富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-02-15

二月十五日(金)晴。千葉は銚子より来港のH氏に昨日いただいた秋刀魚の開き朝に食す。美味。昼はほんの少し暖かく摂氏十三度。小学の時の同級生で昨年、実に何十年ぶりに再会のT君夫妻ご来港。T君は某電力会社の研究員で発電の水の流速の測定を超音波でナントカかんとか、余にはさつぱりわからないが要するに発電が効率良くなるやう、大切な研究をされてゐる。早晩にT君夫妻を上環文華里にお連れして印鑑づくり。同伴の余も富柏村印と蔵書印誂へる。Bonham Strand Eastにある尭陽茶行に鉄観音茶購ふ。路上の街市抜けて粗呆区のWatson'sにて葡萄酒購ひFCCに麦酒一飲。鏞記酒家にて晩餐。Z嬢来。この食肆では何かと気遣ひいただく旧知の副経理J嬢、経理のT氏らに利是差し上げてゐると突然、何処からともなく一人の女給現れ利是強請られ祝儀でやつたものの我らが卓に給仕するでもなく、その後は一向に姿も見せず。ありや誰だ?といふ話になり店員に扮した利是詐欺か、将又、実は十数年前に一時働いてゐた女給が退職後不幸続きで亡くなつたのが正月になると賑やかさ恋しく店に現れ客の間を回るが同僚の職員には姿が全く見えず、の幽霊話か、と笑ふ。葡萄酒は豪州産で白はDog PointのSau Blanc 06年、赤はHenry's DriveのCab Sau 04年。鏞記といふのは大したもので当方が葡萄酒を白、赤一本づつ持ち込んだ、とわかれば料理もちやんと供す順番まで気遣ひ、酒の飲み具合で料理が運ばれ、さすが。満腹で腹ごなしに歩いてからピークトラムで山頂へ。さすがに寒い。ミニバスで中環に下り尖沙咀に渡るT君夫妻と別れ帰宅。綺堂劇談補遺少し読む。今日は竹内好『日本とアジア』から1948年の「中国の近代と日本の近代」を読む。竹内好が今日もクローズアップされてゐるが余には「なぜ今になつて竹内なのか」よくわからぬ。1948年で戦争への反省も「通り越して」(戦争反省が「ない」のではない。戦争体験を反芻、と言へば聞こえがいいが、それを超越してしまつてゐるところが竹内好)、日本は立派な民族、国家だから、と論を進める、このオトーサンがゐて、それが21世紀になつてもまだ再評価とかされてしまつて持ち上げるのが、どこか気持ち悪い。「竹内好を21世紀に必要とする日本人とはなにか?」が気になるのは、今日、T君にお強請りして雑誌・文學界三月号を買つて来てもらひ小林秀雄没後四半世紀で橋本治と茂木賢一郎の対談を少し読み二人の話が治ちやんの近著『小林秀雄の恵み』が実は橋本治が『「三島由紀夫」とはなにものだつたのか』で第1回小林秀雄賞を受賞された時に記者会見で「私は別に、小林秀雄がなにものであるかということへの関心はないんです。“小林秀雄を必要とした日本人”とはなにものだったのかということへの関心があるだけです」と語つたことが切掛といふ話から始まつたからで、これを読み竹内好もさういふ意味で気になつた次第。
▼久が原のT君より陶傑さんの「藝字是一門專業」のこの言葉、まるで禅の公案円覚寺僧堂の老師に一行物に揮毫して貰ひ床に掛けておきたい、と。ところで香港開闢以来の芸能界のこの椿事、政府淫褻物品審裁處がネット上に流れし画像は「不雅だが猥褻に非ず」(indecent but not obscene)と評価。猥褻物流布罪で警察が捕まへた青年は無罪釈放。淫審處の主任裁判官曰く「もしこれが特定の芸人の私事画像だとした場合、その本人の損害は大きく、それをネットに流すことが欠徳行為だとしても」淫審處はあくまで対象物が猥褻かどうか審議、と。これぞ法治。メンツがないのは警察当局。旧正月前に愉快「犯」数名捕まへ一件落着と見栄をきつた警察副署長黄福全は今日の記者会見でも釈明は講多錯多の一派胡言(新聞は翌朝のもの)。
マカオの賭場の興隆について。マカオの賭場、グランドリスボアの入場者数は昨年、1千万人。香港の鼠楽園と海洋公園足したより多し。このグランドリスボアだけで今月の初日から十日(旧正月初四)までの売上げは7千億香港ドル。今年旧正月マカオの賭場全体の収入は21億香港ドル(300億円)。うちヴェネツィアマカオとSands Casinoがそれぞれ5億の由。

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