富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

四月廿三日(月)昼過ぎに野良作業の時間がふと半時間ほど空いてしまったので散髪。何年ぶりか、と思い起こせば、日本で何度か理髪店訪れたことがあるが、それを除けば、少なくても6年ぶりくらい。ダダカンのように6年間ずっと髪を伸ばしていたわけではなく自分で整髪していたのだが、眼鏡もかけるようになり帽子の似合う髪形にしたいとほんの少し髪を伸ばしていたので、さすがに自分で整髪できず6年ぶりに中環の新文華上海理髪公司へ。年老いた理髪師が十年一日のごとく何も変わらず(ただ一人だけ引退か非番か、で見当たらず)黙って客の調髪続ける。ちょうど董建華の(あの奇妙な角刈りの)髪を切っていることで著名な師傳の手が空いており、これに当たる。音量の小さなラジオの音色、あとは客の髪を切る鋏の音だけがパチパチと響く。床屋っていいなぁ、と。文華といえばMandarin Oriental Hotelにも理髪店改装再開の由。早晩かなり久々にジムで一時間の有酸素運動。無印で小さめの整理ボックスなど購い帰宅。書斎の散らかりが目立ち気になっていたのでドライマティーニ飲みながらさっさと整理。書棚に敢えて見せようと置いてあるミニカーやライカのレンズなど覗き雑多なものを片づけ。名前失念の智利の葡萄酒とパスタ。テレビで阿部寛結婚できない男』最終回見る。赤瀬川原平『鵜の目鷹の目』少し読み臥寝。
朝日新聞の日曜の書評欄で太田越知明著『きだみのる〜自由になるためのメソッド』の紹介あり。「きだみのる」の名前を最初に見たのは子どもの頃に、いったい誰の本棚だったのかしら『気違い部落周遊旅行』の背表紙で奇妙な署名と「きだみのる」という平仮名の名前。だが実はこの人が山田吉彦という名前で『ファーブル昆虫記』の訳者であった、とずっと後になって知る。であるから子どもの頃に「きだみのる」は『ファーブル昆虫記』で彼の役を読んでいたのだ。そしてずっとこの人の名前など忘れていたのだが学生の頃に読んだ岩波文庫のレヴィ=ブリュル『未開社会の思惟』もこの人の訳。アタシにとって決定的だったのは『大陸をかける夢』だったか何かの戦前の大陸放浪の書籍の中で『モロッコ紀行』という書籍の紹介あり。ここに記すも憚られる興味深いエピソードもあり。これがあの『気違い部落』と『昆虫記』の人かと思うと関心がやたら高まり、かなり探したが入手できず今日に至る。が、その探求の過程で同氏の耽美主義的な小説『道徳を歪む者』もオンライン書店で入手。この『きだみのる〜自由になるためのメソッド』もさっそく注文する。
▼その書評欄で好きな連載が「たいせつな本」という著名人のむかし読んだ本についての随筆なのだが、それに映画評論の佐藤忠男氏が登場。香港映画祭ではアタシが今年は例年より映画見ていないからかも知れぬが佐藤氏にはついぞお会いせず、でご高齢ゆゑちょっと気になっていたがご健筆。それも、長谷川伸の『沓掛時次郎』を取り上げた。昭和3年の新国劇が翌年に大河内傳次郎主演で映画となり股旅物が流行(……とさすがに佐藤忠男もここはリアルタイムでは見ていない、が見ているように思えてしまうから)。で佐藤さんは、この「一宿一飯の恩義」の掟というものを納得したのは、と話が越南戦争に飛ぶから凄い。越南戦争の頃にアメリカにいた日本の青年が米軍に徴兵され脱走というニュースから佐藤氏は「一宿一飯とは国家の兵役制の原理なんだ」と思い当たり古い仁侠物の芝居が新しい物に見え、こういった話の筋は米映画のウィリアム=S=ハートの活劇の影響を受けている!とする。じつに痛快。さすが佐藤忠男

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