富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

三月卅日(金)教育再生会議が道徳を「徳育」だかにして教科に、と提案。1月の第一次報告では「我が国が培ってきた倫理観や規範意識を子供たちが確実に身につける」とかワケのわからぬこと宣っていたが(そもそも道徳や倫理、文化などに「我が国が培ってきた」なんてフレーズを被せることぢたい陳腐で不自然だが、敢えて「我が国が培ってきた」と言うのなら、自民党のオトーサンたちの土建文明のどこに倫理観や規範意識があろうか。とても恥ずかしくて子どもたちに「これが我が国の」とは教えられまいに)、今回は「戦前の修身のように先祖返りするのではなく、人としてどのように生きるか、他人をどう思いやるか。命あるものを尊重すること(を教えること)で環境教育にもつながる。全体主義になったり、右になったりするわけではない」と弁明(主査の白石真澄東洋大教授)。社会が荒廃しているから徳育が必要、って、テロの脅威があるから国家による安全保障の拡充が必要、街角に監視カメラも容認、と同じで、ほんとに荒廃や危機あって、なのか、何か企みがあるから荒廃や危機の強調なのか……アタシには後者としか思えず。本日。滑り込みで早晩に尖沙咀東の科学館。今晩はここで映画三本。最初は映画『檳榔』(監督:楊恆、中国、2006年)。中国の独特な方言話すどこか南方のような風景だが湘西。湖南省西部の、そう、作家・沈従文はこの湘西の鳳凰県の出。漢族、苗族、土家族など混在する土地で言葉も普通話どころかさらに西の陝西や東南の四川より更に独特な方言を話す。物語はこの湘西の小さな街にふらふらする少年らと一人の少女の日常。ビデオ作品でホワイトバランスが狂っていて終始ちょっと白けているのは意図的なのかどうか、はわからぬが、本当に淡々と日常を映すだけ。たまに恐喝したりする以外はバイクで走り回り、河を眺め煙草を吸うばかり。112分の作品だが煙草を吸っている場面が90分くらいで、本当に話の展開は30分くらい。自然にあんなに煙草を吸うか。そんなにやることがないのか。演出だとしたら退屈。結局、自由にカメラの前で振る舞っていい、と言われた少年らが手持無沙汰で煙草を勧め合う事ばかりになってしまった、ように思える。ふらふらしている若者を描いても中上健次のような若者に神聖性など見ない。魅力があるわけでもなく、それが自然といえば自然なのだが。かといってドキュメンタリーでもないし、結局、中途半端なのか……。続いて映画“Men at Work”(監督:Mani Haghighi、イラン、2006年)見る。冒頭から面白い。イランというと私らは勝手に殺伐とした中東の、イスラムだのテロだの戦争での混乱など、ばかり想像するがイランのテヘランに住む裕福で知的な中年の男四人が、山岳地帯にスキーに行くところから話は始まる。日産の高級ジープで、話題はもっぱらその晩の、ワールドカップ(たぶんアジア地区最終予選?)での母国イランの対日本戦。で山岳地帯の山道を走っていた四人が見つけたのは急な崖に立つトーテムポールのような石柱。最初は眺めているだけだったが、その石を倒せないか、崖下の谷底に落とせないか、と思案し押したり引っ張ったり、を始め、だんだんとそれに熱中しスキーに行くことも忘れ晩まで延々と……と、こう書いてしまうと面白みもないが、面白い。伊丹十三が撮ったら、もっとお笑い的な要素も入ろうが、この監督がシリアスに描くところがまた、これがいい。イランにこういう映画がある、こういう都市層がいる、とそれだけでも見た甲斐あり。さすがに疲れて帰ろうか、とも思ったが昔は映画の三本立て、なんてあったし平気だった、と思い出す。京成線の堀切菖蒲園の映画館で桃井かおりデビュー作『エロスは甘き香り』と『限りなく透明に近いブルー』と『エーゲ海に捧ぐ』の三本立て500円、とか、見たなぁ、昔は。で三本目は映画“The Elephant and the Sea”(監督:Woo Ming-jing、マレーシア、2007年)。ちょうど蔡明亮が出てくる直前のころの台湾みたいな、マレーシアはそんな映画の時期にあたる。若い華僑のこの監督の描くマレーシアは、自分の故郷であるマレーシアの田舎の華僑の街。鳥インフルエンザ水質汚染がひどく家族を亡くす者が多い。主人公の若者は兄と一緒に田舎道に釘のついた板など並べては自動車が通りかかりパンクするのを待ってパンク修理で小遣い稼ぎ。その彼は兄を疫病で亡くし、もう一人の壮年の漁師は漁に出ていた間に妻が亡くなり自宅は疫禍対策で封鎖されてしまう。漁師はシェルターに隔離され、失意の若者は淫売宿でバイクを使って客の送迎の仕事にありつく。漁師は政府からの援助金で娼婦を買い、若者は小遣い欲しさに妹を淫売宿に売る……疫禍の中の絶望的な暮らしだが、この監督のセンスの良さで実にいい映画に仕上がった。
▼香港教育学院の香港中文大学への合併吸収計画強要について。政府教育統籌局による大学再編成とメガ大学構想において中文大との合併案を教育統籌局局長らが職権乱用で強要、として教育学院の学長が提訴。政府は特別委員会を編み、この問題調査に当たるが、香港政府の現・教育統籌局長で中文大学元学長のアーサー王(Arthur 李國章)が合併案合意強要では教育学院のPaul Morris学長に対して“the institute would be raped if it does not agree to merger with Chinese University”と語った、と証言。政府の教育担当最高責任者が大学再編成問題で「言うこと聞かないならレイプするぞ」と脅すとは……。また教育統籌局長の教育学院の卒業式への来賓としての参列についても学生の中で自分に対して抗議活動などあるのなら身の危険を鑑みて出席せぬ、と表示。Morris学長はアーサー王に対して「学生は抗議文を手渡すなどするだけで危害を加えるようなものではない。学生にも発言の機会は保証されるわけで物事を自由に考えることをどうコントロールすればいいのだ」と諭すがアーサー王は「自分は率直な人間だ。先鋒に立つ。もし自分を攻撃する者がいたら自分は復讐(retaliate)する」とまるで石原慎太郎。この会話を聡明なるMorris氏は録音しており昨日の委員会でこれを暴露。さすがの厚顔アーサー王も顔を紅潮させ神妙な表情であった由。アーサー王アーサー王なら王に仕えた教統局常任秘書長のFanny羅范淑芬(現在は廉政公署 ICAC の局長とは世も末)もさすが狂気の沙汰で執拗に教育学院に合併案呑まぬのなら課程見直しなど圧力かける。このFanny羅、一連の教育「改革」の最中、重圧に耐えかねた教師が二人続けて自殺した際に「教育改革が自殺の原因ならなぜ二人だけなの?」と発言するなど政府でもその人格まで疑われる人。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/
富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/