富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2005-10-06

十月六日(木)晴。まだ昼の気温は30度でかなり暑いが朝晩は市街歩いていても汗が流れるほどでなし。これでも一応は初秋か、と早晩に旺角でふらふらして おれば母から電話あり秋に日本に帰るのか?、直島のベネッセハウスよ り電話あり予約の再確認、と。昨年訪れた直島で(宿泊せず)今年も香港大学博物館の畏友A君主宰の秋の関西旅行あり誘われたが日程調整できず断念。A君の 依頼でベネッセハウスの宿泊予約をば半年も前にしたが途中から旅行の段取りは大阪の学術旅行など専門に扱ふ旅行代理店に任せてある筈で「なぜまだ連絡先に 私の名が?」と頭を一瞬過つたのは「ダブルブッキング?」である。予約難のベネッセハウスで而も今回は香港の誰もが知る名家一族のH氏夫妻がこの旅に加わ りベネッセハウスでも一番上等のsuite予約してあり宿泊は確か来週末だかの筈で一瞬「ゾッ……」とする。問い合わせるとやはり当初の予約の他に数日後 に代理店から予約あり。A君つかまらず大阪の代理店に電話。A君から先の予約取り消す要ありと聞いておりホテル側のミスとわかり安堵。ベネッセハウスは美 しい。だが昨年11月に宿泊室まで見る機会に与り感じたことは空疎感。洗練された建築で部屋の壁にまで有名作家たちの作品。余計なものも一切ない美は美し い。が何処か寂しさが漂ふ。旺角のお気に入りは西洋菜街の中南図書文具店。間口は二軒ほどの文房具屋であるがG階は普通の文房具店だが上二層かなり広く銀 座伊東屋と比べようとは思わぬが香港で珍しく大抵の文具入手可。ネオン看板怪しげな裏町歩き油麻地の美都餐室に食す。久々に休肝日とする。晩にCinematiqueに香港亜州電影節でイラン映画“Beautiful City”(Asghar Farhadi監督、04年)観る。16歳で女の子を殺害した少年が主人公。未成年のため感化院に入れられるが自殺企てたのも18歳になれば死刑執行され るため。それを待つ日々。そこに朗報あり友人らの努力で仮釈放。ただし助命されるには被害者遺族の控訴撤回が要る。赦しを請う少年と親友の姉が好演。日本 から見るとイランとイラクの区別もつかぬのだがイランはどこか中近東でも近きもの感じる風土なり。この映画館に併設のマイナー映画についてはかなり充実の DVD店で蔡明亮監督の『不散』を捜すと当然あつて而も李康生の『不見』と二枚一組なのは嬉しい。『不散』は04年の香港映画祭で観ているのだが不覚にも 半分は寝てしまひ見直し。ついでに『河流』とブルース=リーの死亡遊技なども香港の風景見直しのため購入。帰宅。芸術新潮に連載の橋本治「ひらがな日本美 術史」で棟方志功を読む。棟方志功が小学生の治ちゃんにとつて「まるで近くにいる知りあいの<あの人>のような」認識であつたといふ見方が非常に興味深 い。確かにどこか親近感あり、の棟方志功。私の場合なぜか小学生低学年の頃に「上野駅のコンコースの改札口上の巨大な壁画は棟方志功」と思い込んでいた節 あり。父に連れられていたのだから7、8歳。棟方志功があの独特な女性の豊満な裸体であり上野駅猪熊弦一郎の『自由』(こちら) は到底違うものなのだが恐らく上野駅の『自由』と棟方志功の版画に強烈なるインパクト受けたのが同じ時期であつたのだろう。記憶のなかで勝手にそれが合体 してしまつている。だから今でも「棟方志功」といふ名前を聞くと最初の印象は上野駅の大壁画となつてしまふから不思議。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/