富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-01-12

一月十二日(月)晴。早朝に東空に傾く見事な白月を眺む。いくつか急ぎの仕事のみ済ませ昼前に羅湖より深圳に入る。野暮用一つ済まして夕方香港に戻りご公務続け二更に至る。
▼鳥渡好ゐ話を耳にす。香港に或る男ありけり。春節前の年の瀬、何かと物入りの季節、知る肆の馴染の娘に祝儀くらゐ渡さう、と或る日の晝餉に誘へば食後に「鳥渡、買物が」と娘。其処が高級商場ゆゑ正月に合はせ晴れ着の一枚もねだらるゝか、と男、覺悟。晩に肆で會つた方が安くついたか、と苦笑。が、娘が向ふは「優の良品」。量り賣りの菓子屋なり。大陸生まれの娘、春節に年に一度の樂しみは郷里への里歸り、せめてもの土産、とつまらない菓子、袋に詰める。男、晴れ着でも求めらるゝと娘の「したるかさ」勘ぐつた己を恥ぢるばかり。「おい、これは?」と男、手近かの干しマンゴーの袋差し出せば娘は驚き「旦那さん、こんな高いもの……」と。ゐゝから、と男、量り賣りの菓子と干しマンゴーの代金拂ひ濟ませば照れて店の外に。「すみませんね」と濟まなさうに禮をいふ娘。故郷離れ香港の色街に身は置かうとも毎月、實家への仕送りはかゝさず、春節には父母に元氣な顏を見せやう、といふ其の健氣さに男、たゞ/\言葉もなし、と聞く。
▼台湾にて李登輝先生、今度は「倒扁運動」の施明徳の家を訪れ七時間の会談。国民党と民主党に対しての「第三勢力」の籌組画策は否定しつつ「台湾新力量」の結集の可能性など語った、と。登輝先生の総統就任で美麗島事件での判決無効の決定で終身刑解かれた施氏。今では李先生も施明徳もお互い「目立つこと」には目敏いが大老人と民主化OBの組み合わせで果たして何をしようか。
朝日新聞の「資本主義はどこへ」。昨日だつたか労務者や派遣被解雇者、かつて自民党の支持基盤であつた農村の老人らの日本共産党入りを紹介し「これつて赤旗?」と思ふやうな朝日新聞(それはそれで良いが)。今日は辻井喬へのインタビュー。資本論を読み返してゐる、といふ辻井が資本論
本質的には人間の欲望を満たす行為であつた消費が、資本主義社会になつてからは労働力の再生産のための消費一辺倒になつてしまつた。
といつたやうな話を取り上げ、消費社会を語る。それは「作家」として自由だが、この人が辻井喬であるばかりか堤清二であることを思へば「デパートが時代遅れになつた」とか「デパートが主役だつたのは、長く見ても80年代まで。西武百貨店の全盛期は75年から82、83年です」なんて言葉を聞くと、納得いかず。自らがその企業の(それも株式非公開のown companyで)経営者=最高責任者であつたご本人。この人の経営の舵取りの間違ひでいつたいどれだけの社員が路頭に迷つたか、を考へれば、だ、(確かに会社更生である程度の私財投入したかもしれぬが)こんな悠長なコトを辻井喬として言つてゐられないはず、と思ふのだ。

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