富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

五月四日(木)昨晩十一時前には熟睡していたが朝三時に目覚めてしまう。高野山永平寺どころか修験道の世界。眠れぬといろいろ考え余計に冴えてしまい五時くらいまで読書。また一時間余寝て起きる。老人の性か。諸事忙殺され晩に至る。FCCにてハイボール一杯。美味なる青菜のサラダ。夕食はこれだけ。ジャックダニエル一杯。市大会堂にてZ嬢と待ち合せ李垂誼(Trey Lee)のチェロリサイタル聴く。ピアノはNoreen Polera嬢。33歳のチェリストは香港の音楽家の両親のもとに生まれ八歳で家族はカナダに移住。チェロ弾き始め12歳だかでバークレー音楽院に学ぶほどの器量見せるがハーバード大学の経済学部に入学したことで五年ほどチェロは余暇に奏でる生活ですっかりプロのチェリストになるような訓練からは遠ざかるが大学卒業後一旦は就職したもののチェロへの思い捨てきれずあらためて欧州にてチェリストとしての修業。一昨年の国際Antonio Janigroコンクールにて一位となり頭角現わしたという。余は全く知らぬチェリストであったが会場で会った香港大学のTK氏の話では三度目とか。曲はタルティーニの小曲で始まりブラームスソナタホ短調作品38)に続いたが音もどうも真面目な青年ぶり。小説でいえば梶井基次郎ブラームスのこのソナタなどもっと演歌だと思うのだが。音がいまひとつ響かず、会場としては香港文化中心などよかこの市大会堂の音楽庁のほうがずっとマシだとは思うのだが、曲間にしきりに調弦しており、会場の湿気も気になるところ。休息挿みポッパーのハンガリアンラプソディー、シューマンの民謡風の5つの小品op.102となるとだいぶ緊張が解けたのか演奏も大きくなる。かといって全く雑にはらなぬ技巧派。個人的には、これは本人よか楽器にかかわることだろうが今晩のチェロの音色はあまり好きになれず。トランペットのように突き抜けた音で、奏者本人の真面目さが加わるから、いい意味での曖昧さ、に欠ける。ショパンの序奏と華麗なるポロネーズハ長調、作品3)でかなり会場沸く。ソリストとしてやってゆくのか楽団の入るのか、指導者になるのか、経歴的にも難しいところで、近いところで選択をば迫られるのだろうが、指導者タイプであろう。会場には香港の音楽指導者ら少なからず。今日はもう亡くなって二十年となるが余の祖母の誕生日。明治三十六年五月四日。両親が夫婦養子で入った家の祖母で所謂「血のつながり」ないが余を育ててくれた人で誰よりも何かと思いで多し。憲法記念日と子どもの日の間で、祖母の生前はこの日は平日であった。ふと思ったが改憲するのなら記念すべき五月三日の米国押し付けの「戦後憲法」の記念日は祝日返上で平日に戻すべき。
▼二月八日の日剰の続き、となるが、在港の著名ジャーナリストClara Hollingworth(94歳)が横領詐欺に遭ったと知己のTed Thomas氏(74歳)訴えた裁判、TT氏側はCH女史が返済求めるが返済に応じぬのは、うちHK$96KはTT氏によるコンサルタント料と主張。CH女史が老人性痴呆症でまだ自分がデイリーテレグラフの特派員であると錯覚しているほどで、そのCH女史に彼女の日常生活の便宜、私財管理や運用など説明し聞き取らすために時間費やし、その時給がHK$400だそうな(呆)。あとでとってつけた方便であろうが240時間分。親友だと思って任せておれば、の竹篦返し。FCCでこの新聞記事読んでいたがラウンジの隣席がCH女史の名誉卓。かつては夕方から他の客に坐らせず常時CH女史の君臨待った席も最近はけっこう他客も坐っておりCH女史も姿あまりお見せにならず。TT氏もすっかり面目なくしたか我が物顔でいたが姿見せず。
▼香港の上場株式総額史上初の10兆香港ドル(150兆円)記録する。ちなみに東京の四分の一ほど。恒生指数も17,000を超え97年のバブル時と同じ水準に。ただしあの当時の「なんでも買えば上がる」の風潮もなく落ち着いた感じ。株価上昇も個別の株では値上がり感ないのは、結局、中国企業の香港の株式市場への参入による市場膨張ゆゑ。ところでその150兆円のうち李嘉誠の財閥による占有は7.67%に及び郭三兄弟、李兆基の三者で12.5%となる。
▼八方弟子、といっても三月に鶴瓶師匠の香港での落語に前座できた月亭八天(月亭八方の弟子)に非ず。八方弟子は44歳無職の査傳?君のニックネーム。44歳無職はニートなオジサンすぎるが自宅がビクトリアピークにある金持ちの息子であるから不自由はない。生活に不自由ないから食道楽で食通、グルメとしてちょっと評判。元祖!でぶやに出演させたいほど巨漢で愛嬌あり。お父様は、かつて香港の胡散臭き新聞界で高級紙として一世風靡の「明報」創業の社主・査良庸(庸は正確には「金」扁に旁が「庸」)、つまり中国武侠小説の大家の金庸。その八方弟子も劉健威兄なども一目置く異色の食通として数年前はちょっと注目されていたが最近そういえば噂も聞かぬと思っていたら今日の蘋果日報に「八方弟子CD万引きで逮捕」の報道。情けない(笑)。銅鑼湾HMVで88元のCD万引き。中学生じゃないんだから……、だがこれまでも携帯電話の紛失は日常茶飯事、銀行の現金引出機で現金置きわすれ、スーパーでレジでカネ払う前に食べちゃった、だの椿事珍しからず、の非常識ぶり。今回は万引きをば店内の警備員に見つかり事実認めたが「44歳の無職」という怪しさから警察に突き出されると警察では事実否認。本人曰く万引きと疑われた1枚は購入前に試聴したが已に所有すること思いだす。店内で10数枚のCDを手に徘徊。結局そのうちの2枚購入決めて支払い済ますが、試聴したその1枚もやっぱり購入と気が変わり、それはカネ払っておらぬこと忘れ手提げ鞄に仕舞ってしまった、と。罪状否認続けたが八方弟子は今は深?にお住まいだそうで警察が情状酌量する気配もないことから弁護士の説得もあり事実認めたという。一ヶ月前の話。個人の軽犯罪など本来こうして取り上げるべきでない。親が社会的に高い立場にあるからといって報道されるのも朝日新聞社長息子の大麻所持と同じ親にも子にもとんだ災難か。朝日新聞の社長が30過ぎた息子の「犯罪」で開き直ったように金庸氏もオックスフォードに遊学中ゆゑ愚息の万引きには関わらず。だが八方弟子の場合、その特異なるキャラで「44歳無職でのCD1枚の万引き」がどこか笑えるから可笑しい。
朝日新聞の社説は「天皇憲法を考える」。天皇を擔ぐことが護憲の最大の錦の御旗になろうとは。今上天皇改憲への最大の抑止力であることは確か。昔ならこれだけで安泰であるがキョービは首相とて天皇に平気で嘘をついても屁の河童の時世。

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