうした狂気は残念ならが今に始まつたことではない。むしろ、さうした「異常」行為があることがフーコー的には理論的には正しい=行為の善悪にあらず、さうした行為の存在が必然的であることの証左。この母のコメントが「少年院は大人を信用して」でなく「少年院は大人を信用させて」なのは、さういふ意味で正鵠を得ていよう。
蘋果日報の連日の「六四」廿周年特集に昨日の紙面はウアルカイシ氏登場。1989年当時、人民大会堂での首相李鵬との対話にパジャマ姿で現れた李鵬の喋り遮り言ひたいこと言つて男を上げた印象強いがウアルカイシ本人曰く、あの姿は絶食と疲労で病院に担ぎ込まれ病院の患者用の寝巻きそのまゝだつたもの=意図的にパジャマ姿で出たわけぢゃない、と説明。当時の自分たち学生の主張は官僚主義の打開、汚職否定や報道の自由、私有化財産等であり、それは今も間違つていないと確信するが、政府は経済自由化ばかり進め他の停滞を誤魔化してゐる、と指摘。ウアルカイシ君の指摘は間違つてはゐない、だらうが同じ民主化運動のリーダーの一人であつた封從徳氏はウアルカイシ李鵬との面談で天安門広場占拠の学生が統率とれておらず混乱状態のやう(強調學生領袖與學運組織的無能為力,甚至說廣場學生背離民主程序)と語つたことで、中共中枢に天安門広場の学生たちの運動が混乱に陥つてゐると印象づけ「無政府状態解消のため」という口実で学生鎮圧を提唱する強硬派を勢ひづけた、と指摘。
現在的問題,不在於要說服我們這些人。我們很想讓同學們離開廣場,廣場上現在並不是少數服從多數,而是 99.9%服從 0.1%;如果有一個絕食同學不離開廣場,廣場上的其他幾千個絕食同學也不會離開。
ウアルカイシが英雄化してスポット浴び首相李鵬とのトップ会談で「逆上せた」ことが凶事となり、その直後からウアルカイシや王丹などが指導層から外れ「広場派」と呼ばれた李禄や柴玲が主導権を握つることとなつた、と当時を回顧。
▼十五日(金)の日剰に綴つた自称政治家「文革曾」行政長官の呆れた「六四」発言。(以下、十七の蘋果日報より)97年の香港返還以降昨年まで立法会議長務め全人代常委(現職)の范徐麗泰女史が「香港には様々な(思想、立場の)人がゐるわけで、一人で全体を代表するやうなことを軽々しく口にすべきでない」と苦言呈す。また「六四は一つの悲劇」として「誰もが教訓を得るだらう」し「国家がいつか六四をきちんと取り扱ふ時が必ず来るだらう」と婉曲ながら指摘。「香港は言論の自由があり誰もが自由に意見を表明する権利がある」と行政長官一人が香港市民代表するやうな主張することをやんわりと非難。范女史を襲ひ立法議員となつた元保安局長の葉劉淑儀も文革曾の発言を誰が全体を代表して主張できるか、と指摘し六四事件については「河水不犯井水」と。さすが行政長官前任者の董建華から突然の辞意聞かされ行政長官となる日に軽々しく爽快に口笛吹く、その曲が中国国家(義勇軍行進曲)だつた、とさすが文革曾の凄さは香港の保守派の間でも顰蹙の由。

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