富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-03-15

三月十五日(日)昨晩はとても気持ちよく眠れ今朝六時過ぎに目覚む。起きてもけして睡眠不足や深酒の結果の眠さとは違ふ、なんともmellowな気分。昨晩服用の薬はヒドロキシヾンといふ蕁麻疹や皮膚の痒み抑制の薬だが不安・緊張感の緩和の睡眠効果ありの由。幸ひ蕁麻疹もすつかり失せて、気分は少し爽快。午前中一つ出かけて仕事済ませ最近は運動する暇もなく全然訪れもせぬジムに寄り久々に、もう他人様に肌を晒すも厭はずサウナ風呂に浴す。昼に一旦帰宅。午後はZ嬢と沙田に行幸。路線バスで沙田第一城まで走りMTRに乗り換へ車公廟。香港文化博物館。もうあと一週間だか遅く来館せば戦後の倫敦與巴里の服飾展と昨日、中央図書館で参観の黄貴權らの別の香港風景写真展も見られたが二つとも展示準備中。本日は「戲台上下 - 香港戲院與粵劇」の特別展参観。香港開闢後の巷芝居が小屋掛けとなり上環に太平、高陞や中央戯院が出来て粤劇が隆盛の二十世紀前半から1991年だつたかに閉館の利舞臺迄の香港の粤劇を「芝居小屋」に焦点当てた展示内容。劇場の建物のレイアウト、建築から切符販売、役者や従業員の手当明細、会計簿など芝居のまさに「システム」の紹介が面白い。この展示が可能となつたのも2006年に太平戲院のかつての劇場主・源碧福女士が千点を越えるきちんと保管された粤劇関係の文物を史料として提供に拠るところ。敬服。文化博物館を出て沙田のショッピングセンター通り抜ければ芋を洗ふが如き人出。人工的な広場では何だかワケのわからぬ半官半民の催しが賑やか。どうしてもかういふ新興都市の出来合ひ物が苦手。沙田大会堂。沈文裕、Z嬢は彼を第一回(2005年)の香港ピアノコンクールに彼が登場以来、その髪形から勝手に「ぶあ/\君」と呼ぶのだが、この沈文裕君のピアノで葉惠康氏率ゐる泛亜交響楽団なるオケで演奏会あり。これに来たのだ。沈文裕は香港で地味にピアノ演奏聞いてゐればそれなりに知られた四川省の天才ピアノ少年でもう二十歳を過ぎ独逸でピアノ演奏研鑽の身なるは言ふに及ばず。葉惠康氏は香港シンフォニエッタ率ゐる葉詠詩女史の父だと実は今になつて知つたが、香港の児童合唱のドンださうで、この泛亜交響楽団創立して三十年。この葉さんの指揮もこの楽団もアタシは初めてで、当然、それなりの演奏だらうが、今日の演目はラフマニノフの歌曲「ヴォカリーズ」でウォーミングアップのあとぶあ/\君登場でベートーヴェンのピアノ協奏曲四番、中入後はラフマニノフのピアノ協奏曲二番をやつてしまふ、といふ、プロのオケでもかなりのスタミナが要るだらうけど、これが出来るのが走り込みもせずフルマラソンに出るアタシと同じ素人の怖さで素人だから怖さ知らずで時計や内容はどうであれ完走しちまふから。たゞ沈文裕君はマラソンでいへば二時間半くらゐには軽く食ひ込むピアニストであるから青梅マラソンで市民ランナーにしてはそれなりに速い三時間半くらゐのオケでは、ぶあ/\君は前半のベートーヴェンの四番でかなり煽るが楽団と老監督はそれに乗りもせずマイペースでキロ六分半の走りを続けるばかり。ぶあ/\君、相変はらずミスタッチのない演奏。折り返しを過ぎこの楽団が小編制のまゝ本当にラフマニノフの二番が弾けるのか、と中入りも客席で舞台眺めてゐたが多少、管が増えた程度。さすがに楽団は譜面の音をなぞるのが精一杯で抑揚もフレーズも得難い、がアマチュアの楽団だと思へば大したもの。ぶあ/\君は彼の実力を出し切らぬまゝ、たゞこの難曲も彼のテクニクでは弾きこなす。だが彼の演奏は聴衆としてどこか拝むやうな、いやぁ聴かせていたゞいた、といふ感無量にまではまだ/\至らず、か。葉惠康がアンコールではぶあ/\君促しショパンポロネーズから一曲、で楽団は舞台上の客と化しぶあ/\君の奏でるピアノに聞き惚れる。