富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-01-29

一月廿九日(木)曇。Z嬢とマカオに遊ぶ。香港のマカオフェリー埠頭は香港からマカオに遊ぶ内地客で「これでもか」の出境の込み具合。フェリー艇内の乗客の大声での会話の洪水にアタシらは溺死寸前。なぜこゝまで会話しないと気が済まないのかしら。言葉の蕩尽そのもの。マカオに着きCentroでバス乗り換へフェリー波止場とは東望洋山はさんだ向かう側の二龍喉公園(Jardim da Flora)に行く。小動物と熊がゐる程度の何でもない小公園だが訪れること屡々。旧正月でまだ殆どの店が閉めたまゝの荷蘭園を抜け新葡京酒店(Grand Lisboa)。伊太利料理のDon Alfonsoに昼を食す。料理はまづ/\だが、エントランスは茅場町のお洒落なビジネスホテルのやうな新建材と偽大理石を上手く使つたシンプルなバールで餐庁に入ると内装はさすが良し悪しは別にして成金趣味の新葡京だけあつて悪趣味。昼から女郎二人連れの親父がフルコース頼み葡萄酒もグラスで白、赤、デザートワインと注がせ前菜からデザートまで酒も殆ど鳥渡食べては残して小一時間で去つたり、もう一組はこの食肆の常客らしいメタボな中年男が相手の女を前に格好づけで葡萄酒の講釈垂れる、がグラスで注文の赤葡萄酒を「少しおいた方が美味くなる」とそりや良いが突然、フォークをグラスに入れて検温ぢやないんだから、で暫くしてフォーク取り出してフォークを舐め「うん、だいぶ良い感じ」とテイスティング。給仕長呼んで総支配人宛に評価、は当然好評だが、を書いてやるから、と便箋を持つて来させ一筆認ためるから給仕長も慇懃に振舞ふのは当然。食後の珈琲を一口啜ると「カップが温めてないから珈琲の風味が落ちる」とダメ出し。十七、八の未だ青き若者ならまだしも中年男の全てが連れの女に見せる格好づけ。たゞ嗤ふばかり。客筋はマカオらしさで同じだとしても相対的に本家(従来のリスボアホテル)の仏蘭西料理Robuchon a Galeraの方に優あり。午後の散歩に昼から淫売婦多く企ち客引きのリスボアホテル内を潜りマカオの歌舞伎町たる北京街と殺伐とせしNAPE(外海新填海区)を抜けマカオ芸術博物館。O Palco do Dragão「鈞樂天聽」と題するArtefactos de Ópera Chinesa do Museu do Palácio de Pequim(故宮珍藏戲曲文物特展)の参観。清朝康煕帝の時代に崑山腔など研鑽された京劇の清末の見事な刺繍の衣装や脚本、扇子など文物の特別展。もう一つOlhares Interiores「以身觀身」と題して中国や、日本などアジアの前衛ハプニング芸術家のパフォーマンスを主にビデオ映像で見せる展覧もあり。前世紀の後半、草間彌生、オノヨーコ、秋山祐徳太子!など見て今更21世紀の前衛は寧ろ「おとなしさ」か。此処まで来たついでにマカオ漁人碼頭(Fisherman's Wharf)の埋立地突端に位置するRocks Hotel参観。一時は鳥渡評判になつてゐたが少し閑静な場所かと思へば思ひつきりこの娯楽施設の中にある、米国早期風のテーマホテル。客室のバルコニーに立てば眼下に内地の田舎漢の騒ぎ声と安煙草の臭ひ、目の前の更なる埋立地は開発暫定中止で荒涼とした風景なり。マカオ漁人碼頭さすがに旧正月の観光客で賑はふが飲食店と安つぽい土産物屋の他、建物の半数は店子なしの空家。カジノと並びまさに「建造過剰」のテーマ乏しきテーマパークは経営も苦しからう。路線バスで再びCentroに出ずれば路地裏まで芋を洗ふが如き人出。Biblioteca Sir Robert Ho Tung(何東図書館)に暫し憩む。繁華街から5分の距離にこの閑静さ。19世紀末に建てられし葡萄牙風の洋館は1918年に香港の大商人Sir Robert Ho Tung(何東)に買ひ取られ何東卿は日本軍が香港占領の1941〜45年に此処に居住。戦後、マカオ政府に供され1958年に図書館として開館。2005年からの大改修済ませたが見事なるは崗頂の広場に面した洋館はそのまま後背の新館部分が一切、広場から目に入らぬ見事な設計、で裏庭も活かしたままの新館は機能性と意匠が充分。なぜ此処まで出来るのかしら、と感嘆するばかり。閲覧室で暫し雑誌など読む。昏刻となり政府総部の裏手の静かな路道を漫ろ歩き和平斜巷の「猫空間」。猫と戯る。日暮れに西望洋聖堂を望む。葡萄牙総領事官邸はかつてのホテルベラヴィスタ。十数年前に何度も訪れ食事愉しみ宿泊も一度。民国大馬路に下り西湾湖岸を散歩。終日よく歩く。澳門文員網球會の利安餐廳に夕餉を食す。美味、廉価でお気軽。但し噂の通り料理の量も格別。唯靈先生が客の立場でありながら「値段に見合ふ量に減らすか価格を上げるべき」と提唱も納得。路線バス乗り継ぎフェリー埠頭。香港に戻る客でかなりの混雑。帰宅すると夜半風強し。
▼ダヴォス会議で中国の温家寶首相が基調講演。どうも共産中国といへば国際会議の印象は昭和30年のバンドン会議周恩来首相。それが世界経済フォーラムで各国の指導者や大企業の経営者を前に中国の首相が基調講演の時代にならうとは。それにしても温首相「昨年12月末から中国経済の回復の兆しが見えてゐる」つて、そんな大胆な。
旧正月の拝神で賑はふ黄大仙祠。この廟を営む嗇色園がなんと参拝できぬ方に網上祈福を開始の由。

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