富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

一月七日(水)薄曇。昨日の日剰にメールの送信時間が深夜と早朝では歌舞伎町と永平寺のやうな違ひ、と書いたが改めて思ふに「泥々ぐあゐ」では意外と前者は文字通り水商売であつさりで宗門こそ泥々、鴨。本日も早朝から忙しく一仕事終へ官邸に戻ると首席秘書官が衛生署からとアタシに電話があり内容を尋ねたが「個人的な内容」のため本人以外には秘匿の由。アタシの身に何か?、と電話してみると「先日申請いただいた臓器などの捐贈の件で」本人の申請に間違ひがないか、だけの確認、と。先日、香港紅十字で恒例の献血の折、この臓器提供の申込書あり、世の中に何ら貢献なき我が身、せめて臓器提供だけでも、と、どうせなら残骸も焼却して灰は海にでも流してくれれば、と思ひ申込書開くと申請内容も余りにも簡単で「18歳以上の成人」であるから当然、親族等の承認も要らず本人の意思のみ。そりやさうだ。で申込書郵送したら、の本人確認にみ、もご本人ですか?で香港IDのナンバー確認で5秒で終はり。晩に帰宅して陽暦で今日は正月七日、で七草粥ならぬ厳密には三草粥ださうな。昨晩三時間くらしか寝てをらずさすがに睡魔に冒されいつも以上に早寝。
▼「破小學 VS 豪官衙」と今日の蘋果日報が伝へるのは広東省の紫金縣中壩鎮にある富坑舊塘小學の貧窮ぶりと同県の地方党政府の豪奢ぶり。
▼今日のNHKのNW9。お馬鹿加減は相変はらず。キャスターの田口某「アメリカの経済問題に端を発した……」といふ話題に「金融経済はやはりアメリカ頼みだつたといふことが明らかになつたんですねつ!」つて、そんなこと中学生でもわかつてゐる。コメント不要。太宰治埴谷雄高松本清張……全然関係ない三人の作家だが、この三人がなんと1909年生まれで同い年の由。驚き。NW9で珍しく「タメになつた」話題だが松本清張の記念館だかの紹介で。で衰へない清張ブーム、でコメントで出てきたのが阿刀田高氏。「ナポレオン狂」で直木賞の時にはそれを読んだが。内容より新刊での和田誠の装丁が記憶に強い。最近、といふか「それ以来」何を書かれてゐるか、中村紘子のご主人の庄司薫よりミステリーかも。太宰、雄高に松本清張の同い年も驚いたが朝日新聞の「東京タワー」についての記事で怪獣モスラの幼虫が繭を作るために東京タワーに取りつく、当時(1961年)あまりに印象的な発想のこのシーン、その東宝映画「モスラ」の原作(発光妖精とモスラ)の作者が中村真一郎福永武彦堀田善衛の三先生だといふのには驚いた。どう見ても岩波文化人で雑誌『世界』に「モスラ」小説が載るやうなもの。
朝日新聞の「私の視点」に朝倉喬司氏が犯罪について。朝倉喬司氏と別役実氏が80年代後半だつたか朝日ジャーナルで「犯罪季評」あり。バブルの明るい時代に、まぁ冷静といふか地味で控へめな、今もまだ印象に残る名談義。朝倉さんの感情を殺した文章の筆致。
ある人間が自分の境遇に不満を抱いているとして、そんな状態がなぜ自分にもたらされているのか、その明確な理由(ひいては克服の方途)を自分のなかにも社会にも見つけ出しにくいのが今の時代だと思う。見つけ出せないまま不満を燻らせ続け、自分の生きる現実総体に対する、時に妄想交じりの被害感情をつのらせた末に犯行に走る。これが多くの“通り魔”の動機形成のパターンである。
……とどうだらうか、こんな一字一句無駄のない的確な定義がキョービの犯罪について他にあるかしら。
日本は現在、殺人の総発生件数の約半数が家族、親族間で起きているという「異常」を内に抱えている。私たちが、自分のリアルな生活圏の他に、あるかなきかの夢を過大にふくらますという、ここ何十年にわたって馴染んできた習癖を少しはセーブしないかぎり、この「異常」が解消する保証はないだろう。

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