さらに老指揮者は客席にまだ聴き足りないでせう、とぶあ/\君にベートーヴェンの「英雄」の第一楽章を弾かせる。ベートーヴェンの四番にラフマニノフの二番でこれぢや、もはやピアニスト虐待のやうだが、ぶあ/\君もよくしたもので本番で出し切れなかつた力を発揮か、でこの楽章を弾きこなす。で最後はショパンのラ=カンパネラでお終ゐ。客は恐ろしいほどに地場の十代前半の若者多くZ嬢と「本番中に携帯が何回鳴るか賭けようか」などと嗤つたがなか/\どうしてマナー良き若者たち、で上演中に携帯が鳴つたのは三回のみ。恐ろしい人出の海を掻分け沙田火車站。路線バスで観塘。古い市街を彷徨ひ久々に雲南風味餐廳に米線など食す。美味。もう治まつたが蕁麻疹の薬飲んでゐるので辛みの刺戟物避け今晩も休肝日。沙田にゐて何故にわざ/\観塘に来るかね、と我ながら可笑しいが沙田なんかに比べ観塘の旧市街の猥雑さが何と心地よいことかしら。また路線バスで香港島に戻る。帰宅して何気にPodcastでTyler Brûlé氏のThe Monocle Weekly聴くと元蹴球選手中田君出演中。伊太利語もだが流暢に聞こえる、といふか慣れてゐる。が多少Tyler氏の質問から的外れな答へもするが自分の取り組まうとするプロジェクトを、日本の工芸のクラフトワークをもう一度世界に、とか答へるのが彼の蹴球のやうに体裁よく見せるから、その芸風なのだらう。でもTyler BrûléもナカタもエミレーツA380のファーストクラスはどうのかうの、だのどの空港のラウンジが良いか、だの聴いてゝもうそのネタは食傷気味。
▼リーマン兄弟の亜細亜部門買収の野村インターナショナル、70名の金融専門家らが香港でリーマンが実施してきたDeep Water Bayの年に一度の浜辺清掃を引き継ぎ実施、SCMP(14日)のLai See氏曰く、このボランティア活動実施より更に重要なことは政府援助なしで活動実施したことだらう、と揶揄。
▼信報(12日)で「風水」と題して陳雲氏がHSBCの凋落と風水を語る。これはHSBCに限らず香港が、だが、そもそもヴィクトリア海峡の埋立てで水の流れが速まり香港に水が聚らず財来財去となつたのが一つ。で二つ目は2005年に香港政府総部が現在の中環から金鐘のTamarの旧海軍総部埋立地に移ることを決定。これでヴィクトリアピークから総督府〜香港政庁(現特区政府)総部〜香港上海匯豐銀行(HSBC)〜高等法院(現立法會)〜皇后像広場〜Edinburgh Placeでヴィクトリア海峡まで続く気運の水脈が途絶えてしまつたこと。更に天星碼頭とQueen's Pierが埋立てで排斥されたことも追ひ討ち、と。興味深い。
蘋果日報(壱傳媒)黎智英社主が台湾でのテレビ局買収でそのCEOに馬英九総統の参謀で愛新覚羅家の末裔、金溥聰氏抜擢、実は何かと親中的と台湾自立派に嫌はれる馬政権が溥聰氏を台湾マスコミに影響力強く反中派の代表格とされる黎智英の許に遣ることで緑=民進党系マスコミ牽制し2012年の再選狙ふ馬英九の親中イメージ少しでも解消が狙ひといふ憶測あり(慥か数日前に蘋果日報で左丁山氏が書いてゐたか記憶不確か)。
▼劉健威兄が星巴珈琲に註文つける、は「レギュラー珈琲の小さいの」と頼むと決まつてカウンターの職員はレジ前の三つのカップのサイズを指して「どれになさいますか?」と尋ねる、と。そこにはTall、GrandeとAltoの三種類があり、つい誤導されその三つの中では一番小さいのを選ぶと「Tallですね」となる。実はShort(小)もあるのだが少しでも売上げ伸ばさうといふ詐偽ぎりぎりの行為。アタシもうつかりTall註文しちまつたことあり。星巴に限らず香港では太平洋珈琲も同様の手口あり。

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