富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十二月十五日(金)寒々しく雨つづく。某通信社の香港特派員S氏より電話あり。明日帰国の由。数回お会いしただけに終わったがいつだったか多維新聞網を教えてくれたのはS氏で「まず蘋果日報で絵面として或るニュースを「こんなことが起きたか」と見て何紙か読んだ上で結局いま一つ背景までは何だかわからず最終的に信報の小さな記事読んで「こういうことか」と頭の中を整理する」と香港のニュースお読み方で意見が一致して笑ったのも懐かしい。もう一年どころか長い間、お会いしていなかったが律義にも帰国前日の忙しい最中に電話いただいただけでも幸甚。早晩に独りFCCに飲む。ハイボール二杯。トマトのパスタ。晩に文化中心の音楽廳にてVladimir Krainovのピアノコンサートあり観賞。先日、この日剰にも綴った香港粛邦社主催で月曜から十日連続の企画。規模的には市大会堂で十分だと思うが本日から週末の開催は文化中心。さすがに集客に難あり。ここまで強気なのもKadoorie財閥のKadoorie夫人がスポンサーゆゑ。で月曜のIlya Rashkovskiy君の師匠にあたるVladimir Krainov先生の今晩の演目はブラームスの2つのラプソディから始まる。演奏会のピアニストとしてより指導者として功績のあるクライネフ先生、まさに風格、これくらい解釈させてもらってもいいでしょう、の堂々の演奏。続いてクラリネットとチェロとピアノのための三重奏曲イ短調作品114の演奏はLondon Chamber Orchestra(LCO)クラリネットとチェロの奏者なのだがLCO in Residence in Hong Kongという紹介は一瞬「香港に住んでいるメンバー?、ってことは現役とか一軍ぢゃないのかしら」と思ったのだが、これは昨年の香港国際ピアノコンクール開催にあたり室内楽団が必要でアシュケナージ先生がLCOから何名か招聘し、その際に香港ショパンソサエティと意気投合し、これから毎年一定期間香港に滞在し演奏活動しよう、となってうまれた集団の由(こちら)。休憩でZ嬢と会う。後半はショスタコーヴィチピアノ五重奏曲ト短調作品57ひとつ。ショスタコーヴィチの有名な室内楽曲なのだがお恥ずかしながら初聴。1940年の初演はモスクワでピアノはショスタコーヴィチご本人。翌年(独逸のソ連侵攻の年)にスターリン賞受賞。LCOから二人のヴァイオリン、ヴィオラとチェロの奏者が演奏したがヴィオラのJoel Hunterという人が秀逸。五楽章編成だが第一楽章(Prelude, Lento)と第二楽章(Fugue, Adagio)はほとんど一つの章に聴こえ、クライネフ先生の真骨頂はまるでジャズピアノの如き第三楽章(Scherzo, Allegretto)で、これには客席の並びに座したIlya Rashkovskiy君もさすがに「あっしもまだまだ師匠のコレにはかなわねぇや」と祈るような表情で聴入るのが印象的。この曲、ほとんど良い意味で精神分裂(スキゾ、なんて言葉は八十年代っぽいが)。ソ連にとっては第二次世界大戦下、三十年代のスターリンの大粛清の頃では考えられぬ戦時下の自由?、この曲の、確かに第四楽章(Intermezzo, Lento)と第五楽章(Finale, Allegretto)は未来の社会主義社会建設への意欲?とか取れるのかアタシにはわからない、が、どこに社会主義「リアリズム」のあるのかしら?、と思う。アンコールで第三楽章(Scherzo, Allegretto)再演。秀逸。帰宅してDVDでピンクフロイドのPulseをDVDで観る。

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