富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-07-26

七月廿六日(木)九龍皇帝曾?財翁今月十五日に病逝(蘋果日報)。享年八十六歳。過去半世紀九龍新界の街頭にて郵便ポスト、燈柱、電話会社の変電板、高架道の橋桁等々、公共物に「九龍皇帝」たる自らの歴史、家族故事など認ため続け警察に軽犯罪法違反で取締られること少なからず家族も自称「九龍皇帝」の彼とは疎遠に。皇帝御自ら綴られし故事に着目のWilliam?達智君が1997年にそれをプリントしてファッションショーで披露したあたりから皇帝の存在が<芸術>として認識され劉健威兄もさかんに評価し支援。アタシは「なんかちょっと違うんじゃない?」という感もあり。広東省肇慶に生まれ農夫、来港後は紗廠などに働きゴミ収積処で働いた際に巨大なゴミ処理器倒れ両足下敷きとなり、以来、足が不自由。で松葉杖で都市中を彷徨いつつ公共物への故事書きまくり。高齢での疾病の上に近年、痴呆もひどく老人院に住まい十五日の病逝。皇帝は身内のみで葬られマスコミに報じられず。が養老院の職員が某ブログに書き込んだことで下々の者知るところとなり。本日の蘋果日報は「皇帝駕崩」と報ず。「曾?財とゴッホ」という評論すらあり(言い過ぎ)。で本日早晩に久々にFCCに食す。メニューに「カツ丼」と「日式弁当」あり。カツ丼は日本食で定番メニューだが意外と手間もかかりレシピは「わからない人にはわからい」から鳥渡「怖い物見たさ」もあり。で暫し待てば出てきたお重。一瞬、感心するが蓋を開けると、一見して「こりゃイケない」。豚カツには程遠い、小麦粉も溶き卵の下拵えもなく、ただパン粉だけまぶして揚げた豚肉。しかもサラダオイルがぎとぎと。でその豚肉の下にタマネギが敷いてあるのだが、これをちょっと食してみると、タマネギを炒めて砂糖を塗しただけ。当然、出汁のしみた玉子とじになっておらず。ただ「こんなもの豚カツぢゃないっ!」ようなことは日式ではよくある話。せめて「ヘンだけど食べられる」ならいいのだが、この揚げた豚肉と甘いタマネギでなんの味もついていないのだから、ただ「不味い」。一口で残さざるを得ず。ウェイターが「これ、ダメ?」と心配顏なので「カツ丼じゃない、とかじゃないくて、味がついていない」と告げる。鳥肉のパイを食す。赤葡萄酒二杯。尖沙咀でKCRに乗り換え旺角。KCRの旺角站で乗り降りは十数年ぶり。Z嬢と待ち合せ本日初日の映画「フラガール」見るのに嘉禾の映画館。この映画館が新世紀広場というSCにあり、ショッピングセンター嫌いのアタシは此処も始めてで、よくもこれだけ同じようなSCが香港中あちこちにあるものだ、と感心。で「フラガール」の映画。アタクシにとっては幼き頃のレジャー原体験としての常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)。当時まだ常磐自動車道など当然まだ青写真のみ。マイカーで国道6号線を北上し目指すは楽し「東洋のハワイ」。幼き子供には「迷ったらもう親と遭遇できない」と観念するほどの館内の大盛況。宮崎駿の「千と千尋」に登場の湯治場「油屋」の如し。で館内はアロハシャツと浴衣で「ここはハワイじゃなくて全くもって日本」の奇景。日に何度と繰り返し上演される大目玉のフラダンスショーの舞台に上がった子供には芸をした猿の如くご褒美にバナナ配られ、バナナ輸入自由化以前はバナナほしさに舞台に上がる子も多し(アタシは恥ずかしくて)。アロハ姿の酔ったオッサンが舞台でクネクネと踊り客の笑いを引き……嗚呼、想像したくない世界。あの館内、今になってあの場を想像するに、幼き子の眼には写らぬ、もし今あの場にいたら何かと綺譚ありやなしや。ふとアタシが幼き頃の遊園地(今ならテーマパークか)を思い出す。家から歩いていけたのが柳町光男監督の『さらば愛しき大地』で根津甚八秋吉久美子の夫婦が子連れで遊ぶ偕楽園イクランド。日立のかみね公園遊園地。で常磐ハワイアンセンター。筑波のゆう・もあ村。船橋ヘルスセンター(現在、ららぽーと)など戦後そのもの。で「フラガール」の映画には思い入れもあり、すっかり愉しむ。映画の中に出てくる常磐炭鉱があまりに殺伐たる荒野の中にあり。浜通りの磐城にしては「あ〜んなしゃべりっ方、してっけぇ〜?」と当地の方が聞けば不愉快になるかも知れぬ会話。だが蒼井優始め女優のキャスティングの良さ。そして笑いあり涙あり人情あり、でいながら、この映画の最も秀逸なるところは、閉鎖も近い不況のどん底の炭坑に生まれ育った娘らが、どうフラダンスのダンサーになるか、常磐ハワイアンセンター建設をこの炭坑がどう受け止めたか、の2つに話を徹底したこと。年頃の若い娘らを主人公とするのだから、男友だちとの色恋、もあろうし、それを加味せば脚本も容易だろうに。だが娘らは宝塚の如くダンサーの如く舞台に夢中でBFのBの字も眼中になし。この設定が秀逸。それにしても上映初日から閑古鳥。隣の小屋ではハリー=ポッターだのトランスフォーマー?だの満席の映画が並ぶ中、この「フラダンサー」は百数十人収容の小屋で客は十数名のみ。この週末で終演か……と実はそれが心配で今晩の鑑賞。

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