富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-02-07

二月七日(土)快晴。昼の気温摂氏廿四度。初夏の如し。土曜だといふのにお針仕事終はらず。注文に間に合はせようと手を休められず。昼に独り跑馬地の寿司澄に握り寿司頬張る。夕方の青空に見事な十三夜の白月を愛でる。早晩に九龍に渡り尖沙咀。Z嬢と「尖沙咀の」Jimmy's Kitchenに食す。この食肆が昨年、同じ大廈の樓上より地面に新規開業して初めて。家賃は高かれど二階での営業ぢや客の目にも止まらず、で路面でバー広く集客に期待だらう、が成功したか早晩よりかなり盛況。ところで同じAshley街の「京笹」も京子ママ、と言つてももう知る人も少なからう、が京子ママ時代からの店舗を出てAshley街の突当りにかなり広めに新装開店。でJimmy's ではお決まりで名物のドライマティーニ注文したが今一つ、といふか今二つ。FCCのバー並みに水つぽい。食事は蟹肉とアボガドの前菜、オニオンスープとビーフストロガノフ飯をZ嬢とシェア。好物の蟹肉とアボガドの前菜が、かつては半分に割つたアボガドに蟹肉がグラタンのやうに多少、火が通つて温菜だつたのが「あれ、これ注文と違ふんぢやない?」と思へるサラダ風の冷菜。でも蟹肉とアボガドには変はりないので丁重に「レシピを変へはりました?」と尋ねると黒服の給仕慇懃に「さうどす」と答へ「いづれがお好みで?」と尋ねるから鳥渡困つて「以前のが……」と告げると笑顔で「次回は「以前ので」とご注文くださいまし。ちやんと作らせていただきますので」と給仕氏。こんなやりとりが出来るだけやつぱり老舗の格。まだMTRの工事終はらぬ尖沙咀を歩きパイプ一服しつゝ香港文化中心。市俄古交響楽団の演奏会。今晩のシカゴ交響楽団の演奏会入場料、香港にしては一昨年のベルリンフィル以来の高値。しかも香港芸術祭で公的支援あつても高値。昨年の紐育フィルの二倍近し。今晩はマーラーの6番の1曲でS席がHK$1,480ぢや、冗談ぢやねーよ、全く。ちなみに昨晩はモーツァルトの41番とストラウスの「英雄の生涯」で2曲だから(笑)HK$1,680である。高い。がZ嬢の話では数日前の麻布谷町サントリーホールぢや4万円ださう。今回のシカゴ交響楽団のこの演奏旅行につき三日の信報(芝加哥交響樂團訪港險觸礁)に斯の如き逸話あり。
一脚踏兩船、二兎を追ふ者は一兎をも得ず、で今回のシカゴ交の中国ツアーは香港に始まり上海、北京の旅。公演環境がまだ整備されぬ内地でシカゴ交のマネジメント会社はまづ東方藝術中心と談判。三年前にベルリンフィルが訪滬、当初の上海大劇院との交渉翻し新興の東方藝術中心での公演決定。契約をば反古して大劇院に再三致歉の同じ轍を踏まじ、の筈が歷史重演はベルリンフィルの公演から半年後の今から二年前、シカゴ交は東方藝術中心とさつさと今回の公演を決定。面子潰された上海大劇院は勃然大怒、二度とシカゴ交には会場は貸さぬ、と憤慨は当然。でシカゴ交は今度は北京での公演場所の選定。実は上海東方藝術中心の運営は北京に本部ある大投資会社「保利集團」傘下の保利文化艺术有限公司によるもの。で保利集団にしてみれば首都も傘下の保利劇院(東京でいへば民営でサントリーホール)で公演あつて当然のところ、シカゴ交にしてみれば指揮者のBernard Haitinkはじめ北京ではそりや北京五輪に合はせ完成の国家最高級の国家大劇院で公演して当然。保利集団は保利劇院での公演実現のため出演料に一晩US$3万の祝儀(二晩でUS$6万)までイロをつけたがシカゴ交は保利劇院での公演に首を縦に降らず。で怒つた保利集団は上海での東方藝術中心での公演解約!と三行半突き付ける。中国ツアー暗礁に乗り上げたシカゴ交は平謝りで上海大劇院の門を敲き公演許可取り付ける一騒動。で足下を見られたシカゴ交は本来、港滬京の三箇所六晩の公演でUS$60万×三都市=US$180ふんだくる筈が北京はUS$50万で調印、ツアー日程の関係で1泊分当地主催者側が負担せねばならぬ上海は更に勉強してUS$45万とし香港も北京と上海に倣ひUS$55万に値下げ。で今回のシカゴ交が払つた授業料(収益損)はUS$30万也。
それでもざつと計算して香港の二晩US$55万なら一晩の公演がHK$2,145千、箱の収容人数が2,019人で平均すると1,062ドル。最安値の席がHK$380ぢやS席が1,480となる。北京、上海でのトチリなければ更に入場料上騰してゐたか。それにしてもシカゴ交響楽団、アジアツアーでぼろ儲け。でマーラーの6番。とにかく最近のシカゴであるから「音のデカい」「管が雄叫びをあげる」といつた勝手な印象強いが第1楽章の第1主題からその通り。この小屋ぢやその大音響に応じるも能はず。この6番は完成度が高いと言はれるがアタシのやうな音痴には今一つ面白さがわからず80数分の演奏は正直言つて少し飽きる。しかもBernard Haitinkの演奏はぢつくり、多少テンポも遅め。だいたいこの曲を演奏できる、演奏する、演奏して聴かせようと自信をもつて言へるオケは多からず、敢へてこの6番をやつちまはう、といふのがシカゴらしい。アタシが6番で最近聴いたのはゲルギエフ指揮のLSOの実況録音版。スケルツォが後ろに回る最近風だがハイティンクさんのシカゴは従来通り。別に愉しく演奏する曲ぢやないがシカゴの奏でる6番はLSOの喜びも悲しみも感情豊かに、に比べると音量豊かだが「それぢやどうなの?」がアタシの勝手な「こじつけ」だがまさに米国的。この曲が「意志を持つた人間が世界、運命といふ動かしがたい障害と闘ひ、最終的に打ち倒される悲劇を描いた」(パウル・ベッカー)としたら米国の今の悲劇的な経済状況そのもの。さういふ意味ではこの曲をシカゴが香港から上海、北京と演奏して回るとしたら中国に対して暗示的で興味深いところ。いづれにせよヘヴィイな作曲家のヘヴィイな曲をヘヴィイなオケによる演奏に演奏終はつて「脂つこいものを食べ過ぎ」の感じ。客席で劉健威ご夫妻に邂逅しご挨拶、尖沙咀MTR站でも遭遇し今晩の演奏会のこと鳥渡立ち話。帰宅してLSOの6番を鳥渡、聴く。今晩の演奏のアトだとこつちはポップスに聴こへるから。
多摩テック近々閉園の由。まだあつたの?と寧ろ驚き幼き頃に父に連れられし頃懐かしむ。多摩動物園多摩テックで一日を満足の昭和40年代よ。

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