富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月十六日(木)雨。晩二更迄工作任務あり早晩に尖沙咀Granville Rdのさんぱちなる札幌らーめん屋にてiPodでなぜか高橋悠治氏のゴルトベルク変奏曲を聴きながら味噌ラーメン食すとスープのなかに浮かぶラーメンの麺がスープとの永遠の調和の宇宙にあり二片添えられた叉焼までもが(切れ端の鳴門は邪魔だが)和声の一部なのである。ちなみに麺はラーメンの余は知識乏しいのだが所謂「黄色い麺」で好みありかも。数件隣りの天地図書にてようやく鐘民偉氏の『暴食澳門』見つけ購入。澳門文化人の民偉氏が澳門の食肆紹介するグルメ本であるが随筆が民偉氏らしさ。素人写真も佳し。中には余の全く知らぬ美味そうな店もあれば「ここは絶対に行ってはいけない」と思える食肆もいくつかあり。いずれにせよ民偉氏の個人的好き嫌い。民偉氏の経営する石頭店の場所は知っているが未だに民偉氏や蔡瀾氏の随筆に時々出てくる「小黒明」氏の経営する雑貨屋の場所が判明せず。晩遅く帰宅する時も高橋悠治氏のゴルトベルク変奏曲を聴く。民偉氏は本のあとがきによれば小黒明が澳門で時速百キロで暴走する自動車に乗せられた時にこの世に神が存在すると痛感したそうだが、バッハがこの世にあつたこともゴルトベルク変奏曲を創造したことも、そして高橋悠治なる希有のピアニストによりこれが奏でられることも全て奇跡。帰宅。晩十二時より蹴球コンフェデ杯日本対墨西哥の試合中継あり。オッズ墨西哥に有利で日本に賭ける。明日大切な任務いくつかあり中継見終わると午前二時近くで悩むがZ嬢に観て負けたらがっかりで勝っても明日に疲れ残り観なければ明朝に勝ってラッキー、負けて観なくて良かった、ぢゃないのと諭され確かにね、とジントニック二杯飲み柳沢選手の先制点のみ観て寝てしまふ。
▼信報に連載される練乙錚氏の連載第三回(十五日)。香港の中国回帰にあたり中国は香港基本法を定め香港の制度体系が五十年不変であること、香港の主権と統治権は中国に還るが香港は高度な自治を行ふ筈であつた。だが香港と中国の最大の矛盾は香港の中国に対する負の印象であり登β小平の登場と胡耀邦趙紫陽の任用にて香港返還に向け前向きになつたものの天安門事件で負の印象が復た増大し経済開放など進んでも結局は一党専制スターリン主義から脱却できず基本法とて「法解釈」で骨抜きにされ河水が井水を犯すが如く法治も危うし。「愛国」一つとつても(共産主義国家でありながら)唯心形而上学的な感覚で、本来は人民公社が養豚で成果上げることも香港市民が国内で不動産投資することも民主化運動も全て愛国のはずが愛国=愛党で党主導に逆らへもせぬことの不幸。03年の7月1日に50万人デモまで発生させた基本法23条立法でも練氏は政府の中央政策組の中で明らかにこの立法は現状で香港政府の錯誤であり基本法の基本に戻るべき、と主張したが中央政策組のトップである劉兆佳のおらぬ席で同僚から「あまりムキになるな」と言われた、と。本日の第四回の連載で練氏が指摘するのは中国が一党専政で党への忠誠が重要視されるが香港が中国に帰属するとしても行政長官はいかなる政党にも属せず広く市民のCommon Wealth(これを「公共の福祉」と訳すことに余は疑問あり。せめて「公共の福利」のはず)のために行政主導するのが行政長官と香港政府の役目。最も大切なことは中国政府が定めた基本法に忠実であるべきことで、その基本法があるのに実は机下には別の基本法があつたり解釈によつて「リトル基本法」を何冊も作るようなその場その場の法解釈をすることが香港の市民を分断して広く市民のCommon Wealthにならぬこと、を指摘。御意。
日刊ベリタで小泉三世の大晦日に画策される靖国参拝の憶測読む。自民党内からも参拝自粛の要請あり終戦記念日前後は反響大きく参拝見合わせても小泉三世の「毎年参拝」は欠かせず前回の参拝が昨年正月で年内に参拝せねば信念全うできず。で何を画策かといへば大晦日深夜の元朝参り。大晦日でも批判あろうが少なくと正月の新聞休刊日でメディアの論陣もお屠蘇気分。靖国参拝は政治的でなく日本の伝統的習慣としての元朝参りで靖国神社に参拝した、と。中国などから強烈な批判あっても小泉三世の任期が来年九月迄であれば来年はもはや晩期で批判躱して「公約を守った首相」として勇退が小泉三世の筋書き、と。あり得る話なり。

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