富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-03-07

三月七日(土)同雲惨澹。また冬に戻つたかのやうな寒空。ジェケットの上に薄手のコート羽織り外出。昨夕てつきり木曜と思つて今週はアト一日、明日があると思つてゐた大きな勘違ひ。さまざまなこと終はつてをらぬことにぞつとして今日も午後までご執務続く。今朝方読んだ新聞で何とかといふ写真家と道楽の写真もそれなり、の俳優・周潤發の香港の都市風景写真展の紹介あり中央図書館に出向いたが新聞記事は「後天下午六點開幕式典」で来週の話。北角で食品や日曜雑貨購ひ十三座牛雑で一串立ち食ひし帰宅。ひさびさにゆつくりと週末を自宅に過ごす。NHK白洲次郎君主人公とするドラマ少し眺める。昭和の初めに軍政に道を開き政治の第一線から退いた筈のお公卿さん(近衛公)のブレーンとなる、商売家の坊ちやんの趣味も首を傾げるが、このドラマでは語られまいが臣茂さんの側近であつたとはいへ茂さんの首相退陣後に健坊を政界入りさせようとした(笑)といふ話がホントなら白洲次郎の見識疑ふばかり。吉田健一が代議士になつてゐたら二世議員もさぞや可笑しいことだつたけど。ところで昨晩のブルックナーの話続き。日剰に秀和さん風に「僕はお酒なんて飲んでゐたらあのブルックナーの7番の主題が何度も繰り返される大1楽章で、きつと 寝てしまふ、それも熟睡しちまひさう」なんて書いたんは当の秀和さんが初めてブルックナーの七番聴いた時に孰睡してしまつた、といふ話が伏線にあるから。ただ昨晩それがよく思ひ出せず、でゐたら久が原のT君から今晩遅く便りあり、ありや秀和さんの初外遊でクナッペルツブッシュ指揮の維納フィルを聴いた時のことでしよう、と。さすがT君。この七番は齢八旬のオイゲン=ヨッフム指揮のアムステルダム・コンセルトヘボウ管絃楽団で実演を聴いてゐるといふT君、今晩は初台の歌劇場でヴァグネル「ラインゴールド」初日をお聴きになつたさう、秀和さんですら歌舞伎でいへば「六世中村歌右衛門娘道成寺みたやうな極め付け」で聴いてゐても楽しめず、つてんだから、と。それでさう/\あの話、と思ひ出して秀和先生全集紐解けば最も親しまれてゐる「私の好きな曲」の中にあり。ただし七番が好きなんぢやなくて(笑)九番がお気に、の秀和先生が初の外遊でクナーッパーツブッシュ指揮の維納フィルをザルツブルグ音楽祭で七番の二楽章(アダージョ)の途中で眠りこけてしまひ、ふつと目が醒めても、まだその楽章が続き、続く楽章のスケルツォも「短々長々のリズムの無限の繰り返し」に閉口した秀和さんはドイツの知人に「さう、お前には、まだわかるまい」といはれ、秀和先生ですらブルックナーはわからないままで何の支障も感じずにゐたが、年をとり経験を重ねた結果「ブルックナーを聴くための忍耐」の重要性がわかる、と言ふ。それが何なのか、畏友T君は昨年の初に藤村実穂子女史が聖木曜日の維納宮廷歌劇場での聖劇上演で日本人が主役を張り満場の喝采を浴びるのを見て「邦人がキリスト教徒の音楽を演奏することの意味」を考へ込んぢまつた、で、ブルックナーにもそんなところがある、と。確かに19世紀に西洋音楽が宗教から乖離するやうな、そんなところがブルックナーに認められるのかしら、なんてFMでくらひしかブルックナーを聴いたことがない僕に、これに言及するだけの理解はないし、それにやつぱりブルックナーは僕にはまだだいぶわかりさうにない。……ぢや、また明日。

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