富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

一月卅日(火)晴。風邪で気分すぐれず。終日マスクして過す。N氏が数碼写真機でさんざん悩んだ揚げ句に佳能のPower Shot G7購入。家電というのは不思議なものでパナソニックの製品ばかりに囲まれている人もいればパナソニックが不思議と何一つない人もいる。余にとってはキャノンがそれ。とにかく何か家電であるとか数碼機器購入する時に最初からキャノンならキャノンという選択肢が一切ない。デジカメでもEOSとかIXYとかEFレンズが全然いいと思えない、のだ。G7もけして「いい」とは思わなかったが実際にN氏の実物を手にしてみると「カメラらしいカメラ」と納得。フィルムカメラの頃の味わい、シャッタースピードダイヤルや多彩なマニュアルモードなど。首からきちんと下げてお腹の上に「これはカメラです」と「中年が喜びそうな」代物。お若い方、とくに女性を全く無視したようなフィルムで育ったオトーサンたちを納得させよう、というコンセプトは正解。ただ、ファインダーを敢えて組み込んだのは評価できるが非常に視野が狭く暗くて、液晶の大きさと明るさと雲泥の差。リコーGRデジタルの場合、ファインダーはオプションで異様な外付けだが明るくて視野は広い。だがG7が5万円台というコンパクト数碼では高価なのに(ニコンD40なんて一眼で4万円だ、ボディだけだが)人気で品薄というのも納得。帰宅して白菜の鍋と鰤の塩焼き、熱燗を正一合。早々に臥床。
朝日新聞の「鶴見俊輔さんと語る」の時々連載が面白いのだが今回は詩人のアーサー=ビナード氏。鶴見氏曰く「国家社会のために頑張って」などと(国家と社会は全くことなる事象なのに)平気で口にできるのは日本で「言葉を使う前提となる理解を欠いたまま言葉を使っていること」によるもので、それが日本の政治に影響し「国家の形成より先に社会はすでにあり、国家の中にいくつもの社会はあるのに、社会をつぶして何でも国家本位になると思っている」と(中国でも言えることだが)。ビナード氏は安倍三世の「美しい国」を「美しい属国」と揶揄してみせる。
NHKテレビのETV2001で2001年1月に放映された「問われる戦時性暴力」という番組はNHKが安倍三世、中川二世の圧力で放送直前に内容が改変されたと朝日新聞が報道し「圧力かけた」とされる安倍三世らが怒り話題となったが、この番組で取り上げられた市民団体がこの内容改変について総額4千万円の賠償求め訴訟。東京地裁は制作会社に100万円の賠償支払いを命じ、今回の東京高裁の判決は「制作に携わる者の方針を離れて、国会議員などの発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度し、当たり障りのないよう番組を改編し」「憲法で保障された編集の権限を乱用または逸脱した」としてNHKに200万円の支払い命ずる(NHK側は即日上告)。判決では安倍三世が局側を呼びつけたのではなく局側のアプローチであり安倍三世が「公正・中立の立場で報道すべきではないか」と発言したことを「その意図を忖度して……」はNHK側の落ち度であり「政治家が一般論として述べた以上に本件番組に関して具体的な話や示唆をしたことまでは、認めるに足りる証拠はない」とする。安倍三世は首相官邸で記者団に「この判決ではっきりしたんじゃないですか。政治家が介入していないことが、極めて明確になったと思います」と語る。お笑い草。政治家に媚びたにせよ本来は、この番組改編についてはNHKは被害者。かりにお伺いを立てて安倍三世が「公正・中立の立場で報道すべきではないか」と宣った言葉を、ただ一般論で「その通りですね」と聞いて、言葉の暗喩、シニフィエを理解できず何もせずにいたら「アホか」の世界。中学生でも
1.安倍晋三さんは、憲法の原則に従い報道は「公正・中立の立場であるべき」と言いたかった。
2.安倍晋三さんは、番組が左傾しているから、ちょっと気をつけてほしい、と言いたかった。
3.安倍晋三さんは、NHKの受信料問題で国民のNHKの関心が高まっているから、NHKに番組制作も慎重に、と言いたかった。
の中で「正解は?」と正したら「2」が正解と大多数が思うだろうに。それを「1」と答えたのが東京高裁の裁判官だと思うと情けない。裁判では安倍三世らの言動を一般論、強要示唆は認められず、と逃げてNHKの責任論に転化とは……。まさに前述の鶴見先生の言葉ぢゃないが、政治というのは一般の言葉とは違う、その原理を裁判官が知らぬはずまるまい。例えば「正義のために」という言葉は普遍的な言葉だが、ブッシュが使えば色がつく、それくらい簡単な認識。この裁判、どうせなら原告の市民団体と被告のNHKが結託して「悪いのは政治家の報道への介入」として安倍三世と中川二世を訴えたら、原告&被告が原告に転じて、而も市民団体とNHKが首相らを控訴、という前代未聞の司法劇となるのだが……。
東京オリンピック開催前の東京が日本橋の上に高速道路を架けてしまうほど異常(ある意味では面白い)であったように2008年に向けての北京が今、可笑しい。英エコノミスト誌の北京briefingにある「ネタ」だけ写してみても
・星巴珈琲の故宮内にある支店の閉鎖(これについては我が日剰で記載済み)
・ネット使った買春組織摘発。ネットで600万人!に買春斡旋した組織が摘発受け63名のネット技術者、38名の売春婦、45名の客と5名の暴力団幹部に加え、この買春組織の医療スタッフ(避妊、コンドーム使用奨励、性病防止などを職務とする由)まで検挙される。最年少の淫売婦は15歳。
北京市政府人事部の発表によると大学新卒の採用職員(中級公務員レベル)のうち半数を教師や医療スタッフとして北京郊外の農村部に派遣。実習積ます、と。地域の実情理解と中央政府が提唱する “new socialist countryside”建設のためだとか。政府の期待では今年の500万人!の大卒者のうち30%が農村部に遣られることに。北京では20万人の大卒卒業者に対して求人が8.7万人しかなく、その対策としての「下放」政策という面もあり。
北京オリンピック開催に向けて北京市内の「悪名高き」汚い公衆便所の改善。すでに5,580か所(細かい……笑)が衛生的な水準に達しているが、市内で歩いて5分以内に1ヶ所あるという公衆便所全ての改善はかなりの難題。また市内の商業ビルだけで3,000の公用トイレがある由。北京の公衆便所というと80年代当初、地面にただ穴が開いただけの囲いすらなき悪臭漂う便所で、私ら外国人がもつ外貨兌換可のFECと人民元の闇取引の「警察が来たら捕まる」の懐かしい思い出あり。

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富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/