八月十八日(木)晴。朝日新聞天声人語。新幹線の混乱が長引いたのは残念だ が、宮城沖の地震で犠牲者が出なかったことは不幸中の幸いであった、と。文法的には間違いぢゃない。素人なら許せるが新聞の看板コラムであると思えば言い 回しに多少不自然な点が幾つかあり。「宮城沖でM6といふ大地震が起きた。耐震建築の不備などが原因で怪我人が出て、お盆休みの帰省ラッシュに新幹線の混 乱が長引いたのは残念だったが、あの規模の地震で死者が出なかったことは幸いであった。」とかのほうが自然。大地震、死者なし、新幹線は混乱、とすれば時 系列の流れも先から後になり、不安の大きさも大きい方から小さい方に移つてゆく。天声人語子にとつては新幹線の混乱が地震より強調されすぎ、犠牲者が出な かったことを不幸なる地震の中の幸いとしているが、犠牲は「戦争、天災や事故の巻き添えなどで生命を失ったり傷ついたりすること」(広辞苑)であり仙台で プールの天井落ちるなどして怪我人が出たことは犠牲であり、地震の規模であれだけの被害で済んだことぢたいが幸いであり(不幸に非ず)但し耐震建築の不備 などで犠牲者が出たことや新幹線の混乱は巨視的には幸いに大規模な災害がなかつた今回の中で今後検討と対策が必要な2つの事例となつた、といふことを指摘 しなければいけない。このような文章展開は新聞記者にとつて基本的なこと、本多勝一の『日本語の作文技術』などでよく指摘されている論理的な文章展開の常 識なのだが。朝、駅で特急の乗車待つ間、改札口前で「安倍晋三似の年のころ三十の明らかに男」が女子高生のセーラー服の夏服姿、セーラー衿に白いブラウ ス、チェックの超ミニスカート、露な大腿にハイソックス姿でもつて恥ずかしそうに歩くのに遭遇。身長が175cm程と高く、少し羞恥心があるらしくマスク でしっかり顔を隠しているので、目立つ結果に。あれで身長が低く安倍晋三顔でも嘘でも髪形さえ長髪とはお下げにしていれば気がつかれないのだが、髪形まで 安倍晋三のままでマスクしていることで目立つのは見られるのが恥ずかしいけど見て欲しいといふ複雑な心情だろうか。敢えて朝の通勤通学時間(8月だといふ のに朝8時半頃の駅には制服姿の高校生かなり多し。どこが夏休みなのだろう)に女子高生ルックで登場するところが、いい。満員電車の中とかで「ゴリエ、痴 漢にあったらどうしよう?」気分までエンジョイだろうか。一本早い特急に間に合ふ時間で乗車変更しやうと思つたがすでに一度「乗変」しており(乗車日を一 日変更)今回は払い戻し精算の上あらためての購入となるのだが「当日ですと手数料は三割」といふJR職員の説明に驚き乗変せず。改札口前のカフェ(といつ ても巴里の駅舎を想像するべからず)で列車待ちで珈琲。店員に「おめしあがりですか?」と尋ねられ一瞬たじろぐ。おめしあがりでなければ何故、珈琲を注文 するだろうか。「こちらで」だろう「こちらでおめしあがりですか?」と言うべきなのに毎日の同じセリフの繰り返しで簡略化されてしまつた結果。簡略化され るにしても此処で飲むのかお持ち帰りかを尋ねると思えば本来は「こちらで?」のほうが質問内容としては大切。特急に乗車。D席に坐るのに廊下側のC席のオ バサンに「すみません」と声かける。立ち上がれと迄は願はぬが膝をずらすとか多少の心配りがほしいが微動だにせず。もう一度「すみません」と言うと不愉快 そうな表情される。日本人の思いやりの美徳?は何処に。自分勝手な中国人や今日のことしか考えない怠惰なタイ人の中にもこういうオバサンがいるのだろう か。憲法改正して国民の義務とか責務が謳われ教育基本法で道徳心などが強調されると、こういうオバサンはいなくなるのだろうか。自宅にあつた祖父の蔵書か ら横山大観『大観畫談』(昭和26年初版・大日本雄弁会)を持ち出し、これを読む。講談社上野から山手線で新宿。荷物引き摺つて小田急のホテルセンチュ リーサザンタワー。午前11時の投宿だが部屋に通される。最近このホテルが東京での定宿。交通の便の良さと国鉄の線路の陸橋渡れば紀 伊国屋、東急ハンズに高島屋は便利。昼前にホテル出て西武新宿駅。多摩湖に近いZ嬢の自宅訪れる。小平の駅で「テロ警戒中」に嗤ふ。アルカイダは西武遊園 地線は狙ふまい。気分は世界の中の西武線、世界の中の小平。テロに怯える社会を演出。午後遅くZ嬢 と西武線で都心に戻りZ嬢と別れ高田馬場から東西線築地経由で日比谷線で東銀座。大野屋で手ぬぐい数枚。東銀座、といへば歌舞伎座。八月でも勘三郎君の納 涼歌舞伎が日に三部興行。先月十五日に切符発売であつたが発売開始すら忘れるほどいろいろ多忙で数日後にZ嬢とようやく話したらすでに八月見事に完売。母 から某クレジットカードのメンバー特典で観劇可と知らせ受けたが昼に東京駅集合で汐留だか天王洲だかの高層ビルにある吉兆だかで食事して宝石だかの販売会 に連れていかれ、それで歌舞伎座で午後の部、とはあまりに「オバサンばかり」で遠慮。結局こういう松竹の「営業」努力で歌舞伎の切符も求め難くなる。