富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-02-15

弐月十五日(木)晩に灣仔でZ嬢と待ち合せ上海三六九飯店に簡単に夕餉済ませ香港展覧会議中心にて開催の元ピンクフロイドRoger Waters香港公演に向う。今回のツアーは十二日の上海に始まり香港、ムンバイ、ドバイ。中学1年であったかピンクフロイドの「狂気」初めて聴いて以来、東京やフランクフルトでの公演をわずかな日程の都合つかず見逃し数十年を経てRoger Watersのソロであるがピンクフロイドの音楽を直に聴く感慨。客の入りは七分といったところ。ステージ前のS席と、客もよく知ったもので映像と音楽の結晶たるピンクフロイドであるし豚が飛ぶし、で最も安いB席のみが階段席で会場全体が見渡せるとあっては、この席は当然、満席(余も此処)。定刻より少し遅れて会場に入るとステージ上にはスクリーンに大道具の実物か?と見間違うほど精巧な映像で古めかしいラジオ、ウイスキーの瓶、ロックグラス、灰皿に紫煙たなびき……時々、画面に手が映りラジオのチューニングをいぢったり酒を飲んだり煙草を吸ったり……ラジオからABBAのDancing Queenが流れると、その手がとたんにチューニングを回してジャズのスタンダードに変えたり、笑わせてもくれる。で、そのラジオからピンクフロイドの曲のイントロが流れ始め20時30分ちょうどにステージ開幕。完ぺき。ピンクフロイドはShine on Your Crazy Diamondからコンサートが始まるもの、と皆が勝手にそう思っているのだが今回はThe WallからIn The Fleshで始まる。映像美も凄いがこの音響の悪いことでは定評のある会場で、というか香港でこんな音響の見事なコンサートは初。さすがこのチームの醍醐味。途中、ピンクフロイド以降のRoger Watersのソロの曲が何曲か挿入され、客は我も含め「聴いたことがない曲ばかり」でちょっと退く感あり。Leaving Beirutという題だったか新曲だ、とRWが歌った曲は中近東の今日的な悲惨な状況を歌い上げ覇権国家の、とくに米国への強烈な抗議の歌詞に客席からも大きな歓声が上がるが、あまりにストレートな物の言いぶりがピンクフロイドの哲学的で抽象的な世界からはかなり隔たりあり。途中休憩が入るのもロックのコンサートでは珍しいと思おうがRW本人も客層もみんなオジサン、オバサンであるし……。後半は聞きなれたピンクフロイドの曲がライブの定石の順番通りに演奏される。もはや変えそうがない程に出来上がった世界。映像も。数十年前からの曲を聴きながら様々なことが記憶から蘇る。中学生の時にThe Wallを学校で流したこと。ただ「ロック音楽」ということで学校でロックを流すことがいいかどうか?と怒られる。教師の誰もが(英語教師までが)このアルバムの歌詞の意を解せず。また、先帝崩御の御時に豪州のPerthに一ヶ月余滞在。ちょうどDelicate Sound of Thunderのライブ盤が発売となり、これを得て、晩に満点の星空、Perth郊外のフリーウェイを飛ばす。キメていたわけではないが、そのまま空に舞い上がりそうな気分。一曲一曲にさまざまな記憶。コンビニで買って持ち込んだWhite Horseのポケット瓶がコンサート終わるまでにすっかり空になってしまった心地よい酔い。DVDであるとかCDのライブ盤で見た通り、聴いた通りに「なぞられる」のを確かめているようなコンサートに(実際のコンサートが初めてでも)多少、食傷気味であるのは事実。たとえばクラシックでピアノならツィメルマンであれば、彼が若いころから老いるに従い同じ曲がどう解釈が積まれ円熟してゆくか、枯れてゆくか、に楽しみあり。歌右衛門、然り。アンコールもキーシンを乗せればどれだけアンコールで何の曲が飛び出すか、で沸く。が今晩の場合、どの曲が本編の最後で、豚がいつ宙を舞い、アンコールがどう始まり、あ、この曲が最後、と客もわかっているから、アンコールで最後の曲が終わると場内が暗いうちから客がさっさと席を離れるのも、ちょっと悲しいものあり。だが、総じて、この世界が21世紀のこの時代まで、ちゃんとミュージシャンとその呼応者たちによって信じられ続けていることは、まだ世の中の救い、と考えたい、と思う。
▼歌舞伎の中村扇雀が今週末の東京マラソンのフルに参加の由。

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