十一月十五日(土)曇。朝七時に目覚めれば昨晩の深更までの痛飲にそれなりの宿酔あり。ホテルから退去。新橋驛でそれなりに上手い本格的なさぬきうどん(ぶつかけ)食す。東京驛日本橋口のホテルメトロポリタン丸の内に荷物預け新橋に戻り銀座八丁目。宮脇賣扇庵で扇子いくつか購ふ。菊水煙草店でパイプ(菊水オリジナル)の吸ひ口中に仕込む部品購ふ。鳩居堂でポチ袋、大野屋で手拭ひ……といつものお買ひ物。歌舞伎座で母とM夫人と待ち合はせ顔見世の昼の部。盟三五大切(かみかけてさんごたひせつ)は南北の作品を郡司先生による改編で忠臣蔵や四谷怪談を折衷劇にしたもの。源五兵衛(仁左衛門)が惚れた芸者小萬(時蔵)とその亭主三五郎(菊五郎)に騙され伯父助右衛門(東蔵)から討入りの軍資金にと預かつた百両を騙し取られ、その復讐で源五郎による猟奇的に殺人が続く。が源五郎の後に明かされる真姿からしても殺人鬼ぶりとのバランスがとれてをらず。さう思ふのも、現実の社会で見る猟奇的殺人が「誰でも良かつた」であり、それにこそ真実味があるからこそ、なのだが。噂には聞いてゐたが東蔵が実に渋い芝居。かつての十七代目羽左衛門のやう。仁左衛門さんの源五兵衛を二列目かぶりつきの花道寄りから惚れ惚れと見上げる。廓文章の吉田屋は伊左衛門演じる藤十郎の、当然のニン。この人自身が77歳でフェロモン?たつぷりに伊左衛門役。何もコメントせぬ。夕霧は魁春さん。舞台跳ねロビーで松島屋の博江夫人にご挨拶。仁左衛門丈がかうも忙しくては海外旅行もまゝならないでせう、と。歌舞伎座を出ると本降りの雨。松屋デパートで母に傘を購ふ。タニザワ鞄店に向ふ途中、怖いもの見たさ、でトラヤ帽子店覗くと灰兎皮のボルサリーノが目にとまる。春秋には良いわ、とを買ひ上げ。タニザワでは探してゐた同店オリジナルの散歩ショルダーは絶版であつたがソメスサドル社の小さなショルダー見つけお買ひ上げ。銀座は怖い。タクシーで丸の内のホテルに戻る。部屋はZ嬢がすでにチェックイン済みでお出かけの由。荷物だけ置いて母と東京驛。改札過ぎた地下街のはせがは酒店の立ち飲みに寄り曾て香港のバーYに働いたK君に再会。大賑はひの酒屋。上野。アメ横。黒門町の絵馬亭なる食肆。西新井に住まふ伯父伯母、従兄のS君夫妻と食す。酒肴が秀逸。黒門町といへば文楽師匠。伯父母、上野驛に向ふ母を送りS君夫妻と池ノ端のパブに一飲。半夜三更に丸の内のホテルに戻る。
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