で今 月の中村屋のこの納涼歌舞伎は久ケ原のT君が昨夕見たそうで「法界坊」の一幕目、永楽屋おくみに宛てた付け文の詮議で法界坊が失敗する件。T君の話では、 自分に有利な拾い文したと思い込む法界坊が文の名宛を客席に示して同意を得るのは常ながら串田孫一長男の演出になる今回は、勘三郎君、舞台から平場(客 席)に飛び降りてお客を色々いぢる(客に絡んでみせる)。T君はカブリ(最前列)中央にあり最後にT君のところに参つた中村屋。文を突きつけられたT君、 思わずうなづけば「大成駒の贔屓だって、そう書いてあると言ってるぢゃねえか」と大声で呼ばわつて舞台に戻って行つた、と。芝居好き冥利な話。さすが中村 屋らしさ。だが宝石販売会から流れてくるようなトウシロ同然の客に満ち満ちた歌舞伎座で「大成駒」と言つたところで果たしてどれほどの者に通ずるか。歌舞 伎座まで来て今回は築地のH君にも聯絡とらず失礼。同じ築地界隈に月本さんもあろうがこちらも失礼。惜しまれるが今晩だけでは二進も三進もいかず。銀座八 丁目の宮脇賣扇庵の出店で扇子二本。昏時、銀座通り渡り同じ八丁目のバー Brickに十数年ぶり。サントリー角でハイボール。西武線でも読み『大観畫談』読了。予想より大観翁が軽妙に語る内容が面白い。明治22 年の東京美術学校の入学が帝国憲法発布にあたり画家としての独り立ちの頃が日露戦争。大観本人も戦後のこの書物で自分が国粋的であると非難されるが、と書 いているが確かに明治のこの日本画家は国家主義的であり近代日本の繁栄に日本画家として寄与するような姿勢あり。だがやはり岡倉天心の流れで、そのナショ ナリズムに偏狭さがなく、自国のナショナリズムのために他者の卑下だの蔑視ないところが昭和の、そして平成にも及ぶナショナリズムの不健全さとは異なるも の。岡倉天心が着用する写真で有名な東京美術学校の天心先生考案の「闕掖の袍(わたいれ)の制服」だが昨日あらためてそれを見て裁判官の法衣に似ている、 と思つたが実はこれは、この本によれば、天心先生が奈良朝の昔に範をとり頭には巾冠、身には闕掖の袍を着せしめ生徒は黒色、教職員は海松色、品質にも等差 をつけ、学校長(つまり天心)は海豹の靴を穿いた、と説明があり「今日の司法官や弁護士の法服は学校(つまり東京美術学校)の制服を真似、それ(学校の制 服制定)より二、三年後れて司法部に採用された」と。初見。大観先生の九代目団十郎の芸評や六代目が大観先生に絵を習おうとした事の話など面白い。でこの 畫談の最後は大観が天心先生の薫陶を受けた「酒」の話で終わるのだから軽妙。Brickで美味いハイボール飲みながら、こんな本を読むことの楽しさ。丁度 二杯目が終わつたところで読了。もう一杯「いかがですか?」のバーテンダーの勧めを笑顔で辞して二杯目で終わる。たかだかハイボールがなぜこのバーだと美 味いのか。酒はサントリーの角だ。炭酸水の円やかさ、に秘密がある。市販の泡がきついソーダだと飲んだ瞬間に口の中で炭酸水がパチパチとうるさいのだが、 この店の炭酸水は悪く言えばガスが抜けたような、だがガスの抜けた炭酸水の不味さとは違い微妙な発泡が酒の香りを楽しませる。二杯目を注ぐ時に見ていると 炭酸水はバーのカウンターに設えられた古めかしいディスペンサーから。ずいぶん長く使われてきた特注だろうか。今どきのパブのノズルのボタン押すと水にな つたり炭酸水になるのとは違ふ。銀座らしいバーで二杯さつと飲んで1,050円。その足で和装小物の「くのや」に寄り風呂敷二枚。狭い店だが四階に案内さ れ畳間に上がり店員と一対一で風呂敷を選ぶ。余の手ぬぐいを「曝しですか?」と店員目敏く夏はこれ一枚で昼の汗から夕方の一風呂までと談義。五丁目のビル に入る甘味の若松で豆カン頬張る。トラヤ帽子店。ハンチング帽は父の遺した冬物だけで先日来港の久ケ原のT君よろしく夏物の麻地のハンチング購ふ。トラヤで「いつもありがとうございます」と常客扱い嬉しくない筈もなし。Z 嬢に教えられた四丁目のHenry Cottonは秋物で好きな色合いなし。鳩居堂でお香、線香、におひ粉、一筆戔、ポチ袋を購入。Z 嬢と待ち合せの教文館書店。四丁目の料理屋・いまむらに食す。ゆつくりと二時間。秀逸。ご主人も気さくで、ともに店に働く息子に優しく。国鉄で新宿に戻り久ケ原のT君に教えられた東口コンコースのビール屋に寄ろ うとするが混雑であきらめ、東口から南口に八十年代末にZ嬢と飲み歩いた店(全て今は高層ビルに潰される)思い出しながらホテルに帰途。十四夜の月が見 事。新宿で九時半にはホテルに戻り静かに過ごす。東京の夜景で高層ビルやタワーに設えられた赤色の点灯ランプはどうにかならぬものか、石原君。今では高層 ビルが増えホテルの窓から眺むれば池袋、水道橋、赤坂、六本木とずーっと赤色のランプが脈となり震災か空襲かでめらめらと大火に焼けるように見える。ヘリ コプターや飛行機への対策なのだろうがヘリコプターはあれぢゃランプ点灯し過ぎて目的のヘリポートも見えず飛行機で都心上空を飛ぶのはタイ航空だけ (笑)。